表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
でんでん伝説  作者: 彼岸花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/16

ほろびのへいき

 とても強い気配だと、でんでんは思いました。

 野生動物である彼女は自らの本能に従い、昂ぶる心のままに空を見上げます。大きく伸びた角の先にある二つの目玉で、気配がする場所を凝視しました。

 その空から、何かが降りてきていました。

 途轍もない速さです。先日戦ったヴェルパーナを遥かに上回るもので、瞬く間に地上まで接近してきます。でんでんは遠くのものを見るのは苦手ですが、動体視力には優れているので、接近してくればそれの姿を観察する事は難しくありません。

 それは一見して『人型』をしていました。二本の足を持ち、二本の腕があり、垂直に立った胴体の上に頭があるのです。尤も、それを人間と誤認する事はないでしょう。表面は金属的な黒い光沢を放ち、あらゆる部分が角ばっているのですから。

 両手両足に指はなく、先端は鋭く尖っています。また(流石に遠過ぎて見えていませんが)両手の先には小さな穴が空いていました。頭部も兜でも被っているかのように角張り、人間なら目がある筈の位置には、赤い光を放つ一本の横棒型の部品が付いています。頭部には二本の、触角のような突起物がありました。

 背中にはカミキリムシの前翅に似た、硬質で細長い四枚の翅を生やしています。ただしその翅を羽ばたかせる事はなく、翅の付け根から噴き出す赤黒い光によって推進力を得ているようです。身体のバランスを取っているのは、臀部から生えている長い尻尾。身体よりも更に長く伸び、ゆらゆらと揺れるように動いています。

 『それ』は地上が迫ると減速し、ふわりと停止しました。尖った足先は地面に触れず、数センチの高さで浮かんでいます。地上ギリギリの高さだからこそ、『それ』が全長二・三メートルもの巨体を有しているとハッキリと分かります。胴体は人間よりも少し細いですが、金属的な質感と光沢を目にすれば、華奢な印象を抱く事はないでしょう。

 これこそがアヌフィス。

 古代文明が開発した、小型機動兵器の一種です。数千年前に開発された筈のそれは、まるで今さっき出来上がったと言わんばかりに傷一つなく、人間(シャミル)達にその威光を示すように佇んでいました。

 尤も、シャミルや騎士達がアヌフィスの姿に怯む事はありません。


「ウジュゥウウアアアアアッ!」


 射程圏内に入った瞬間、一瞬の隙もなくでんでんが殴り掛かったのですから。

 時速百三十キロもの速さで跳躍し、もたげた上半身を振り下ろす形で繰り出した打撃です。大猿サイタンも、怪虫オルガウムも、全部吹き飛ばした『鉄拳』がアヌフィスの胴体に叩き込まれます。

 過去の、されど人類絶頂期の遺物。

 それはぐしゃりと生々しい音を鳴らし、そして何十メートルもの距離を、蹴られた小石のような激しさで転がっていきました。


「……お? おおっ!?」


 説明する間もなく殴られて、流石のダイガン卿も驚きを露わにします。それ以上にシャミル達が目を見開き、驚いていましたが。傭兵達も仰天したのか、二人ほど尻餅をついていました。

 そんな人間達の事など、でんでんは気にもしません。

 殴り飛ばしたアヌフィス……その手応えからして、大したダメージは入っていないと、でんでんは感じたのです。数多の戦闘経験を積んできたからこそ、自分の感覚には自信があります。

 予感は的中していました。

 アヌフィスは殴り飛ばされてすぐに、空中でくるりと身を翻し、何事もなかったかのように元の姿勢へと戻ったのですから。


【ピピピピ……】


 甲高い電子音を鳴らしたアヌフィスは、猛然とでんでんに再接近。空からやってきた時同様の、猛烈な速さで肉薄し――――

 鋭く尖った腕で、でんでんの顔面を殴り返してきました。


「ウジュ……!?」


 強力な打撃に、でんでんの顔が歪みます。みしみしと肉に衝撃が伝わり、その顔が大きく仰け反ります。

 最強の猿・サイタンの一撃を受けても怯まなかったでんでんが、体勢を崩されたのです。細く、小さな身体でありながら、アヌフィスのパワーはでんでんに劣らないものと言えるでしょう。

