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でんでん伝説  作者: 彼岸花


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13/16

おうとらいほう

 でんでんはひたすら食べ続けました。

 でんでんはシャミル達に守られている、なんて実感を持ちません。単独生活を行うディーエンデンに、誰かが自分を守るという発想はないのですから。

 ですが問題の少なさを理解する程度には、十分な賢さも備えています。

 シャミル達が虫や鳥を追い払うお陰で、剥き出しの内臓を庇う必要はありません。その分の時間を、休息と栄養補給に費やせます。また(騎士達が交代で見張っていたお陰で)真夜中に接近する敵もいなかったため、一日中回復のために行動出来ました。

 更にシャミル達が栄養豊富な植物を傍に積み上げてくれたため、あちこち動き回る必要もありません。食べ物でとある方角に誘導されていた事など露知らず、でんでんはそこにあるものを食べ続ける事で最大効率のエネルギー摂取を行いました。

 何より、シャミル達の護衛は効果抜群。ハエなどの虫には殆ど寄生されず、鳥に食われる事もなかった身体は、とても健康に回復していきました。細胞分裂は活発に進み、貝殻に出来た大きな穴はみるみる塞がっていき……


「ウッジャァァアアッ!」


 アヌフィスとの戦いから一週間後――――力強い咆哮を上げたでんでんは、ついに完全な回復を果たしました。

 大穴を空けられた貝殻は再生し、今や傷一つない状態となったのです。


「お、おおお……!?」


「なんという生命力だ……!」


 でんでんの咆哮を浴び、傍にいた騎士達は驚嘆の声を上げます。シャミルに至っては口許に両手を当て、言葉を失っている様子です。

 あの戦いから回復したという事実から、でんでんが古代兵器アヌフィスと『互角』以上の存在であると証明されました。ダイガン卿が再びアヌフィスを用いても、でんでんならば戦えるとの確信を人間達は抱きます。

 しかしシャミル達は、不安そうでもあります。

 でんでんが、またアヌフィスと戦ってくれるか分からないからです。もう半月近く共に行動していますが、その程度の時間で分かり合えるほど異種族とのコミュニケーションは容易ではありません。そもそもでんでんは誰かと意思疎通を図ろうなんて、微塵も考えていませんでした。

 ですが、でんでんは忘れていません。

 アヌフィス――――()()()()が自分の貝殻を傷付けた事を。アイツを叩きのめさなければ気が済まないと、執念深く思っていたのです。


「ウジャウゥウウウィィイイ……!」


 貝殻が完全に治ったと考えたでんでんは、唸りながら前進を始めます。人間達が用意した植物(食べ物)の山を、邪魔だと言わんばかりに頭で薙ぎ払い、そのまま一直線に進み始めたのです。

 でんでんは一体何処を目指しているのでしょうか?

 生憎、でんでん自身にも説明は出来ません。人間達が用いる地域の呼び方なんて、でんでんは知らないのですから。ただ、戦いの時に感じた気配……アヌフィスが放つ強力な電磁波などを辿っているだけ。それがアヌフィスかどうかも確信はありません。

 しかし人間達は、でんでんが進む方角を見ただけで確信します。


「あっちは……王都だな」


「ええ」


 でんでんが見ていた方角は、王国の首都・王都がある向きでした。

 一週間も経てば、修理を終えたアヌフィスによる攻撃が始まっていてもおかしくありません。


「急ぎましょう! 此処から走れば、王都まで一日で辿り着く筈です!」


 シャミル達はこの一週間、でんでんの行動をほんの少し制御していました。

 制御といっても、王都のある方に進むよう餌となる植物の山を用意しただけですが。その植物を確実に目指すように、周辺の草を刈る(それだって餌を用意するついでにやっただけです。あまりにも人手が足りず、大掛かりな作業は出来ない状態でした)などの小細工が限度です。しかし食べる事を目的としていたでんでんは大人しく従い、結果として人間達の思惑通りの方角に前進しています。

 またでんでんは四六時中、それこそ昼夜問わず食べて、寝て、回復してを繰り返していました。そのため一度の移動距離は短いながら、一日に何度も何度も動いています。

 これらの要因により、でんでん達は既に王都からかなり近い場所まで移動していました。シャミルが言うように、一日あれば王都に辿り着けるでしょう。


「ウジャアッ!」


 ましてやでんでんの駆け足ならば、半日もあれば十分です。


「あっ!? でんでん、待って!?」


 いきなり駆け出したでんでんをシャミルは呼び止めます。が、でんでんにとってその言葉はただの物音。意味すら理解しないでんでんは、シャミル達を置いていきます。

 目指すはアヌフィス(王都)

