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でんでん伝説  作者: 彼岸花


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ごろごろかけっこ

 現れた影は、とても大きなものでした。

 幅は六メートル近いでしょうか。対して高さは一メートルちょっとと、人間より少し小さいぐらい。もしも松明の明かりがなければ、そのぐらいの事しか分からなかったでしょう。

 尤も人間達は、明かりに照らされたものが()()()()()()()だと理解するのに、少し時間が掛かっていましたが。


「な、なんだコイツは!?」


「こ、コウモリの化け物……!?」


 様々な敵と戦う事を想定している騎士団三人は、次々と困惑を言葉にします。もしやこれは夢か何かか? そう言わんばかりの戸惑いです。シャミルに至っては唖然とし、棒立ちする始末。

 状況を理解しているのは、でんでんだけでした。

 この巨大コウモリの名はヴェルパーナと言います。見た目通りコウモリの一種ですが、胴体部分を覆う体毛は鱗のようになっています。口の中には鋭い歯が生え揃っていますが、特に犬歯は長大で、人間の人差し指よりも長いです。

 足には猛禽類を彷彿とさせる、鋭い爪が生えています。翼に武器はありませんが、分厚い被膜は簡単には破れそうにありません。尻尾は長く伸び、まるで悪魔のように先端が鋭く尖っています。

 ヴェルパーナもまた、密林環境に生息する恐るべき生命体の一種です。ディーエンデンが陸の賢王ならば、ヴェルパーナは空の覇王と言えるでしょう。

 でんでんとこのヴェルパーナの力関係は、大凡互角。油断ならない相手です。


「ウジャアアアアアアアッ!」


 故に先手を取らんと、でんでんはヴェルパーナ目掛けてもたげた上半身を薙ぎ払うように振るいます。

 さながら横殴りのパンチを食らったように、ヴェルパーナの巨体が殴り飛ばされました。近くにある細い樹木に激突したヴェルパーナは、その木を粉砕して更に何メートルも転がります。


「ゴガアアアアゴォオオオオオオ!」


 しかしまるで効いてないと言わんばかりに、飛行生物らしからぬ野太い雄叫びを上げました。

 その雄叫びを上げた口で、近くにある木を咥えると、ヴェルパーナは力強く投げ付けてきます。でんでんはこれを正面から受け、平然とした姿を見せます。


「ウジャァアアアアア!」


 それから雄叫びを一つ。

 こんな小賢しい攻撃が通じると思うな! そんな強気な態度を見せ付けるように、高々と上半身をもたげました。

 二体の巨大生物達は、突然の遭遇にすぐさま適応し、戦闘を繰り広げています。


「な、なんなんだこの化け物達は!?」


「姫様! そのカタツムリから離れてください!」


「う、うん! みんなも離れてください!」


 対して人間達は突然の事態に混乱しながらも、安全を確保するため、二体の巨獣から離れようとしていました。

 彼等の対応は、決して間違いではありません。でんでんにしろヴェルパーナにしろ、その攻撃が掠るだけで人間は命を落としてしまうでしょう。可能な限り離れておくのは、普段ならば絶対そうすべき行動です。

 しかし今回、その対応は正解ではありませんでした。


「ゴギャギャアアアアア!」


 ヴェルパーナの狙いは、人間の方なのですから。

 再び飛び上がったヴェルパーナは、でんでんを大きく迂回。遠く離れた人間達の方へと飛んでいったのです。でんでんはヴェルパーナの動きに気付きましたが、飛行生物であるヴェルパーナ相手では流石に機動力で負けてしまいます。追おうとしても間に合わず。

 でんでんを追い抜いたヴェルパーナは、そのまま人間達へと迫ります。でんでんなど眼中にないと言わんばかりに。

 ――――空の覇王であるヴェルパーナですが、その気質はディーエンデンとまるで異なります。

 強敵相手に一歩も退かないディーエンデンに対し、ヴェルパーナは少し手強い程度の相手からも逃げ出すぐらい、戦いを好まないのです。鋭い牙から分かる通り生粋の捕食者ではありますが、その狙いは専ら自分よりも弱そうな動物ばかり。今回は非力な人間達を食べようとしていたのであり、でんでんと戦う気などなかったのです。

