帰郷
真っ青な空、白い雲。
それからそよそよと吹く風。
目を開ければ、ニバリスは別の世界にいた。
同じく、ウルツカとネイドも目を開けて窓の外を見る。
「……わあ。」
本物の緑があった。
植物園でしか見られない“木”が植えられている。
地面も人工芝ではない、初めて見る本物の草だ。
「着きました?」
「お前、こんな地面ピッタリに座標を入れるな!
ズレが起きたらどうするんだ。」
「てへ。」
テスが舌を出して、可愛く謝った。
車をゆっくりと走らせる。
外から鳥の囀りがよく聞こえてきた。
ネイドは窓に張り付いて動かない。
やがて木が密集した場所に着くと、車を浮かせて木の上を通る。
不思議な光景に子どもたちは目を奪われていた。
「道わからんぞ。久々すぎて忘れた。」
「あっちです。多分。」
テスの案内で、メフィは運転を続ける。
しばらく走っていると、白と青でできた小さな塔が見えた。
迷わずメフィはそこに向かっていく。
「先に聞いておくが、連絡は入れてきたんだろうな。」
「まさか。サプライズですよ。」
テスは笑顔で答える。
メフィは、ギョッとした顔をした。
「……お前、それはやめとけって言っただろ。」
塔に近づくと車は徐々に高度を下げる。
近づくと塔はガラスでできた細工のような建物だということがわかった。
繊細な白が、銀に縁取られ青い輝きを灯す。
塔の周りを囲むように池が一周していて、透明な青い水が綺麗だった。
車から降りたニバリスは、足の裏の草の感触を確かめるとともに大きく息を吸う。
澄んだ空気が美味しい、というのは本当のことだったようだ。
――けれど何も味がしない。
足りない、と喉が言った。
テスはトランクに入れた荷物を取り出すと、橋を渡って塔に向かう。
メフィも渋い顔をしながらテスに着いて行った。
同じように子どもたちも荷物を持って移動する。
「ありゃ、鍵開いてますね。
たく……また鍵閉めなかったな。」
テスが扉を開けると中は見た目に対して、広い作りになっていた。
やや生活感の溢れる様子にニバリスは、気劣りする。
「ただいまー。テルファトスが帰りましたよー。
誰かいないんですかー。」
ガラガラとテスがドアの側の呼び鈴を鳴らす。
その名前に、ニバリスは一瞬だけ眉をひそめた。
――誰の名前だ?
「ちぇ、誰もいないんだから。
ああ、荷物好きに置いちゃってください。
部屋は……そこの空き部屋で。」
ニバリスは言われた通りに、荷物を置く。
トゥッコネリはケージから出したあと、小さな檻に入れて様子を見ることにした。
初めての遠出で疲れたのか大分元気がない。
ウルツカとネイドも同じ部屋に割り当てられた。
多少手狭だが、部屋が広い分、気にはならない。
メフィは慣れた様子で、台所に向かう。
「料理人のキッチンだー!」
ネイドが大きな声を上げた。
ニバリスも覗くと、本格的な厨房があった。
そこには放置された料理鍋が置かれていて、どうにも料理の途中のように見えた。
火はとっくに消えているのに。
「余りいじったらダメですよ。
特に冷蔵庫は不用意に触っちゃダメです。」
後ろから声が聞こえる。
だがメフィはそれを無視して冷蔵庫から飲み物を取り出すと、コップに注いで飲んだ。
「まあ、飲み物くらいは大丈夫です。」
テスは手をひらひらさせると、子どもたちを居間に連れ戻した。
キョロキョロとウルツカとネイドは探索をしている。
二階には展望台と小さな植物園があった。
不思議な場所だとニバリスは思う。
そのときだった。
「誰⁉︎」
展望台の窓から声がする。
ニバリスが振り返ると、赤毛の可愛らしい女の子が白い羽根を広げて立っていた。
その羽は、風もないのにゆっくりと揺れている。
「わっ⁉︎」
「え、メフィスト様?違うよね?」
ニバリスの顔を見たその子は、ずいっと身を乗り出して近づいてくる。
身長はニバリスよりも小さいのに、随分と大きく見えた。
「え、似てる……てかなんかテルファトス臭い。」
鼻を引くつかせる。
「……濃いな。まさか帰って来てんの⁉︎」
彼女はバタバタと一階に降りると、テスたちを見て叫んだ。
「不法侵入者だー!」
そのままの勢いで飛びかかろうとしたところを、テスに羽交締めにされバタバタともがく。
そしてテスのメガネが外れた瞬間、あっと声を上げた。
「テルファトス!」
「お久しぶりですね、イッシュエントアンデ。」
ニバリスは一階に降りて、テスに駆け寄る。
テスは、イッシュエントアンデから手を離すと、ニコニコとニバリスを指した。
「息子のニバリスとウルツカ、ネイドです。」
「はぁ?息子ぉ?」
「こちらはイッシュ――叔父さんです。」
少し遅れて言葉が落ちた。
「私の弟です。」
ニバリスは何も言えない。
自分が、どこに来たのかようやくわかった気がした。




