↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/24

何も選べてない

「……それでぇ、戻って来たってことは何?

 覚悟でも決まってんの?」


 イッシュが半目でテスを見る。

 可愛らしい桃色の瞳がテスを睨んだ。


「まさか。」


 テスは厨房から持って来たグラスをかき混ぜる。

 氷がカラカラと音を立てて回った。


 ニバリスはただ二人の会話を聞いていた。

 母に兄弟がいたとは聞いてない。

 むしろ家族ができるまで天涯孤独だったと聞かされていた。


「もう少しでみんな戻ってくるよ。

 それまでに言い訳の一つでも考えておくんだね。」


 イッシュは冷たくテスに言い放つ。

 そしてメフィを見つめるとゴクリと喉を鳴らした。

 メフィはそっと目を逸らす。


「……メフィスト様も、考えておきなよ。」


 唸るようにイッシュは言う。

 それから興味はニバリスやウルツカ、ネイドに移ったようでじろじろと見てきた。


 ニバリスはつい味を知ろうと集中してしまった。


「ふぅん、ボクちゃんは味で判断するんだ。

 僕はねぇ、削って食べるんだ。」


 イッシュは指先で空をなぞる。


「こうやってちょっとずつね。」


 見破られた。

 ニバリスは瞬間的に身構える。


 無意識に一歩だけ後ずさった。

 この人は、近づいちゃいけない。

 

 イッシュはケタケタ笑うと、テスに言った。


「まだ赤ちゃんじゃん。可愛いね。」

「虐めないであげてください。」


 ウルツカとネイドは大人たちの会話を、訳がわからないというふうに見ていた。

 メフィは黙って、座っている。


 そんなとき、玄関から物音が聞こえた。


「あ、帰って来た。」


 イッシュが入口に向かう。

 扉が開くと、魚やら何やらを持った人物たちが入って来た。


「アレもこれもって持たされて大変だった。」

「仕方ないですよ〜、皆さん親切で〜。」

「ん?客が来てる?」


 ガヤガヤと騒がしい。

 ニバリスが入口を見ると、同じ顔が三人。

 気の抜けた顔でこちらを見ている。


 中性的で女性のようにも男性のようにも見えたが、身体つきから男性だと判断した。


 彼らはテスとメフィを交互に見て、それからニバリスたちを見つめた。


「こんにちは。」


 テスが片手を上げて挨拶をする。


「テル……ファトス!」


 男の一人が荷物を落とした。

 ショートカットの赤毛に、赤い目をした彼はテスに駆け寄ると抱きつく。


「ラドウィン、心配かけましたね。」


 テスが微笑んだ。

 ラドウィンと呼ばれた男はテスの肩に顔を埋める。

 それは一瞬だった。

 テスの身体が浮いたかと思うと、そのままラドウィンは仰反る。

 頭からテスを床に落として、ゴチリという鈍い音が居間に響いた。


 スープレックス。


 そんな言葉がニバリスの頭によぎった。


「一体どこで何してた!」


 ラドウィンの声が少しだけ震える。

 残りの男たちも顔色を変えて、テスを取り囲んだ。


 ウルツカがびくりと体を強張らせて、父の元に駆け寄る。


「いたた、乱暴は良しなさいな。」

「このっ!」


 ラドウィンが手をあげようとした所に、イッシュが割り込んだ。

 ニヤけ面はそのままに、まぁまぁと声をかける。


「とりあえずさ、話は後で聞こうよ。

 子どもができたんだって。」


「は?」


 男たちが素っ頓狂な声を上げる。

 そしてもう一度、ニバリスたちを見ると、穴が開くほど見つめられた。


「……。」

「ニバリス、ウルツカ、ネイドです。」


 テスがすかさず前に出る。


「こちらはラーナドウィン、ルゥイック、アルゥセゥラです。

 私の兄弟です。

 あと八人います。十三人兄弟です。」


 さらっと衝撃の真実が告げられた。

 しかしニバリスは冷静に考える。

 自身も八人(・・)兄弟の三男だったからだ。

 多いことは珍しくない。

 ――ただ種類が同じとは限らないだけで。


「……ニバリス。」


 ラドウィンが近づいてくる。

 ニバリスは少し下がった。

 しかし、距離を詰められて目前にラドウィンが迫る。


 額がつく距離まで来た。


 前髪をラドウィンの指が払う。


 ニバリスが恐怖に固まっていると、何か暖かい色が見えた。

 味わうよりも早く、その色が心に侵入してくる。

 ポカポカと胸が暖かい。


 なんだか心地が良かった。

 抱っこをせがむ子どものように感覚をねだる。

 もっと、欲しい。


 今度は“味”じゃないのに、

 それでも欲しいと思ってしまう。


「ん……。」


 ラドウィンが離れる。

 

 するりと手放されるように、感覚が離れて行った。

 もっと深く繋がっていたかったのに、とニバリスは思う。


 ――繋がる?


 一瞬、その感覚に疑問を覚えたが多福感の前に消えてしまう。

 

 ラドウィンの瞳が、じっとニバリスを覗き込む。

 測られている。

 そんな感覚が、走った。


 味で食うのも、削るのも、繋がるのも……全部自分の中にある気がした。


「赤子じゃないか、まだ。」


 ラドウィンが目を見開く。

 ルゥイックが寄って来て、ニバリスの頬を突いた。


「何も選べてない。」


 低い声がラドウィンの口から聞こえる。

 隣でルゥイックが笑う。


「赤ちゃん可愛いですぅ。

 おいで〜。ルイック叔父さんですよぉ。」


「あの……俺、二十三歳。」


「わたしは三百くらいです。たぶん。」


 冗談か本当かわからないルイックの言葉に、ニバリスは困る。

 

「ウルツカ、ネイド。

 悪いことしたらダメですからね。

 アルセラ叔父さんに食べられちゃいますからね。」


 テスが引っ付いていたネイドを、膝の上であやしながら言う。

 メフィに促されてウルツカは前に出た。

 もじもじと、服を引っ張る様子からして緊張しているようだった。


「……弱そうだな。」


 ポツリとアルセラは呟く。

 アルセラの目が、一瞬だけ“肉として測る目”に変わる。

 太い筋肉に包まれた腕が恐る恐る、ウルツカに伸びた。


「メフィスト様に似てる。」


 わしゃわしゃとウルツカを撫でて、メフィと見比べた。

 メフィは目の前に来たアルセラに、申し訳なさそうに目を逸らす。


「……オレら、メフィスト様のことは大好きだけど。

 テルファトスを連れ去ったことは許してないからな。」


 どうやら父と母にはまだまだ秘密がありそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。