いのちときかいのとうそう
シャミル達を置いてきたでんでんは、猛然と大地を駆けていきます。
道中、草原にはキツネやネズミの姿も見られましたが、でんでんは彼等に気遣いなどしません。目指す方角を真っ直ぐに見据え、ひたすらに邁進するのみ。
「ウジュウゥウウ……!」
全身を使い、跳ねるように爆走するでんでんは、ついに目的の場所を目にします。
王都です。
人口十五万人を有する大都市に辿り着いた時、辺りはすっかり夕暮れとなっていました。都市の中心に王城があり、その周りを富裕層の屋敷、更にその外側に一般的な臣民の暮らす居住区があります。家の大きさは千差万別ですが、どの建物も木と煉瓦で組まれたもので、農村や漁村で一般的な掘っ立て小屋に比べれば遥かに立派です。王都に住めると言うだけで、『平民』でもそれなりの所得がある豊かな人なのです。
居住区の中には商業区画があり、売店や織物工場などが設置されていました。農場は王都を囲う防壁の外側にあり、農民達はそこで働いています。
普段なら、この時間帯になると人々は家路に着きます。酒場や宿屋、或いは夕食を提供する食事処などは賑わいますが、あくまで局所的な賑わいです。王都全体としては、一日の疲れを溜め込んだ大人達だらけの、ちょっとくたびれた、穏やかな時間と言えます。兵士達も夜勤の者を残し、家や宿舎へと帰っていきます。
ですがこの日の王都は、少し違いました。
都市を守る兵士達は忙しなく動き、眠る様子がありません。臣民はそんな兵士達を見て、不安そうな顔を浮かべています。家族が帰ってくると急いで鍵を閉め、窓のカーテンをすぐに下ろすなど警戒心を露わにしていました。
彼等の多くは、ダイガン卿が今、王城で謀反を起こしている事など知りません。
ですが少し前に城で大きな爆発が起きた事から、王や貴族に何かがあったのではないかと察していました。兵士達も国を、王や民を守るため準備していますが、肝心の王、或いは王の勅命を受けた騎士団などからの指示が来ません。持ち場を離れて聞きに行くべきか、はたまた外からの脅威に備えるべきか……兵士達の混乱は臣民にも伝わり、この国で大変な事が起きていると誰もが理解していました。
そんな大変な国を、更に大変なものがこれから襲撃します。
巨大カタツムリです。
「ウジャオオオオオオ!」
雄叫びを上げながら前進したでんでんは、眼前にそびえる防壁目指して突っ込んでいきます。
防壁は厚さ十メートルもある、石造りの構造物です。厳密には壁ではなく、細長い砦と言うべきでしょう。防壁の中には通路があり、兵士達はその中を自由に動き、敵がいる場所へと駆け付ける事が出来ます。
普段のでんでんなら、こんな大きな『壁』に挑もうなんてしません。だって硬いですし、わざわざ壊す必要もありません。目的地がその先にあるのなら、迂回すれば良いのです。
ですが今のでんでんは、とても気分が昂っています。壁を前にして迂回だなんて興醒めです。それに再生した貝殻の丈夫さを、念のため確かめる必要があります。
「な、な、なんだあれは!?」
「ば、化け物……!?」
「ウッジャアアアッ!」
防壁の上で見張りをしていた兵士達。困惑する彼等を無視して、でんでんは力いっぱい跳躍――――ぐりんと身体を傾け、貝殻から防壁への体当たりをお見舞いします。
でんでんの貝殻は、石の壁には負けませんでした。傷一つ付かず、むしろ当たった石の方を砕きます。
そしてでんでんの怪力は、防壁の防御力を上回りました。高く積み上げた石を粉砕。それでも打撃の威力は有り余り、周りの石さえも粉々にしていきます。これでも余った分は、運動エネルギーとして砕けたものを四方八方へと飛ばしました。
一言で例えるなら、まるで爆発でもしたかのように防壁の一部が吹き飛んだのです。
「ウジュジュゥウィ〜!」
壁の『中』に入り込んだでんでんは、自分の思った通りの結果に喜びます。そして更にもう一回跳躍し、今度は反対側の壁を内側から破壊。
いとも容易く、でんでんは王都への侵入を果たしました。
「きゃああああああああ!?」
「な、なんだあの化物は!?」
あまりにも派手に侵入したでんでんを前にして、人々は悲鳴を上げました。シャミル達はずっと旅をしていたので慣れていましたが、でんでんは体長三メートルもの巨大カタツムリ。造形は一般的には不気味なものです。