 尤も、これは捕食者として極めて正しい行動です。捕食者は他の生物を殺して食べますが、もしこの獲物がそこそこ手強い場合、戦う度に死の危険性があります。食事は毎日の行い。毎日死ぬような危険を犯すなど愚の骨頂です。

 たとえ死なずとも、怪我をするだけでも命に関わります。肉食動物は獲物と戦わねばならず、怪我をすればその戦いで全力を出せません。足などを怪我した場合、逃げる獲物を追う事も出来ないでしょう。栄養を取れなければ怪我も治らず、そのまま飢え死にします。

 圧倒的強者であるディーエンデンにとって、戦いは一種の『娯楽』に過ぎません。しかし捕食者であるヴェルパーナにとっては日々の営み。怪我や死のリスクなど負えません。だからヴェルパーナは強敵であるでんでんとは戦いたくないのです。

 逆に人間相手には本気で『戦い』を仕掛けます。これは生きるための狩りなのですから。


「なっ!? しま、ぐあっ!?」


 足先にある鋭い爪が、騎士団員の一人を襲いました。

 彼等の着込んでいた鎧が凹むほどの一撃です。攻撃された騎士団員は吹っ飛ばされ、砂浜を転がっていきます。

 しかしヴェルパーナにとってこれは不本意な結果です。本来ならば鎧を掴み、握り潰すつもりだったのですから。金属で出来た鎧は頑強で、更によく滑るため、上手くいきませんでした。

 ですが強力な一撃を叩き込んだ事は間違いなく、やられた騎士団員は砂浜の上に倒れています。二人の騎士団員が助けるためやってきますが、ヴェルパーナからすれば獲物が二体纏まってくれた状態でしかありません。


「ゴガギャアアッ!」


 大きく旋回した後、三人の騎士団員の下へとヴェルパーナは迫り――――


「ウジャアアッ!」


 その真横から、飛んできたでんでんが体当たりをお見舞いしました。

 流石に二回目の攻撃を許すほど、でんでんは遅くありません。体当たりを受けたヴェルパーナは大きく突き飛ばされ、砂浜をごろごろと転がります。


「みんな! でんでんの傍に集まりましょう! ここが一番安全です!」


 ヴェルパーナが離れたところを見計らって、シャミルはでんでんの近くに集まるよう騎士団員に伝えました。

 騎士団員達は一瞬戸惑いましたが、ヴェルパーナの危険性は先の一撃で理解しています。シャミルの言葉通り、それでいて突進などの巻添えにならないよう、でんでんの背後に集結しました。


「ウジャァア!」


 でんでんは吼え、ヴェルパーナを威嚇します。


「ゴギギギィイイ!」


 ヴェルパーナの方も翼を羽ばたかせながら飛び上がり、怒りを露わにした声を上げました。

 そしてしばし、両者は睨み合います。互いの気配を読み合い、動きを予測し、次の行動に備え……

 でんでんとヴェルパーナは、同時に動き出しました。

 互いに一直線に進み、正面からの真っ向勝負。跳ねるように突撃したでんでんは、上半身を大きく捻り、ヴェルパーナに全身を使って殴り掛かります。

 対するヴェルパーナは身体を僅かに傾けて――――これを回避。

 でんでんの攻撃を掠めるようにして、真横を通り過ぎようとします。やはりヴェルパーナはでんでんと正面から戦う気などなく、あえて攻撃を誘っていたのです。目論見は成功し、でんでん渾身の打撃はヴェルパーナの顔を少し掠めただけ。ヴェルパーナはでんでんの真横を通り過ぎました。