 相手の実力を、でんでんは全身で理解しました。その大きな力によって心の中に芽生えたのは、怒りや恐怖ではありません。

 それは好奇心。

 ここまで身体が大きくなってからは会っていない、好敵手と呼べる相手との戦い――――久しぶりの高揚感を前にして、でんでんは相手の事を更に知りたくなったのです。

 軟体動物らしからぬ知性を持つがために、森の『賢王』ディーエンデンは未知の敵にも興味を抱きます。でんでんもアヌフィスがどのような敵か、どれだけ強いのか、確かめたくなってきました。


「ウジュゥウウアアッ!」


 でんでんはアヌフィスに頭突きを見舞い、そのまま前進を続けます。

 アヌフィスはこれを正面から受け止めました。両手を前に突き出してでんでんを掴み、両足で大地を踏み締め、そして翅の付け根から赤黒いものを噴射。でんでんを押し返そうとします。

 両者の押し合いは、激しいものでした。身体の動きはなくとも、アヌフィスの背中から噴き出すジェットは大地を焼き溶かし、でんでんが踏み締める地面は力によって抉れていきます。

 体格を大きく上回るでんでんに対抗するアヌフィスが凄まじいのか、古代兵器と真っ向から戦うでんでんが常軌を逸しているのか。

 どちらにしても異様な戦いであり、目の当たりにしている人間達は誰もが息を飲みます。強いて言うなら、ダイガン卿だけは楽しげな様子です。

 その戦いの拮抗は、間もなく崩れます。

 でんでんが押し始めたのです。


「ウジュゥウィイ……!」


 笑うような唸りを上げながら、でんでんは一歩、また一歩と前に進んでいきます。

 アヌフィスはその度にジェットの勢いを強めていきますが、でんでんの前進は止まりません。むしろどんどん勢い付いていきます。


「ウジュアッ!」


 最後に頭を振り上げ、アヌフィスを突き飛ばしてしまいました。

 パワーではでんでんに軍配が上がったのです。転倒したアヌフィスの上に乗ろうと、でんでんは跳び掛かります。

 しかしアヌフィスは転倒したまま、背中のジェット噴射を続けました。

 そうすれば地上スレスレを飛行し、アヌフィスは一気に離れてしまいます。アヌフィスの飛行速度は流石のでんでんも追随出来ず、でんでんの伸し掛かりは失敗。

 更にアヌフィスはくるりと回りながら浮上。体勢を立て直した上で、空高く飛び上がってしまいます。


「ウジュゥウウゥウ……!」


「はははっ! いや、これは驚いた! 馬鹿デカいだけのカタツムリと思いきや、アヌフィスを上回るパワーがあるとは! まるで――――」


 逃げてしまったアヌフィスを睨み付けるでんでんの横で、ダイガン卿が笑いました。ですがその笑い声は唐突に途切れ、僅かに口許が震えました。

 尤も、ダイガン卿の口を見ている人間など此処にはいません。誰もがでんでんの怪力と、アヌフィスのスピードに意識が向いています


「……ふむ。パワーで勝るという事は、あまり何度も攻撃されると、アヌフィスの装甲が傷付くかも知れんな。真の賢人は油断などしないもの。大凡の強さも把握したところだし、そろそろ止めといこうか」


 ダイガン卿は再び、パチンと指を鳴らします。

 それが合図でした。


【ピピピピピピ……】


 甲高い音を鳴らした、次の瞬間、アヌフィスが急速に高度を上げます。

 ざっと五十メートルは飛んでいるでしょうか。ここまで高いと、でんでんにはどうしようもありません。降りてこい! という苛立ちを伝えるようにでんでんが吼えると、アヌフィスから返事がありました。

 両手を前に突き出し、そして何かを放つという形で。

 でんでんの動体視力は非常に優秀です。ですからアヌフィスが放ってきた何かが、こちら目掛けて飛んでくる事は分かりました。尤も、分かったところでどうにも出来ません。その何かはアヌフィスの飛行速度よりもずっと速く、一直線にでんでんの下まで飛んできたのです。

