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でんでん伝説  作者: 彼岸花


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あかされるいんぼー

 草原地帯は、とても開けた環境です。人間ほど大きな生き物からすれば、遮蔽物のない環境と言えます。

 ですから数百メートル先を歩く『人影』の集まりが、シャミルの目にはとてもハッキリ見えた事でしょう。人数は五人ほど。馬などは連れていません。


「……旅人、かしら?」


「いえ、その可能性は低そうです。正確な位置は分かりかねますが、彼等が来た方角に農村や集落はなかったと思います」


「というより、もしも彼等が真っ直ぐ歩いているなら……エブラムス遺跡から来た事になりませんか?」


 騎士の一人が発した言葉に、シャミル達は表情を強張らせます。

 エブラムス遺跡。

 それは王国が存在を把握している、古代遺跡の一つです。遺跡としては小規模なものですが、一つ、見逃せない特徴があります。

 それは軍事兵器が多数ある事。

 エブラムス遺跡は、古代において兵器工場として使われていたと考えられています。何かの攻撃を受けたのか、遺跡の大部分が崩壊し、遺物も殆ど破損しているのですが……一部、無事なものも確認されています。

 古代文明滅亡の理由は諸説ありますが、戦争や内紛による自滅は有力な仮説の一つです。戦争であれば当然武器は使われたでしょう。見方を変えれば、古代文明の兵器は、自らを滅ぼしかねないほど強力なものかも知れません。

 それは今の、衰退した人類にはあまりにも過剰な力です。万一復元なんてしたら、古代文明の二の舞となりかねません。そのため王国では厳重に封印し、調査をする際には監査役の騎士を同行させるなど様々な制約を課しています。

 そして遺跡調査の許可は王族が出していますが、現在その管理はシャミルとフレミアの二人で行っていました。


「……ここ最近で、わたくしがあの遺跡の調査を許可した事はありません。お兄様が許可したという話も聞いていません」


「つまり姫様がいない混乱状態の王国で何故か許可されたか、無断調査という事ですね」


「なんとも胡散臭いですね……でも、失礼ながらあの遺跡を調査して何かあるんですかね?」


 騎士の一人からの問いに、シャミルは答えられません。確かに、と表情が物語るぐらいです。

 古代兵器は、確かに禁忌の力かも知れません。復元されれば世界を滅ぼす可能性があるでしょう。

 しかし、では王国の目を盗んで復元すれば世界征服が出来るか、と言われると、そう簡単な話でもありません。何故なら古代兵器の多くは、エネルギー切れで動かないからです。日用品と違い兵器には特別な動力が必要らしく、これを用意しなければなりませんが、採掘される動力源はごく僅か。入手は極めて困難です。

 その動力源は見付け次第王国が回収し、厳重に保管しています。このため調査済みの遺跡にあるのは、エネルギー切れの兵器だけ。エブラムス遺跡も例外ではなく、動かない兵器しか残されていません。


「何を、企んでいるのでしょうか」


 その奇妙さに、シャミルは不安を強く感じ始めているようでした。


「ウシャ、ウシャ、ウシャ」


 なお、でんでんは話に興味もありません。今も草を食べるのに夢中で、シャミル達の事は片目で追跡するだけ。

 ただしもう片方の目は、その怪しい人影に向いていました。

 ディーエンデンの優れた視力でも、流石に何百メートルも離れた人影をハッキリ見る事は出来ません。むしろ離れたものを見る能力に関しては、ディーエンデンより人間の方が上です。木々が茂る熱帯雨林で、遠くまで見通すような視力は必要ないのですから。正直でんでんの目には、なんとなーく、何かがいる程度にしか見えていません。

 そんな曖昧な姿に対し、何か思うところがある訳もなく。でんでんは草を食み続けます。


「……少し、話し掛けてみましょう。もしもただの王国民なら、国の様子についても聞きたいです」


「了解です」


 しかしシャミル達は人影に関心を抱き、そちらに駆け寄る事としました。

 シャミル達は馬を走らせます。そこそこ本気で走らせた馬の速さは、時速五十キロほど。異世界の競走馬(サラブレッド)の最高速度が時速七十キロ程度である事を考えれば、かなりの速さです。

 しかしその速さであっても、でんでんは追随可能です。

 シャミル達が速く動いたのを見て、でんでんも走ります。全身の筋肉を躍動させ、跳ねるような動きを繰り返す事で疾走するのです。その速さは最高で時速百三十キロ。サラブレッドを遥かに上回る、怪物的な速さと言えるでしょう。