 そして一直線に、シャミル達人間のいる場所へと突っ込みます。


「くそっ! 姫様を守れ!」


 二人の騎士がヴェルパーナに剣を向けます。ですがヴェルパーナからすれば、獲物に少し棘が生えた程度のもの。それに今回の狙いは騎士ではありません。

 より無防備な、シャミルの方です。

 強者との戦いを避けるヴェルパーナは、本能的に騎士よりもシャミルの方が危険性が低いと判断。騎士達を大きな翼の羽ばたきで吹き飛ばしつつ、シャミルに足を差し向けました。シャミルは反射的に身を強張らせてしまい、身動きが取れません。

 ですがシャミルは幸運でした。

 身体を強張らせていた事で、結果的に攻撃時の衝撃に備えられたのが一つ。そしてもう一つは、先程でんでんの横を掠めたヴェルパーナの身体がよろめいた事です。でんでんの攻撃は直撃こそしませんでしたが、顔を掠めた際に僅かながら頭を揺さぶり、ヴェルパーナの方向感覚を狂わせました。

 これによりヴェルパーナの狙いは僅かにズレて、シャミルは恐るべき足に掴まれずに済みました。もしも掴まれていたなら、一秒と猶予もなく握られ、若い命は骨と内臓と共に潰されていたでしょう。

 ですがヴェルパーナは全く狙いが外れていた訳でもありません。ヴェルパーナ自身身体がよろめいた事を感じ、咄嗟に足を伸ばして動きの補正を試みます。

 結果、ヴェルパーナの足先がシャミルの服であるボロボロのドレスに掛かりました。

 そしてヴェルパーナに引っ張られる形で、シャミルは攫われてしまいます。


「へや!? き、きゃあああっ!?」


「ひ、姫様ぁ!?」


 ヴェルパーナに引っ張られ、離れていくシャミルを騎士達は即座に追います。ですがヴェルパーナの飛行速度は極めて速く、馬よりも上です。重たい鎧を着込んだ騎士の足では、到底追い付けません。近くに彼等の馬が待機していますが、ヴェルパーナに怯えてすっかり足が竦んでいますし、そもそも向こうの方が速いのですから追い付けません。

 ヴェルパーナはまだ本調子ではないようで、高く飛ぶ事が出来ていませんが……それも長くは続かないでしょう。空高くに行かれては、最早手の打ちようがありません。騎士達の表情が絶望に曇ります。シャミルも恐怖心から身体が固まって、動く事が出来なくなってしまいます。


「ゴカカカカッ!」


 そしてヴェルパーナは勝利を確信したように、獲物を捕まえた事を喜びます。それでも油断なく、落とす前に持ち直そうと意識をシャミルに向けました。

 戦いは最悪の形で終わったのです。

 ――――誰もがそう思っていた事でしょう。

 でんでんを除いて。


「ウジュゥウウゥウ……!」


 でんでんは怒りを露わにしました。

 怒りの理由は二つ。一つはおちょくるように飛び回った癖に、そのまま逃げようとしている事。ヴェルパーナにおちょくる気などありませんでしたが、そんな事はでんでんには関係ありません。煽るだけ煽って逃げ出すなど、なんて腹立たしい存在なのでしょうか。

 そしてもう一つは、シャミルが攫われた事。

 でんでんはシャミル(人間)の命自体はどうでも良いと考えています。ですがシャミルが攫われ、食べられたら……あの美味しいビスケットの在り処に辿り着けません。

 それだけは許せません。

 とはいえヴェルパーナの飛行速度は、馬よりも上。短距離の突撃ならば兎も角、ディーエンデンの長距離移動速度では決して追い付けないでしょう。それぐらいは、優れた視力を持つでんでんは理解しています。

 そのためでんでんは『高速移動』を行う事にしました。


「ウジュアッ!」


 でんでんは通り過ぎたヴェルパーナに背を向けます。それから貝殻の中に素早く身体をしまい込んでしまいました。

 ですが眠る時と違い、貝殻は立ったまま。それは貝殻からほんの少し外に出ている身体の一部が、砂浜の大地を踏み締めているからです。

 そして貝殻の出入口部分に、一つの筒が出てきました。

 この筒は本来、呼吸のために使われているものです。このような器官はディーエンデンのみならず、一般的なカタツムリにも備わっています。ただし普通のカタツムリはただの『穴』であるのに対し、ディーエンデンのものは筒のような構造になっているという違いがあるのですが。筒は身体を収納した今、地面の方を向いています。