 世界の命運を左右する、決戦の場へとでんでんは向かうのでした。






 ――――でんでんが完全回復して、少し経った頃。

 王城では、歴史の転換点が起ころうとしていました。


「やれやれ。これを前にして、まだ抵抗する気力があるとは。王の責務というやつかな?」


 ダイガン卿はふてぶてしく、尊大に、見下すように笑っています。

 彼がいるのは、王城の中でも中心部分にある玉座の間です。普段は王と貴族、或いは少数民族の政治的代表者など、一部の者にだけ立ち入りが許されるこの場は、様々な宝飾で彩られています。足下の床は大きな大理石を削って作られたもので、材料費のみならず熟練の職人が作業した事からも、その気品の高さが窺えます。道のように敷かれた絨毯は赤く美しいもので、歩くだけで気分を高揚させてくれるでしょう。

 来客をもてなすため、美しく飾られた場。ですがダイガン卿をもてなす者はいません。

 彼の視線の先にいる三人の男女など、特に強い拒絶感を露わにしていました。

 王国の要である王家の三人です。国王が最前列に立ち、王妃が息子である王子フレミアを抱き締めています。フレミアと王妃が怯え、国王が敵意の眼差しを向ける先にあるのは……ダイガン卿の傍に浮かぶ、一つの古代兵器。

 アヌフィスです。

 もしも此処にシャミル達、或いはでんでんがいたなら、アヌフィスの姿が『変化』していると気付いたでしょう。例えば背中にある翅が一回り以上大きくなった事、筒のような両腕がより太く逞しくなった事などが挙げられます。またでんでん達の前ではこれ見よがしに地上スレスレを飛んでいましたが、今回はしっかり二本の足で着地していました。

 アヌフィスの傍には五人の傭兵もいて、彼等の手にはレールガンが握られています。傭兵達の周囲には騎士団員が大勢いましたが、誰もが遠巻きに見るだけで動けない状態です。

 何故ならアヌフィスの片手が王に向けられ、一歩でも動けば王の命はないと脅されているのですから。


「くっ……くそっ……!」


 騎士達の悔しさに滲んだ声が、あちこちで聞こえてきます。

 勿論、騎士達もおめおめとダイガン卿の侵入を許した訳ではありません。いくら貴族とはいえ、堂々と『古代兵器』を横に連れていれば、誰だって怪しみます。王都を守る兵士も同じです。

 ですがアヌフィスの機動力は凄まじく、王都を囲う城壁から王城まで、瞬く間に飛翔。都市にいる兵士の頭上を通り過ぎ、堅牢な城の壁を容易く破壊。玉座まで最短最速で襲撃され、手も足も出ませんでした。

 護衛として引き連れた傭兵五人も厄介です。彼等の持つレールガンは弓よりも遥かに高威力で、なのに弓よりも早く、しかも正確に撃てます。弓を引こうとすれば、その瞬間傭兵からの反撃に遭うでしょう。

 それでも多勢に無勢ですので、犠牲を無視すればどうにかダイガン卿一行は倒せるでしょうが……ダイガン卿は玉座を襲撃してすぐに、「自分が死ねばこの古代兵器が王都を滅ぼす」と忠告しました。それが寝言でない事は、騎士の誰一人として止められなかった速さと、国で最も堅牢な壁が破られた事から明らかとなっていました。


「そこまで難しい話かな? 私に王の権力を、分け与えるというのは」


 だからこそダイガン卿は隙を晒し、堂々と王に不遜な態度を取れるのです。


「くどい。何度言われても、貴様のような輩に王権は渡さぬ」


 王は強い言葉でダイガン卿を批難します。国をも滅ぼす古代兵器を前にしても、その言葉に怯えはありませんが……後ろにいる家族に、ちらりと視線を向けていました。

 ダイガン卿は笑います。とても人当たりの良い、まるで邪気のない笑顔です。


「いやいや、私は王権の全てを寄越せと言っている訳ではないのだよ。ただ少し、ほんの少しあなたの権利を分けてほしいだけだ。そしてそれを国民に伝えるだけで良い」


「ぬかせ。余から実権を奪い、象徴化する魂胆なのは目に見えているわ。貴様に国を任せればどうなるかなど、その隣にいる機械を見れば明らかだろう」


「……まぁ、実権云々については否定しないが、これでも国の、いや、人類の発展については本気で考えているのだがね。古代文明を完全に復活させれば、我々は更なる飛躍を遂げられる」