 今回はシャミル達の後を追うのが目的なので、最高速度は出しません。ですが三メートル超えの巨大カタツムリが、大きな貝殻を揺らしながら迫る姿は圧巻です。

 でんでんを前にした人影達が驚き、ざわめくのも仕方ない事でしょう。


「待ちなさい! わたくしは王国第一王姫のシャミルです!」


 シャミルが大きな声で彼等に呼び掛けなければ、人影達は逃げていたかも知れません。

 人影達は足を止め、シャミル達と向き合います。馬を走らせてきたシャミル一行は彼等の前で立ち止まり、でんでんもシャミルのすぐ後ろで止まりました。

 でんでんは人間自体に然程興味はありませんが、間近までくれば流石に姿ぐらいは確認します。

 人影は五人の人間でした。

 いずれも草原に溶け込むような、やや緑がかった大きな布(ローブ)を被っています。顔は一人を除いて荒くれ者らしい強面の、それでいて立派な体躯をした男達です。

 人間文化なんて露ほども知らないでんでんには分かりませんが……シャミルや騎士達は気付いた事でしょう。彼等が傭兵である事に。

 傭兵は主に金で雇われ、武力行使込みの仕事を依頼される人々です。野生動物や野盗から身を守るために雇われる、という事が多く、必ずしも『悪人』ではありません。とはいえ仕事柄、犯罪行為に関わる者が多いのも事実です。

 ましてやこの傭兵達は、緑のローブを着込んでいます。出来るだけ発見されないよう、身を隠しているのは間違いありません。獣に狙われないようにする、などの名目があるにしても、怪しさを感じずにはいられないでしょう。

 そして。


「……まさかこんなところでお会いするとは思いませんでしたよ、ダイガン卿」


 そこに新興貴族であるダイガン卿がいたとなれば、怪しさは確信へと変わっていきます。

 被っていたローブを脱ぎ、その男は顔を見せます。

 穏やかな老紳士といった風体の彼は、間違いなくダイガン卿でした。人当たりの良い笑みを浮かべ、心から感激していると言わんばかりに目を潤ませています。


「おおお……姫様……! 生きておられたのですね……!」


 そして開いた口から出た言葉は、純粋な喜びに満ちていました。

 何一つ邪心を感じさせない顔と態度です。尤も、政治の世界において顔と心が一致しない事など珍しくもありません。シャミルもその言葉を素直に受け取るほど、純真無垢な乙女ではありませんでした。

 シャミルと騎士達は馬を止め、全員で降ります。そしてダイガン卿と向き合いました。


「ええ、辛うじて。あなたの目論見は失敗に終わりましたわね」


 あえて直球に、お前のやった事はお見通しだ、と伝えてみます。

 ダイガン卿は、不敵に笑いました。


「……まぁ、それぐらいは聞いているか。いやはや、しかし失敗はしていないがね」


「貴様……!」


 あまりにも不遜に、そしてシャミルの言葉を否定しないダイガン卿の物言いに、騎士達は剣を掴みます。空気を読まない冗談でない限り、ダイガン卿は王族暗殺を企てた事を自白したも同然なのですから。

 騎士達が攻撃の態勢を取ると、ダイガン卿の傍にいる傭兵達も武器を構えます。

 ですがそれは、剣ではありません。筒のような形をした奇妙な武器でした。そのような武器は、シャミルが知る限り王国で使われているものではありません。そして少数民族達が使う『原始的』な武具にしては、金属的で、科学的な様相をしています。

 もしもシャミル、そしてダイガン卿が彼等を止めなければ、人間同士の戦いが始まっていたでしょう。


「随分、あっさりと認めるんですね」


「先程言ったように、失敗はしていないからな。もうハッキリ言ってしまうと、私は目的を達した。だから一々隠し事をするのも面倒でね」


 シャミルが問うと、ダイガン卿はへらへらと答えます。あまりにも不敬な態度ですが、それだけ『勝ち』を確信しているのでしょう。

 ダイガン卿が間抜けなチンピラならば兎も角、王国政治の中枢まで入り込んだ

実力者。そんな彼が勝ちを確信している事の意味を、シャミルは理解していました。

 同時に、今まで溜まってきた『鬱憤』なども相当ある筈です。そして人間というのは基本的に話したがりやでもあります。

 ダイガン卿の目的を聞き出す、絶好のチャンスと言えるでしょう。


「わたくし達、本当に今帰ってきたところでして……よろしければ、その目的とやらを教えてくれませんか?」


「ええ、ええ。勿論」


 シャミルが下手に出ながら聞けば、ダイガン卿は心底楽しそうに答えてくれました。


「私の目的は、王権の掌握……まぁ、謀反と思っていただいて構わないよ」


「成程。王国を自分のものにしたいと。いっそ清々しいぐらい、分かりやすい理由ですね」


「褒め言葉と受け取ろう。しかしこの国の統治は盤石でね。騎士団の士気も高く、ちょっとやそっとの戦力では返り討ちに遭う。かといって貴族側が不満に思っている訳でもないので、賛同者もいない」