でんでんは人間達の悲鳴をどうとも思いませんが、ちょっと五月蝿いなぁ、とは感じていました。また、突然の『侵入者』に兵士達も集まります。でんでんがどんな存在か知らないがために、兎も角この凄まじい力を有した怪物を追い払おうとしていました。
でんでんはシャミルからビスケットをもらった事で、人間自体に悪感情はありません。ですが剣や矢で攻撃すれば、敵対者と認識する程度には賢くもあります。そしてシャミル達と兵士が別の生き物である事も分かっているため、攻撃されたなら「アイツは敵」と判断出来ます。
「お、恐れるな! あんなのは、た、ただのデカいカタツムリに過ぎない!」
ですから兵士達が鼓舞という名の言い訳をせず、さっさと戦いを挑んだなら――――でんでんは彼等を文字通り叩き潰し、人類の敵となっていたでしょう。
別にでんでんからすれば、人間達と敵対するなどどうでもよく、むしろ人間にとって不運な結果となるのですが……そういう意味では、人間にとって幸運でした。
兵士達が攻撃するよりも前に、古代兵器アヌフィスがやってきたのは。
「! ウジャアアアアアアア!」
でんでんはアヌフィスの気配を感知し、空に向けて咆哮を上げます。その仕草を目の当たりにした人間達も無意識に空を見て、そこ――――高度五十メートルほどの位置に浮かぶアヌフィスの姿を見ました。
王国の人々にとって、古代文明の存在は誰もが知っている常識です。
一部遺跡の位置や性質(兵器工事など)を除けば、王国はその存在を公表しているからです。ある程度の教育機関ならば子供達に古代文明や遺跡について話しますし、それ以前に普通は親達から色々と聞かされます。それぐらい王国にとって古代文明は身近で、そして滅亡の事実は周知されているのです。
アヌフィスが古代兵器なのは、見た目からして明らか。どんなものかは分からずとも、恐ろしいものだとは皆思っています。臣民は恐怖のあまり尻餅をつき、兵士達でさえ腰が引けていました。
「ウジュジュゥウウウウウ! ジュアアアアア!」
唯一でんでんだけが、激しい闘争心を露わにします。怯むどころか前進し、降りてこいと言わんばかりに吼えました。
しかしアヌフィスはでんでんの雄叫びを無視するように、空高く浮かぶだけ。そのまま両腕の先をでんでんに向けます。
そして強力な射撃攻撃、レールキャノンを放ってきました。
前回も繰り出した攻撃です。ですが、前回のままではありません。古代文明の高度な情報技術により、前回の戦闘データを解析。修理するのと共に、レールキャノンの改良も行われています。
結論として、でんでんとの接近戦を強いられたのはレールキャノンの威力不足が原因です。このため投入電力を増加させ、より高速で射撃を行うよう改良が施されました。レールキャノンは速度から生じる運動エネルギーで攻撃しますから、速度を上げる事で威力を増大させられます。
更に射出する弾を大きく、丈夫に改良しました。質量が増えれば運動エネルギー=威力が増加しますし、着弾時の衝撃で壊れなければ貫通力が増します。でんでんの貝殻を粉砕し、その中にある内臓を破壊するための改良……対でんでん用武装といったところでしょうか。
これらの改良は、同時に欠点も生んでいます。まず高火力を生むために多くのエネルギーが必要となり、一発撃つのに必要な充填時間が増加。つまり連射性能が低下しました。射撃時の反動が増加し、これを相殺するために飛行ブースターが大型化。重量増加に伴い加速性能と旋回性能が低下し、また時間当たりのエネルギー消費量も増加しています。玉座で飛行していなかったのも、少しでもエネルギー消費を抑えるためです。
そして弾丸の大型化により装弾数も減少。攻撃回数が一割も低下していました。
攻撃力の増強と引き換えに、速度と継戦能力が低下したのです。とはいえ飛行速度は相変わらず鳥よりも速く、弓矢や大砲程度なら当たる事は早々ありません。当たったところで、アヌフィスの装甲ならば問題なく受け止められます。攻撃以外の性能が劣化したところで、人間にどうこう出来る相手ではないのです。それに対でんでん用の改良なのですから、でんでんを倒した後には対人用にでも調整し直せば良いのです。
――――そう、でんでんを倒せたなら。
レールキャノンの弾丸は、寸分違わずでんでんの貝殻へと向かいます。でんでんの機動力でこれを躱す事は不可能。当然弾丸は命中し、
バキンッ! と激しい音を鳴らして弾かれました。