 両腕から放たれた二発の何かは、でんでんの貝殻を直撃。

 瞬間、でんでんの全身を覆うほどの大爆発が起こりました。それが見掛け倒しでない事は、周囲に広がった爆風と熱量が物語ります。

 シャミル達の下にも余波は届きました。


「きゃああっ!?」


「な、なん、うわあ!?」


 シャミルは驚き、騎士達も動揺します。

 そして彼女達が乗っていた馬もパニックになり、走り出してしまいました。

 不運な事に、皆が馬から降りていたため、走り出した彼等を止める者がいません。或いは暴れ出した馬から落ちて、骨折などをせずに済んだ事を幸運と受け取るべきでしょうか。

 いずれにしても足を失ったシャミル達ですが、悠長に馬など気にしてはいられません。でんでんを襲った爆発の正体の方が、遥かに重要でしょう。


「た、大砲!? でも、そんな……」


 最初、シャミル達は大砲を疑いました。王国が持つ『武器』の中で、このような爆発を起こせるのはそれぐらいしかありません。

 ですが、大砲を撃てば大きな音が鳴り響きます。それに大砲はとても大きなもので、運搬や整備など、大人数で運用する必要があります。少なくとも近くに、大砲を運用していると思しき人影はありません。

 一体何が起きたのでしょうか。

 ……客観的に、合理的に見れば、シャミル達の疑問はあまりにも今更なものでしょう。アヌフィスが両腕を構えた瞬間、大爆発が起きたのです。たとえ放たれたものが見えずとも、アヌフィスが何かしてきたと考えるのが妥当でしょう。

 それでもまずは既知の兵器を探そうとするほど、でんでんを襲った爆発は、人間からすれば非常識な威力でした。あまりにも破滅的な、過剰なまでの攻撃なのです。

 しかしそれも当然でしょう。

 その武器の名は『レールキャノン』――――かつて古代文明で使われ、ダイガン卿によって復元されたアヌフィスの武装です。

 レールキャノンの仕組みは存外単純で、高圧電流を流す事で生成した磁力により、金属の塊を高速で射出します。本当にただこれだけなのですが、なんと射出速度が音速の数倍にも到達するのです。

 この凄まじい速さにより強力な運動エネルギーを生み出し、対象を破壊します。先程の爆発も、爆薬が炸裂したのではありません。あまりにも大きな運動エネルギーによって、発射された金属が粉砕。更に運動エネルギーの一部が熱へと変わった事で周囲の大気が膨張し、爆発現象を起こしたのです。

 本来ならばこの兵器は、アヌフィスと同じく古代兵器相手に使うべき威力です。人間相手にはあまりにも過剰で、直撃すれば肉片さえも残らないでしょう。冷静さを取り戻しつつあるシャミル達は、そのあまりの破壊力に顔を青くし始めました。

 しかしでんでんにとっては、古代のなんちゃらなんて知りませんし、知る必要もありません。

 思ったよりも手痛い一撃に、激しく闘争心を燃え上がらせるだけです。


「ウジュゥウアアアア!」


 爆炎を吹き飛ばし、でんでんはアヌフィスにその姿を見せます。

 でんでんの身体は多少焦げ付いていました。ですがその程度の傷は、活発な細胞分裂により直ちに修復してしまいます。貝殻には傷すらありません。人間なら粉々になる大爆発を、その身体は見事耐え抜いたのです。

 しかしいくら攻撃に耐えても、攻撃が届かなければ意味がありません。


【ピピ】


 アヌフィスは構えたままの両腕から、再びレールキャノンを発射します。

 レールキャノンは連射可能で、一発二発と撃ち込んでも止まりません。三発四発五発……その度に大きな爆発が起こります。


「ウジュアッ!」


 その爆発の中ででんでんは、大きく下半身を振るいました。勿論地上にいるでんでんが身体を振ったところで、高度五十メートルのアヌフィスには到底届きません。

 ですが下半身に乗せていた、大きな土塊ならば話は別です。

 空中で静止していたアヌフィスは、でんでんが放り投げた土塊の直撃を受けました。体勢は大きく崩れ、攻撃が一時的に止まります。


「ウッジャアアァッ!」


 その隙にでんでんはまた大きな土塊を投げ付けます。

 またも直撃させる事が出来ました。出来ましたが……所詮土の塊です。衝撃によって体勢は崩せても、頑丈な装甲は傷どころか凹みもしません。

 アヌフィスは改めて高度を取ると、今度は移動を始めました。

 ただしでんでんを中心にし、ぐるぐると周るような動きです。そして動きながらアヌフィスは両手を構え、レールキャノンを発射。再びでんでんの身体を爆発が襲います。

 今までアヌフィスは静止した状態で射撃していました。

 それは命中精度の問題です。静止中の射撃は正確にでんでんの貝殻に命中していましたが、今ではでんでんの身体や、或いはでんでんの近くなどに命中しています。レールキャノンの威力はアヌフィスにとっても高く、連続で撃ちながら命中させるには止まる必要があったのです。