 そこで、と言うと、ダイガン卿はある方角に視線を向けます。

 それは、エブラムス遺跡のある方角でした。


「古代兵器に目を付けた。世界を滅ぼすかも知れないほどの遺産ならば、現代の武器など遠く及ばないだろう?」


「……そう、上手くいくとでも? 確かに古代兵器は危険ですが、王国を圧倒出来るほどのものとは限らないでしょう」


「いやはや、手厳しい。しかし男というのは、夢を追ってみたいものでね」


 シャミルの指摘に、ダイガン卿は自信に満ちた姿勢を崩しません。

 あまりにも迷いない言葉に、シャミルは僅かに身動ぎ。騎士達も少しばかり動揺が顔に現れます。

 ダイガン卿はシャミル達に構わず、話を続けます。


「勿論、夢を盲信するのは愚か者だろう。だから私は秘密裏に、遺跡の調査をしてきた。ちゃんと許可を得ながらね」


「……………確かに、あなたは正規の遺跡調査もしていましたね」


「その調査の中で、あるものを見付けたのさ。古代兵器の中でも、特別な兵器をね」


「特別な? ……ですが、いくら特別でも古代兵器の起動には、希少な動力が必要な筈。何処からそれを……」


「実はねぇ、私の家には昔から代々受け継いできた遺物があるのだよ」


「受け継いで、きた……?」


「その通り。何百年、何千年……古代文明が滅んでから、ずっと、大事にね。そもそもエブラムス遺跡を調査したのも、私の家に語り継がれてきた情報から、特別な兵器を確認するためさ」


 ダイガン卿の声が弾みます。演技らしさの欠片もない、子供のような言い方でした。


「本来、人類はこの世界を支配していた。人々は飢えも恐怖もなく、享楽を満喫していたんだ。その支配は崩壊してしまったが……たった一度の失敗で、立ち直る事を諦めるなど、あまりにも情けない」


 それでいてこの言葉を語る時は、怒りを露わにしていました。


「私の一族はずっと、ずっと、かつての繁栄を求めていた。そして私の代になって、ようやく機会が訪れたんだ。遺跡の調査権限を得るという形でね」


「まさか……そんな、何千年も……受け継いできた……?」


「先程私の目的は、王権の掌握と言ったが……あれは厳密には正しくない。それは過程に過ぎない。私の本当の目的は、古代文明の再興。そのために国家を、人類を掌握する必要があるから、謀反を起こすのだよ」


 長い言葉の果てに、ダイガン卿は満足したように両腕を広げます。歓喜を表すような仕草です。

 その姿を前に、シャミル達は顔を強張らせます。狂人を見るように、蔑んだ眼差しを向けます。

 そして彼女達は、ダイガン卿の話など聞いてもいないでんでんの傍に寄ってきました。


「そんな事が、本当に可能だと?」


「お前が手にした古代兵器とやらはその傭兵達が持っているものか? いくら古代兵器が優秀でも、そんなもので謀反が成功するものか」


 騎士達は口々に、ダイガン卿を批判します。

 それは正論でもあります。

 傭兵達の持つ奇妙な道具が件の兵器だとしても、それはただの強力な武器に過ぎません。どれほどの威力があったとしても傭兵自体が生身であるなら、何百何千もいる騎士団が一斉に挑めば、犠牲は出ても征伐可能でしょう。

 ……とはいえ、それが分からないダイガン卿ではありません。


「実例なしでは納得しない、か……ふむ。その大きなカタツムリが何かは知らないが、北の密林の生物なら、試験相手に丁度良いだろう」


「試験、相手ですって?」


「私が王国を掌握したなら、北の密林も全て開拓するつもりだからね。森の害獣がどの程度の実力か、調べておくべきだろう?」


 その言葉を聞いて、騎士達はいよいよ剣を抜きました。でんでんを攻撃するというのであれば、その隙に傭兵達を倒そうという考えです。

 ですが、ダイガン卿の目論見は少し違いました。


「それでは披露しましょう――――古代兵器『アヌフィス』を」


 パチンッ、とダイガン卿が軽快に指を鳴らした瞬間。

 でんでんはかつてない『脅威』の気配を、強く感じ取るのでした。

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