弾かれた弾丸は地面に当たり、巨大な爆発を引き起こします。その爆発を見て人間達は、誰もが大慌てで逃げ出しました。巻き添えになるだけでも命が危ういと察したのです。
「ウジュジュジュゥウィ〜」
対してでんでんは余裕綽々。何かしたのか? と言わんばかりに鳴きました。無論機械であるアヌフィスに感情なんてなく、目標が健在である事から二発目の攻撃を行います。
今度も狙いは貝殻。これもまた外れる事はなく、掠めるようでもなく、命中しました。
ですがこの弾丸も、大きな音を立てると僅かに軌道を反らし、何処かに飛んでいってしまいます。今度は防壁に命中し、一撃でその堅牢な守りを粉砕しますが……肝心のでんでんの貝殻は無傷。
「ウジュウウゥィイイ!」
でんでんは痛がる様子もなく、健在でした。全てが思った通りと言わんばかりに大はしゃぎです。
何故レールキャノンが弾かれるのか? その秘密は貝殻の『組成』にあります。
ディーエンデンの貝殻は、無数の小さな鱗状組織で形成されているのです。このパーツを組み合わせる事で、大きな貝殻を形作る訳ですが……実はこの組織、個体の意思によってある程度組み方を変えられます。
基本的には何も考えなくても、しっかり丈夫な貝殻となります。この『基本形』に対し、多少のアレンジを加えられる、というのが正確でしょう。あくまでアレンジ程度の小さな変更点……ですが表面構造となれば攻撃に対する第一の接触部分であり、その影響は極めて大きくなります。
でんでんが今回施した変更は、貝殻の表面構造に『角度』を付ける事。これにより射撃を受け流す事が出来るようになったのです。
――――ディーエンデンは賢王と呼ばれるだけの知能を持ち合わせています。即ち、それは敵の攻撃を受けた際、学習・解析が行えるという事でもあります。
ディーエンデンの暮らす森には様々な生き物がいて、ディーエンデンに匹敵する強敵は珍しくありません。幼い頃ならば特に強敵は多く、敗北する事も珍しくないでしょう。それでもどうにか生き延びたなら、ディーエンデンは戦いの経験から対策を考え、貝殻に施し……そして二度目の邂逅を果たした時、あらゆる攻撃を無効化して一方的に嬲り殺します。
これがディーエンデンという『種』が、密林最強の生物として君臨した秘訣です。それは古代文明が作り上げた超兵器相手にも、十分に機能しました。
【ピ。ピピピ……】
アヌフィスは三度目の攻撃を始めます。今度もでんでんの貝殻は攻撃を弾き、誰かの民家が吹き飛びました。
三度も起これば、これはもう偶然ではなく必然とアヌフィスも理解したでしょう。そして戦闘経験の学習・解析を行うのは、高度な機械であるアヌフィスも同じです。
長距離射撃では埒が明かないと判断したのか。アヌフィスは降下し、でんでんとの距離を詰めてきます。とはいえ十メートル以内に入る事はなく、でんでんの攻撃は届きません。
更に四発目の攻撃は、貝殻ではなくでんでんの身体に向けて行われました。
今までアヌフィスが貝殻を攻撃していたのは、身体の方は傷がすぐ再生して効果が薄いため。貝殻にダメージが通らないならば、再生するとはいえ身体を攻撃する方が合理的でした。また、いくら再生するとはいえ、決して無限の体力がある訳ではありません。何度も傷付ければ、いずれは力尽きるのです。
ただし今回は、身体に当たった弾丸も逸れていくのですが。
「ウジュッ、ジュゥウ」
今度は少し苦しそうに呻くでんでんでしたが、身体に大きな傷はなし。弾丸は近くにあった民家にぶつかり、粉々に吹き飛ばす事でその破壊力を示します。
もう一発二発と撃ち込まれますが、これも全てでんでんの身体に当たると逸れてしまいます。ただし貝殻の時と違い弾かれるようではなく、弾丸が命中した部分の皮膚が凹み、その上を滑るようにですが。
この秘密は貝殻と違い、人間の目にも確認出来るものでした。
でんでんの身体の表面には厚い、分泌液の層が出来ていたのです。この分泌液はあまり粘り気がないものでしたが、非常に滑りやすい性質を持っています。いわば潤滑油のようなもの。レールキャノンはこの分泌液によって、でんでんの表皮を滑っていたのです。
本来ディーエンデンは粘液など出しません。あまりに巨大過ぎる身体は、粘液で移動する事が出来ず、水分の無駄遣いでしかないのですから。しかし分泌能力を失った訳ではなく、強敵と認めた相手との戦いでは『鎧』として纏うのです。水分と栄養分の損失が激しく、常用は出来ませんが……ただでさえ強いディーエンデンの強さを、更に引き上げてくれます。