 とはいえ全く頓珍漢な場所に飛んでいる訳ではないのですから、飛び回りながらの射撃でも大きな問題はありません。

 対してでんでんは、動かれると困ります。土塊の投擲は、大きく振りかぶって投げる必要があります。止まっている目標に対してなら、かなり正確に当てられますが……動き回る相手には困難です。しかもアヌフィスは円運動をしているため、距離感が掴み難いのも命中精度を下げます。


「ウジャジャアッ!」


 ならばとでんでんは土塊ではなく、土砂を投げ付けます。これなら広範囲に広がり、アヌフィスに命中させるのは容易いです。

 しかし纏まっていない土砂程度の質量では、最早体勢すら崩せません。生物ではないアヌフィスには、目潰し効果も期待出来ません。

 アヌフィスは次々とレールキャノンを撃ち続け、でんでんはそれに耐えるばかり。


「……ちっ」


 ですがその一方的な戦いさえも、ダイガン卿は忌まわしげに見ていました。

 するとアヌフィスの動きが変わります。

 一気に、でんでんに肉薄してきたのです。至近距離まで来たアヌフィスに一瞬驚き、すぐに頭を振るでんでんでしたが、アヌフィスは即座に横に飛んでこれを回避。

 至近距離でレールキャノンを撃ち込み始めました。


「ウジュィイイッ!?」


 これにはでんでんも呻きを上げてしまいます。

 レールキャノンの威力は速度に依存します。つまり速ければ速いほど強力です。

 そしてレールキャノンの弾丸自体には推進機構がありません。このため進めば進むほど空気抵抗により減速し、その威力を衰えさせていきます。

 『対人』であれば有効射程十キロを誇るのですが、でんでん相手には五十メートルでも不十分。ですが数メートルまで迫った上での一撃は、でんでんにとっても厳しいものとなったのです。

 射撃の衝撃で貝殻全体が振動。内臓を直に揺さぶられる気持ち悪さと、引っ掻き回される痛みがでんでんを襲います。


「ウ、ウジャアアッ!」


 それでも反撃に転じるぐらいでんでんは気迫に溢れていますが、残念ながらアヌフィスの速さの前では無意味です。躱され、真横から撃ち込まれ、翻弄されてしまいます。

 そして攻撃される度、だんだんと貝殻に変化が生じました。

 小さな、粉のような欠片が舞い始めたのです。それは貝殻が少しずつ砕けつつある証。身体は再生しても、貝殻の方は簡単には治りません。

 少しずつ、確実に削られていく貝殻。

 貝殻の中にあるのは内臓です。いくらディーエンデンでも、内臓を傷付けられれば致命的なダメージとなります。でんでん自身それを理解しており、アヌフィスを追い払おうと身体を滅茶苦茶に振り回しますが、苦し紛れにしかなりません。

 やがて、ピシリと貝殻の一部にヒビが入りました。


【ピ――――】


 アヌフィスはこれを見逃しません。ヒビの入った側へと素早く回り込みながら、でんでんへと肉薄。でんでんは身体を強張らせ、身動きが取れません。

 超至近距離で、アヌフィスのレールキャノンが火を噴きました。

 とびきり大きな威力が、でんでんの貝殻に伝わります。頑強な、これまでどんな攻撃にも耐えてきた貝殻が……ついに、砕けました。爆発に混ざって無数の破片が飛び散ります。

 そして貝殻に守られていた内臓が露出。アヌフィスはすかさずレールキャノンの二射目を用意


「ウジャアッ!」


 した瞬間、でんでんが反撃します。

 賢いでんでんはアヌフィスの動きを読んでいたのです。貝殻にヒビが入れば、必ずそちら側をまた攻めると。

 そこででんでんは身体に力を溜め込み、アヌフィスが来るのを待ち構えていました。読み通り貝殻のヒビ割れ部分に来たアヌフィスに、でんでんは渾身の力で下半身を叩き込みます。

