おやつじゃありません
「で?何しにきたんですかヴァリス。」
「……別に。」
化粧を落としたヴァリスは別人だった。
この上ない美丈夫が家にいる。
父もカッコいいが、ヴァリスは別方向でカッコいい。
体の細い父に対して、ヴァリスはがっしりとしていた。
「なあ、ヴァリス――。」
ニバリスは自分でも気が付かないうちに、ヴァリスの名前を呼んでいた。
どうにか味を引き出したくて、先ほどから絡んでいるが一向にこちらを見ない。
それどころか。
「なんかお前、視線がおかしいな。どうした?」
ヴァリスはニバリスを切ると、出されたお茶に手をつけた。
「ニバリスちゃんはね、お年頃なの。」
「そうか?こんなに絡んでこなかったろ前は。」
メフィの冗談にヴァリスは軽く答える。
ジッとニバリスを見ると、額がくっつく距離まで顔を近づけた。
「……熱はないな。」
「普通に測れ、普通に。」
ニバリスが慌てて距離を取ると、ヴァリスは首を傾げてこちらを見る。
気持ち悪いのはヴァリスのほうだとニバリスは思った。
近づけば何かわかると思ったのに何もない。
それが無性に寂しくて、ひもじかった。
テスがニバリスとヴァリスの間に割って入る。
「?」
ヴァリスがソファの端っこに詰めた。
テスはニバリスを軽く叩くと、端に寄せさせる。
「無理に入らなくてもいいじゃないか。」
「いえ。ここがいいんです。」
テスは小指を立てて紅茶を飲むと、ニバリスを見つめた。
ニバリスはドキリとした。
まるで今の行為を咎められてるような、そんな気分になる。
「ニバリス、それはおやつじゃありませんよ。
外で覚えてきたんですか?」
ニバリスは今度こそ固まる。
母は知っている。
わかっている。
――見抜かれてる。
そう思うと急に汗が出てきた。
「そうだ。土産があった。」
話を切り替えたのはヴァリスだ。
ポケットを弄ると、チケットを五枚出して来る。
見ればそれはコンサートのチケットのようだった。
「今度、デリスとライブをする。
……見に来るつもりはないと思うが、渡せってマネージャーが。」
「えっ!デリス⁉︎」
ウルツカとネイドが反応する。
そして隠れて話を聞いていたのに、声を出してしまったことに気づいて、あっと口を開けていた。
「デリスのこと好きか?」
ヴァリスがヒラヒラとチケットを揺らすと双子の頭が合わせて揺れる。
「ダメですよ。あなた達みたいにルール破りに育ったら困ります。」
「目立っちゃダメってやつか?
は、馬鹿馬鹿しい。
あれ守ってるのニバリスだけだろ。」
「テス、困っちゃいますよ。」
「困ればいいだろう。」
ヴァリスはチケットを置くと、席を立つ。
そして玄関に向かっていった。
「それじゃあ。」
「え、もう帰っちゃうんですか?」
テスが慌ててその跡を追う。
ヴァリスは振り向くと、頷いた。
「これからランチだから。
アイツも来てないみたいだしな……まあ来るわけないか。」
ヴァリスは去っていく。
「来るなら自己責任な。」
そう言い残して。