「その飛躍の果てに文明は滅亡したではないか!」


 王が強い言葉で批判した瞬間、彼の背後で爆発が起きました。

 大きな爆発が起きたのです。それはアヌフィスの片手から発射された、レールキャノンによる破壊でした。人間を容易く粉々にする威力であり、流石の王も言葉を失います。

 ダイガン卿だけが笑っていました。目は全く笑っていませんでしたが。


「いやはや、申し訳ない。つい、そう、ついカッとなってしまってね。それについては確かに否定出来ないな。確かに古代人は大失敗したとも」


「き、貴様……」


「だが私は信じている。人間というのは過去の失敗から学べる生き物だと。古代文明が何故滅亡したのか。それを理解し、克服出来ると考えている」


 淡々と、如何にも落ち着いたような口振りでダイガン卿は語ります。

 王は感じた事でしょう。その言葉に嘘がないと。

 嘘がないからこそ厄介です。単に権力を、利権を求めているだけなら、交渉の余地もあったでしょう。様々な謀略を巡らせ、一時的に富ませて後々追い込む事もやれたかも知れません。

 ですがダイガン卿は、本当に人類のために行動しています。そこに妥協を許す余地などありません。宣言通り古代文明を復活させ、その果てに得られる繁栄こそが民の幸せだと信じているのです。

 これでは交渉の余地もありません。ダイガン卿は利権など度外視しており、人類の発展のため国を自分の好きに動かそうとしています。


「私は合理的でね。臣民に愛されているあなた達王族を『排除』する事はしたくない。敬愛する相手を奪われた民が、私の思うように動かない事ぐらいは分かるからね」


 だからこそ王との交渉――――王権の平和的な譲渡を求めているのです。多少不自然でも、王の言葉で正式に権力者となる事が、国を効率的に運用する上で欠かせないと理解していました。


「しかしあまりに強情なら、私としても不本意ながら、あなた方には王国政治の舞台から退場してもらわねばならないでしょうなぁ」


 そして国王が、王であるのと同時に一つの家族の長である事も。


「! お、王権は余のものだ! 小奴らにはなんの権限もないわ!」


「はははっ。今更家族にも厳しい暴君ぶっても無駄だ。演技が下手過ぎる。少なくとも王権剥奪後の仕事で、役者にはなれそうにないな」


 王は自分だけだと主張しても、ダイガン卿はその内心を見抜きます。王子と王妃はダイガン卿を睨みますが、なんの意味もありません。


「……お、王権を譲渡するにしても、貴族達や遠縁の王族との審議が必要だ。時間がほしい」


「ふーむ。私としても政治については理解していますので、本来なら数日ぐらいは許したいところだったのだが……ただ、あまり時間は掛けたくなくて」


「なんだと……?」


「実は厄介な相手がいてね。まぁ、既に克服済みの相手だが、だとしてもあなた達が会議中の時に来られると……」


 如何にも思わせぶりな物言いで、ダイガン卿が王を煽る……そんな時でした。


【巨大軟体動物の反応を確認】


 アヌフィスが突如として喋り出しました。

 まさか喋ると思わなかった王や騎士達は、酷く驚きました。傭兵達とダイガン卿だけが平然と、アヌフィスの方を見ます。


「おや。まさか一週間で此処までやってくるとは。想定以上の生命力だが、いや、しかし都合が良い」


「な、なんの話だ。貴様、何がこの国に来たと……」


「丁度いいので、アヌフィスの力を披露するとしよう。ああ、勿論周辺の臣民については避難させるよ。むしろここで彼等を守れば、私と古代兵器は英雄となる。うん、それが良い」


 王の言葉を一方的に遮ると、ダイガン卿はアヌフィスに視線で指示を送ります。

 アヌフィスはそれを理解し、即座に飛び立ちます。王城の壁をまた粉砕。更に飛翔する道中、警報の言葉を鳴らし続けました。


「ああ、念のため。今、私を殺してもアヌフィスはやはり暴走する。被害を減らすため、国を残すためにも、私を攻撃するのは控えてくれたまえ」


 そして意地悪く、ダイガン卿は笑います。

 王には何がなんだか分かりません。

 自分の国に、臣民を巻き込む何かが起きようとしていると、漫然と感じるだけでした。

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