 思った通りの場所にいて、存分に溜め込んだ一撃です。今までの打撃とは比にならません。

 バキバキと、砕けるような手応えがありました。

 ついにアヌフィスの装甲を砕いたのです。このままぶっ潰してやる――――大凡そんな思考を抱くでんでんでしたが、ここで身体の力が抜けてしまいます。

 貝殻が割れた事で、内臓の支えが不完全だったのです。湧き上がる不快感によって力が入らず、最後まで身体を押し出す事が出来ません。

 半端な力で出来た事は、アヌフィスを突き飛ばすところまででした。しかしアヌフィスの方も軽傷ではなく、吹き飛ばされた勢いで地面を転がった際、装甲がバラバラと飛び散ります。


【ピピピピピピ……!】


 起き上がったアヌフィスは、腹部が大きく破損。中の部品やコードが露出していました。


「よ、傭兵達! レーンガンであのカタツムリを……」


「させません!」


 それを見たダイガン卿は傭兵(持っていた筒状の武器はレールガンというものでした。基本的な仕組みはレールキャノンと同じですが人間が携帯出来るよう小型化しています)を参加させようとして、その前にシャミル達が間に割って入ります。


「傭兵がでんでんの攻撃を始めたら、騎士達がダイガン卿の首を刎ねます。人手が足りないならわたくし自身が石でも使って、あなたの頭を殴ります」


「あの化け物カタツムリの強さは見ただろう? 内臓を失ったところで、しばらくは暴れ続けるだろうな。それと、お前の傭兵達に土を投げ付けるぐらいは出来るんじゃないか?」


「たとえカタツムリが死んでも、次は俺達がいる。あの遺物の強度がどの程度かは知らんが……中身に対してなら、剣で引っ掻き回せば壊れるだろうな」


 シャミル達は次々と脅しの言葉を掛けていきます。いえ、本気でやるつもりがあるという意味では、脅しではなく宣告です。アヌフィスを止めるためなら命を捨てる……シャミル含めて全員が覚悟を決めていました。

 対する傭兵達は戸惑います。でんでんが遠距離攻撃するところは見ていますし、その強さもひしひしと感じています。レールガンで援護したところで、呆気なく殺されると思ったのでしょう。

 ダイガン卿も傭兵達をけしかけようとはしません。アヌフィスの中身が露出し、危険な状態なのは揺るがない事実。でんでんと刺し違える事は十分あり得ますし、極端な話シャミルが生身でアヌフィスの内部に入り込んでコードを引き千切れば、それだけで壊れるでしょう。

 修理なら兎も角、完全に破壊されれば、今の人類では直せる見込みがありません。


「……いやはや! まさかここまでの強敵とは! 確かにこれ以上やると壊されかねないな!」


 それを冷静に認識出来るのが、ダイガン卿でした。


「ここは一旦退くとしよう。馬を失ったあなた達では、王国に一週間は掛かる筈。それだけ時間があれば、アヌフィスの修理は問題なく完了するからね」


「っ! まっ……」


「では、さようなら」


 ダイガン卿がそう言うや、アヌフィスが猛烈な速さでダイガン卿に迫ります。そして服を掴むと、悠々とダイガン卿を持ち上げ、空高く飛び上がりました。


「傭兵達も退かせるとしよう。ああ、あなた達も攻撃はしない方が良いぞ。彼等の武器だって、十分強いからな」


 忠告するように言い残して、ダイガン卿とアヌフィスは何処かへと飛んでいってしまいます。

 傭兵達も、でんでんや騎士達を警戒しながら退却を始めました。彼等は金で雇われただけの集団。無理に戦う必要性はなく、ダイガン卿の指示とあれば大人しく引き下がります。

 騎士もシャミルも、戦おうとはしません。この状況で勝てると思うほど、彼等は無謀でなければワガママでもないのですから。


「ウジュウウィイイイアアアアアッ!」


 唯一でんでんだけが、勝ち逃げするアヌフィスに向けて勇ましく吼えるのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