↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

家のルール

 昔々あるところに、美しい星の妖精と、自由な風の精霊がおりました。


 星の妖精はお月様の子どもです。

 花のようなその姿に、あるとき風の精霊が恋をしました。


 それから――。


 その物語の続きはなんだっただろうか。

 風が花弁を連れ去って流れていく。

 ニバリスは、すっかり夜になってしまった外を眺めながら、窓を降ろした。


「母さん遅いですね。」


 いつもならニバリスが帰ってくる頃には、出来立ての料理が湯気をあげながら待っていた。

 書き置きの一つも残さないで一体どこまで行ってしまったのだろうか?


「ただいまー。」


 不意に声が聞こえる。

 ニバリスが玄関に寄ると、そこにはテスと弟たちの姿があった。


「おかえりなさい母さん。」

「ごめんなさい、いま晩御飯の支度をしますから。

 メフィはどこにいるんです?」


「お風呂です。」


 ニバリスは少し表情を明るくさせて、晩御飯の支度を手伝う。

 双子たちが一緒だということは、また学校の呼び出しだろう。


 怯えた目で父親の姿を探す様子は毎度お馴染みだ。


「おかえり。」


 しばらくすると、メフィが風呂から上がってきた。

 最初こそ明るい声だったが、双子の様子を見て段々と険しい顔つきになる。

 鋭い耳が斜めにピッと上がった。

 これはとても怒ってるときの父だ。


「メフィ、もう小言は言いました。」

「そうか……。」


 それでも暫くはピリピリとした空気が残っている。

 ニバリスは兄が怒られていた昔のことを思い出して、少し懐かしくなった。


「母さん、これ温めればいいですか?」

 

 コンロで鍋を温める。

 コトコトと音がしていい匂いがしてきた。

 なんでもこの料理は、母の生まれの味らしい。


 ニバリスはこの国の味とは違う、少し変わったスープに舌なめずりをして盛り付けた。


「今日も美味そうだな。」


 すっかり大人しい双子に変わって、メフィが料理に感想を言う。

 自慢じゃないが母の料理はそこら辺の料理人よりも美味しい。

 たぶんそうだ。きっとそうだ。


「いただきます!」


 肉の皿を前にして、やっと顔を弾ませたネイドが元気よく挨拶する。

 ウルツカは大人しく挨拶をして口に料理を運ぶと、顔を綻ばせた。


「美味しい!」


「当たり前でしょう。私は元料理人なんですから。」


 テスのいつもの嘘を子どもたちは聞き流す。

 彼はメフィと同じ孤児院で育ってから一度も働いたことはない。

 けれど、なにかと腕が立って様々なものを自分で作ってしまうのだった。


 ニバリスはテーブルの上の、レースの編み物を見る。

 これも母のお手製だし、ニバリスとウルツカの暮らしに見合わないお坊ちゃん風の服だって母が作っていた。

 

「母さん器用なんですから。

 お店でもやればいいのに。」


「私がお店をやったら、有名になっちゃうのでダメです。」


 いつもの断り文句だ。

 謙遜など一切しない。


「有名になったらテスの美しさに気づかれて、俺の手元から攫われてしまう。」


 メフィが困ったように言う。

 また始まったとニバリスは思った。

 これは惚気だ。

 結婚25年目にしていまだに熱いのが二人だった。


「いやん、メフィったら。

 メフィこそ美しすぎて私の側から離れちゃうくせに。」


 ヘラヘラとテスが笑う。

 均整の取れた涼やかな顔つきに、爽やかな金髪。

 空のような真っ青な瞳。

 地域で噂になる程度にはカッコいいのが父だ。


 それでも兄二人には敵わないが。

 毎年、贈花祭の季節になると花いっぱいになって帰ってくる。


 一方、テスはもっさりとした黒髪に伸びっぱなしの前髪。いつも分厚いメガネをかけていて、全体的にどんよりとしていた。


 極め付けはその格好だ。

 どこで買ったかわからない変な服を着ている。

 正直、ニバリスは服だけでもマトモにして欲しかったが、長年言い続けて治らないならそういうものなんだろう。


「今、失礼なこと考えてたでしょ。」


 テスがじとっとニバリスを見てくる。

 一瞬彼はドキリとしたが、お得意の無表情で乗り切った。



 ご馳走様をした後は、風呂に入る。

 茶碗洗いは当番制だが、今日は罰としてウルツカとネイドだった。


 二人は文句を言わずに洗う。

 その間にニバリスがお風呂に入って、皿を洗い終えた双子たちが次のお風呂の番だ。


 テスはいつも最後だった。


「じゃ、お風呂はいりますからねぇ。」


 鼻歌混じりにテスが告げる。

 ガラリと脱衣所のドアが閉められた。

 家には絶対のルールがある。


 その一、母さんのお風呂は覗かない。

 小さい頃から風呂に入れるのは父だけだった。

 そのくらい徹底してテスの入浴風景は子どもたちから遠ざけられている。


 母親とは言っても、男同士なんだから問題なんて一切ないがメフィの強い意向により今も守られている。


 その二、両親の部屋には入らない。

 至って普通のルールだ。

 入ろうものなら問答無用で折檻される。


 その三、絶対に有名にならないこと。

 これが変なルールで、幼い頃から目立つなと言われてきた。

 そのおかげでニバリスは大人しい青年に育っている。

 けれど、他の兄弟はちょっと違って――。


 暇になったウルツカがテレビを着けると、そこには話題のアーティストたちが出ていた。

 それ(・・)が見えた瞬間慌てて、ニバリスはテレビを消す。


 ウルツカは口を尖らせていたが、両親が見たら何を言うかわからない。


 家では基本、時事系ニュース番組以外は禁止なのだ。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。