 筒の奥には肺があるのですが……その肺と隣り合うように、大きな袋状の器官があります。普段であればこの器官は出入口部分が閉まった状態で萎んでいるのですが、今のでんでんはこれを膨らませ、そして激しく痙攣させ始めました。

 これは温度を上げるための反応です。激しい振動により袋状器官の内部は高温化。五十度以上まで上昇します。

 更に袋状器官の内側に、ある成分が分泌されました。

 それは巨大な糖タンパク質です。この糖タンパク質は常温下ではこれといった特徴を持ちませんが、五十度以上の高温に晒されると急速に分解が進むという性質を発揮します。

 分解時にはアミノ酸のみならず、多量の二酸化炭素と水も生成。分解時には発熱もあり、一層の高温化を引き起こします。袋内部は瞬く間に三百度もの高温に達しますが、袋状器官の組織は断熱性に優れ、この温度を外には漏らしません。

 しかし分解時に発生した水と二酸化炭素はどんどん溜まります。おまけに高温によって気体は膨張。圧力がどんどん高まっていきます。

 それを限界まで溜め込んだところで、ついにでんでんは袋の中の気体を放出しました。

 放出された気体は筒から吐き出され、その勢いによって『推進力』を生みます。でんでんの貝殻はこの推進力で浮かび上がり、ぐるんと縦方向に一回転。

 更にでんでんは噴射のタイミングを調整。一回転が終わる瞬間に再度気体を放出する事で、推進力を維持し続けます。何度も何度も転がりながら、その度に加わる噴射の勢いによってでんでんは加速していき――――

 ついにその速度は馬よりも速くなりました。

 これがディーエンデンの高速移動方法です。攻撃手段が限定される上に体力消費も大きく、あまり多用出来ない技ですが、速さだけなら折り紙付きです。

 何しろヴェルパーナとの距離を、どんどん詰めていくのですから。


「え、ええええぇえええっ!?」


「ゴギャッ!?」


 まさかの移動方法に、シャミルが驚愕しました。続けて、今までディーエンデンとまともに戦った事がなかったのでしょうか、ヴェルパーナも驚きました。

 この驚きにより、シャミルが握り潰されるのがまた少し遅れました。そしてでんでんは圧倒的な速さで、ヴェルパーナとの距離を瞬く間に詰めていきます。

 しかしこの移動方法にも弱点はあります。それはあくまでも大地を走る手法である事。いくら砂浜の砂を巻き上げ、破壊的な痕跡を残すほどの勢いで走ろうとも、空は飛べません。ヴェルパーナが空高く飛び上がれば、それだけででんでんの追跡を回避出来ます。ヴェルパーナもそれを理解しているようで、翼を力強く羽ばたかせ、高度を上げようとしました。

 ですが上手くいきません。

 シャミルを掴んでいるからです。ヴェルパーナはとても大きな生物ですが、その飛行能力を維持するため体重は非常に軽くなっています。今シャミルを掴んでいるヴェルパーナの場合、たったの百二十キロしかありません。

 翼長六メートルにしては軽過ぎると思えるかも知れませんが、翼長九メートルのプテラノドンの推定体重が僅か二十キロである事を考慮すれば、これでも重量級の部類でしょう。

 ヴェルパーナに対して、シャミルの体重は約五十キロ。成人一歩前の女子の体重としては、太り過ぎでも痩せ過ぎでもない健康的な体重です。しかしヴェルパーナの体重の四十パーセント以上もあります。

 ただでさえ飛ぶために体重を軽くしているのに、こんな重りを乗せては高く飛べません。いえ、飛べはするのですが、十分な時間が必要になります。


「ゴゥウウ……!」


 そこでヴェルパーナは進路を海側へと変えました。

 陸地を走るのは得意でも、水場は走れないだろう。そう考えての行動だったのでしょう。事実、巨大な貝殻は水場ではあまりにも抵抗が大きく、考えなしに突っ込めば馬どころか人よりも速度が落ちてしまいます。