これならレールキャノンを百発受けようとも、致命傷には至りません。
【ピピピピピ……】
「ウジュゥウウィィイ!」
攻撃の効果がない事にアヌフィスは困惑したような音を鳴らし、でんでんは猛々しく吼えます。
――――これは、アヌフィスにとって極めて不都合な状況です。
今のアヌフィスは対でんでん用に調整されています。しかしこれはあくまでも、でんでんが来た時の『備え』です。本来の目的はダイガン卿が王権を奪取するための脅しであり、そのためには戦闘能力を維持しなければなりません。
ところが現状アヌフィスの攻撃はでんでんに通じません。おまけに火力を底上げした結果、継戦能力が低下しています。長く時間を掛け、弱らせていく戦術は使えません。人間相手ならば、アヌフィスの『身体能力』で叩きのめす事は可能でしょうが……圧倒的な火力がなければ、士気の高い騎士達は挑んでくるかも知れません。
たとえアヌフィスが破壊されずとも、弾切れになる事自体がダイガン卿にとっては敗北に等しいのです。
「ウジュゥウィィィ!」
無論、でんでんは人間側の政治的事情など知りもしません。「そんな離れたところにいないで掛かってこい!」と言わんばかりに、勇ましい雄叫びでアヌフィスに迫ります。
アヌフィスはしばし攻撃の手を止めていました。
それから、一気に加速してでんでんに肉薄。誘いに乗るかのように、肉弾戦を仕掛けてきます。筒状の腕を鈍器の如く振るい、一発の打撃をお見舞いしてきたのです。
不意打ち同然の攻撃を、でんでんは頭に受けます。ですが分泌液の効力、それと脱力した身体の柔軟さにより、打撃の威力は殆ど受け流しました。でんでんに然程ダメージは入っていません。
「ウジュアッ!」
今度はこちらの番とばかりに、でんでんは上半身を振るってアヌフィスを殴ります。力強い打撃によってアヌフィスは突き飛ばされました。
ですが、前と手応えが違う事にでんでんは気付きます。
アヌフィスに施された改良は、武装だけではありません。打撃により装甲が破損した事を踏まえ、衝撃分散機構を搭載したのです。この構造は多層構造となっており、同じ強度でも厚みがあって、飛行時の空気抵抗が増すという欠点がありますが……打撃に対する防御力は、今までよりも格段に向上しています。
更に両腕も、格闘戦用にセッティングしました。可動領域を広げる事で、より大きく、自由な打撃を放てるようにしたのです。腕の構造も改良し、強い打撃を受けても内部が破損しないよう、レールキャノンと外部装甲に隙間を用意。これにより多少腕が凹んでも、射撃能力に影響はありません。
つまり、前と違って思いっきりぶん殴れます。
【ピッ――――!】
甲高い音と共に繰り出されたアヌフィスの一撃は、でんでんの頭にかつてないほどの衝撃を与えてきました。
「ウ、ジュィ……!?」
あまりに打撃力に、でんでんは僅かに身体の動きが鈍ります。
アヌフィスの一撃が重かった、というのもありますが……殴ってきたタイミングが最悪でした。今のでんでんは分泌液により身を守っていますが、それだけでは衝撃を受け流すには不十分。身体の力を抜き、組織を柔軟にしなければなりません。
ところがでんでんは今、アヌフィスに殴りかかっていました。全身の筋肉を膨張させ、硬直させた状態。このため打撃を受け流しきれなかったのです。
しかしでんでんは百戦錬磨、容赦なしの生存競争を生き抜いてきた怪物です。この程度の痛みで怯むほど軟ではありません。
「ウジャアアッ!」
即座に反撃として、頭からの体当たりをお見舞いします。
分泌液塗れの身体がアヌフィスとぶつかり合いました。前回ならばアヌフィスを突き飛ばしていた、良い当たり方をしたのですが……アヌフィスはこれを両手で受け止めます。
更に背中の翅から、小刻みにジェットを噴射。でんでんの体当たりを巧みに相殺し、がっちりとその身体を掴んでしまいます。
「ウジゥ!? ウジュゥウウウ……!」
【ピピ……ピピピピッ】
捕まった瞬間、身体を左右に振り回そうとするでんでんですが、アヌフィスの両腕はがっちり掴んで離しません。分泌液に塗れ、滑りやすい表皮を両手の圧迫のみで固定しています。
それどころか胴体部分を大きく捻るのと同時に、翅の付け根から強烈なジェットを噴射。でんでんの身体を、振り回すような動きで持ち上げてみせました。
