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カイエがやってきた秋が過ぎ、冬を越えて、春が終わり、夏がやってきた。
学院に通う双子ちゃんが、先生からの便りを手渡してくる。
「え? 海で学習?」
リグが持ち帰った学院のしおりを見て、わたしはそれがどんなものだろうと想像を巡らした。
海で学習する? そういえば、わたしもスウェイも海というものを、知識でしか知らないことに気づいた。
「そうそう。三泊四日で合宿があるんだ」
「合宿? お泊りですか」
と、リグの返事を受けて、子供用のお茶を用意していたスウェイが首を傾げる。
うん、とリグはカップを受け取りながら、肯いていた。
ラグもそうそう、と同じように肯いて、紅茶をふーふーっと吹いて冷ましている。
「私も行きたい!」
カイエが手を挙げたが、「おまえは来年な」と兄に言われて残念そうな顔をした。
「お母様」
と、涙目になり訴えてくる。そうねえ、とわたしはどうしたものかと首を傾げた。
リグとラグが数日も家を出るとなると、その間、カイエは独りになってしまう。
わたしも来院する患者さんを断る訳にもいかないし、なんて迷っていたらスウェイがカイエに話しかけた。
「カイエ様はスウェイと山にでも行きますか? キャンプなど、二人で楽しみましょう。どうです?」
「スウェイは、彼氏さんがいるでしょう?」
「ああ、いえ。それはまた別の機会……いえ、その」
侍女は話題を濁しつつ、カイエに山で楽しみませんか、と再度、提案する。
「スウェイ、振られちゃった?」
心配そうな表情でカイエが言うと、スウェイの黒い尾は、いきなりビクンっと跳ね上がった。
つい先月、彼がやってきたときに口喧嘩をしたとか聞いた気もするが、そこは触れないことにする。
お願いできる? とこちらから頼んでみたら、彼女は「もちろんです、奥様」と笑顔を引きつらせながら、返事をくれた。
「じゃあ、カイエはスウェイと一緒に山に行くね!」
「はい、お嬢様」
その後、彼氏さんも行けたらよかったのにね、と娘に止めを刺された侍女の尾は悲しみに沈んでいたけれど、見なかったことにした。
「スウェイがカイエの面倒を見てくれるなら、わたしの手も空く……わね」
「それなら、奥様も先生と旅行など行かれては?」
耳聡い侍女は獣耳をこちらに向けて、ぼやくように言ってくる。
子供たちも好奇心に満ちた顔になっていて、わたしは返事に戸惑う。
「お母様、それいいんじゃね? まだ何もしてないんだろ?」
「もう、リグったら本当に駄目ねー。そんなだから、女子にモテないのよ」
「うん、カイエもそう思う。リグはだめ」
「俺、悪くないよ! スウェイ……」
「お兄様、いつも逃げるからモテないの。カイエは好きじゃない。それと、スウェイも頑張って」
「ぐうっ、俺を嫌いとか言うなよ……」
「……私のことはいいので、あっちでキャンプの計画を建てましょうか、お嬢様」
リグがあの日、わたしが先生を自宅に招いてから特に進展がないと突っ込んでくる。
どうしてそれを知っているの、と思わずと呻くと、長女はこちらの味方をしてくれた。
すかさず次女が姉の支援をして、長男は女二人には勝てず、泣きそうになっていた。
侍女に助けを求めるも、先ほどの侍女と同じく撃沈される。
ついでに、スウェイは二度目の悲鳴を上げつつ、カイエを誘って隣の部屋へと移動した。
残された双子に「お母様も頑張って!」「そうだよ、先生だって待っているからさ! もう一押しだって」とかなんとか、無責任な応援を受けて、わたしは苦笑を浮かべる。
どうしてそうなるの、と心はあの日のことを想い返していた。
あれから約一年。
わたしたちの仲は、進展しているようで、何も始まらない。
教師と生徒から、生徒の子供の担任と、その子供の母親になった。
ブレア先生はたまにお誘いする夕食にはおつきあい下さるし、子育てに関するわたしの悩みや愚痴を、お酒を共にしながら黙って聞いてくれる。
けれど、前夫のように関係を迫って無理強いすることもなければ、こちらが弱っていても、心の距離を詰めてくることもない。
あくまで紳士として振る舞って下さるそのやり方に、わたしはちょっぴりと不満を感じつつ、それでも彼の友人として側にいてくれることに大きな感謝を捧げていた。
「三日間の自由……ね」
開業した治癒師の仕事は大きな成功も、挫折もなく、ほどほどといった感じに続いている。
ありがたいことに患者さんが途切れることもなく、スウェイを含めた家族五人がどうにか暮らしていける程には、この仕事も続いていた。
患者さんの中には時折、親切心からか「そろそろ再婚しては?」と薦めて下さる方もいるけれど、どうにもその気にはなれずに毎回、丁重にお断りをしている。
そういった話になるたびに、わたしの脳裏に浮かぶのはやはり、ブレア先生しかいなかった。