 しかしここでもヴェルパーナの思惑は失敗に終わります。


「キシャアアアアアアッ!」


 海には獰猛な捕食者であるオルガウムが潜んでいたのです。

 海にやってきた大型動物を捕食しようと、オルガウムが海面から飛び出します。ヴェルパーナはこれに驚き、海に出る事が出来ません。

 でんでんにあっさりやられたオルガウムですが……決して弱くはありません。むしろ神経毒の一撃は、普通ならば致命的な攻撃なのです。解毒出来るディーエンデンがおかしいのであり、ヴェルパーナにとっては極めて危険な相手。おまけにオルガウムはミミズなどと同じ環形動物であり、その身体は再生能力に優れています。足や顎の欠損ぐらいなら問題なく再生するため、怪我を全く恐れません。ヴェルパーナ相手にも積極的に戦おうとするでしょう。

 こんなものを相手にしたら、命がいくらあっても足りません。

 ですから逃げるべきなのですが……かといって砂浜には、現在勢いよく並走するでんでんがいます。砂を巻き上げ、何百メートルと走っても勢いは衰えません。

 でんでんはこう考えています。「こっちに来た瞬間轢き殺してやる」と。そしてその怒りは、ヴェルパーナにも伝わったでしょう。


「キシャァアアア!」


 海面から顔を出したオルガウムも、すぐ横を泳いできます。水生生物であるオルガウムの海中移動速度は素早く、ヴェルパーナでも引き離せません。更に少しずつ躙り寄り、ヴェルパーナとの距離を詰めてきます。


「ゴ、ゴルルガルルァアア!」


 二体の凶悪な敵に挟まれたヴェルパーナは、交互に向きながら威嚇。ですがそんなもので怯むほど、でんでんもオルガウムも軟ではありません。

 少しずつ、強敵との距離を詰められるヴェルパーナ。左右に大きく広げた翼に、少しでも触れられたらお終いです。

 考え、威嚇し、羽ばたき……ヴェルパーナは決断しました。

 シャミルを手放す事を。


「へ? おぶぁ!?」


 一国の姫君はあっさり捨てられ、海に落下。ぼちゃーん、と間の抜けた音が夜の海に響き渡ります。

 そして身軽になったヴェルパーナは、今度は一気に空高く飛び上がろうとしました。


「ウジュアアッ!」


 残念ながらでんでんは、これを見逃すほど優しくありません。

 でんでんはヴェルパーナを追いながら、ちゃんと見ていたのです。目玉が付いている大触角を少しだけ伸ばし、出入口部分からほんの少しだけ外に出して観察するというやり方で。

 砂は飛んでくるわ、高速回転しているから景色は目まぐるしく変わるわ……問題も多いため、ハッキリとは見えていません。ですがヴェルパーナの大きな姿と、足に引っ掛かっていたシャミルの輪郭ぐらいは捉えていました。

 今までシャミルがいたため、迂闊に攻撃出来ませんでした。シャミルに美味しいもの(ビスケット)の場所を案内させたい、賢く聡明なでんでんは後の事をちゃんと考えられるのです。

 ですからシャミルがいなくなれば、もう手を抜く必要はありません。


「ウジャアアアッ!」


 回転走行の最中、でんでんは力強く身体を貝殻から飛び出させました。結果、砂浜を力強く蹴ったような力が発生。

 でんでんの大きな貝殻が、空高く飛び上がりました。

 これは飛行ではなくただの跳躍です。最高高度に到達次第、重力に引かれて落ちていくだけの動きに過ぎません。

 それでもヴェルパーナよりも、ほんの僅かに早く、高く上がれば十分。


「ゴ、ガ……!?」


 危機に気付いたヴェルパーナが唸ったところで、物理法則に従うだけの存在と化したでんでんは止まりません。

 総重量一・二トン。

 自身の十倍もの質量を誇るでんでんの貝殻が直撃し、ヴェルパーナの身体は呆気なく海中へと叩き落とされるのでした。

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