小さい頃なら兎も角、重さ一トン超えの巨体となってからは体感した事のない浮遊感。でんでんは未体験の感覚に惑い、身体が強張ってしまいます。
その隙を見逃してくれるほど、アヌフィスは甘くありません。
【ピッ!】
持ち上げたでんでんをぐるんと身体ごと振り回したアヌフィスは、勢い付いたところででんでんを手放しました。
振り回され、加速したでんでんの身体は、時速何百キロもの速さで飛んでいきます。
陸上生物であるディーエンデンに、空中で体勢を立て直す力はありません。投げられた時の勢いのまま、真っ直ぐ飛んだでんでんは民家に叩き付けられました。
全速力の体当たりよりも高速で投げられ、でんでんの身体に強い衝撃が走ります。ぶつかった民家に至っては粉々に砕け、爆弾でも炸裂したかのように瓦礫と粉塵が撒き散らされます。
人間の身体ならば粉々か、ぐしゃぐしゃになっているでしょう。
「ウジュゥアアアアアッ!」
それでもでんでんは残った瓦礫を吹き飛ばし、無傷の姿を露わにしました。未だ闘志は衰えず。大きな身体を左右に振るいながら、がむしゃらにアヌフィス目掛けて突っ込みます。
アヌフィスはこれもまた正面から構え、広げた両手で受け止めました。でんでんは頭から抱えられましたが、彼女の聡明な知能にとっては想定内。
受け止められた瞬間に下半身で踏ん張り、真横ではなく、放り投げるように上半身を振り上げました。
いくらアヌフィスの力が強くとも、踏ん張る力は体重により生み出されます。でんでんより遥かに小さなボディは、でんでんほど重くはありません。更に推進力となる翅からのジェットも、体当りした直後ならばでんでんの勢いを相殺するため、向き合うように噴射されています。
「ウジャアアッ!」
思惑通りアヌフィスは空高く放り投げられました。
ですが、アヌフィスはそもそも空を飛べます。
空中でくるんと身を翻したアヌフィスは、一直線にでんでん目掛けて降下。脳天に腕の先端部分を叩き付けました。
でんでんもその攻撃が来ると思い、立ち向かうように頭を振り上げます。頭突きと打撃の正面対決。
押し勝ったのは、アヌフィスの拳でした。
「ウジュィ!?」
力で押し返された事に、でんでんは驚きます。
前回よりもパワーが増している事は察していましたが、想像以上に強烈な一撃です。知性あるでんでんはアヌフィスも『体質改善』をしてくる可能性は考慮していましたが、ここまで強くなるのは予想外。
大きな打撃で僅かに動きが鈍ると、アヌフィスは更に攻撃を加えてきます。堂々と正面に立ち、でんでんの顔面を殴り付けてきました。
一発一発の威力が重く、でんでんの顔は殴られた勢いで傾いてしまいます。大きく傾いた状態から振り上げても、アヌフィスの鉄拳はでんでんの攻撃を相殺し、それでも僅かながら上回るほど強烈です。殴られる度飛び散った分泌液がアヌフィスの身体を汚しますが、機械であるアヌフィスは全く気にしていません。
【ピピ、ピピピピ】
それでもでんでんが全く倒れないでいると、更に強烈な一撃を加えるためでしょうか。アヌフィスは一際大きく片腕を振り被りました。
でんでんは、このチャンスを見逃しません。
「ウジャアッ!」
雄叫びと共に頭を振るい、同時にでんでんは大きく口を広げました。
歯舌を外に出すためです。ただ打撃を与えるだけでは駄目だと、噛み付きによって腕を潰そうとします。
ですがその動きは、アヌフィスに見切られていました。
アヌフィスは手早く、振り上げていない方の腕を動かし――――でんでんの口の中に突っ込んできたのです。
「ウブッ!?」
自ら腕を突っ込んでくる事態に、でんでんは一瞬身体を強張らせます。その僅かな隙をアヌフィスは見逃しません。
今まで鈍器として使っていた腕にエネルギーが集まります。
レールキャノンが稼働したのです。その銃口は今、でんでんの口の中……体内に突っ込まれた状態。いくらディーエンデンでも、口の中は体表面ほど丈夫ではありません。レールキャノンを受ければ、頭は粉々に吹き飛ぶでしょう。
それが分からないでんでんではありませんが、歯舌を動かして噛み潰すよりも、レールキャノンの稼働の方が速いです。古代の最先端科学が、なんの問題もなく弾丸を射出。
予想通り、粉々に砕け散る事になりました。
アヌフィスのレールキャノンが――――




