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その事実に気づいたのは、先頭車両が終わり、後部車両に移動中の壁に貼られた路線図をたまたま目にしたから。
その頃にはスウェイと合流していて、二人一組でわたしたちには関係のないはずなのに、痛みや吐き気を覚えた患者さんを手当てして回るという‥‥‥。
集団幻覚でも見たのかと問いただしたいくらい、無関係の人たちがそれを訴えて、駅に降りて行った。
ここで降りる予定ではないけれど、家族が不調を訴えるから仕方なく‥‥‥という妊婦さんを連れたわたしと同年代の夫婦に出会い、治療をしたらとても感謝された。
「ありがとうございます、墨色の治癒師様」
「墨色の‥‥‥?」
「はい、あなたが治癒される時には、あの不思議な色が出ますから。最初は怖かったが、今では痛みも何もない。逆に疲れまで取れた気がします」
「それは闇属性のスキルで治療すると、肉体に宿る不調な部位の根幹を、本来の正常なものに置き換えて抜き出せる副作用のようなものでして‥‥‥」
わたしの手柄じゃないんですよ? と言いたかったけれど、また言葉を遮られた。
「素晴らしいじゃないですか! ただの治癒に飽き足らず、それ以上に健康を付与できるなんて、最高の治癒師ですよ、あなたは!」
なんて最大限の誉め言葉というか。労いをされて、頬が赤くなるのを感じる。
ひとにこんなに感謝されたことなんて、生まれて初めてのことだったから、「えと、はい」
とか、「すいません、ありがとうございます」とか、普段の自分らしくないおどおどとした仕草のまま、彼らに接するしか出来なくて。
「あなたのように素晴らしい治癒技術をお持ちなのに、これほど謙虚な治癒師には初めて出会ったよ!」
と、『わたしたちがぶん殴って不調にさせてしまった』中年の医師が、そんな言葉をかけてくれた。
このときには乗客たちの問題も一段落していて、多くの王国の国民は、駅に降りてしまっていた。予定時間を二時間ほどそこで経過したにも関わらず、二十数名の治療に当たったわたしたちは、出発した列車の食堂車でくたびれて、座り込んでいた。
「そっ、そうでしょうか」
「ああ、そうだとも。それにラバンシア家の女性と訊いた。聖女さまもご家族がこれほど活躍されて鼻が高いだろうに」
「はっはは‥‥‥」
乾いた笑いしか出てこない。
会った回数も少ない妹の名を使い、人助けができたのだし。
これはこれで良し、としようかなーと思っていたら、彼はどちらで習われたのか? と質問してきて。
「お嬢様は帝国学院をご卒業です」
「ほう、学院のではわしの後輩だな」
なんて、スウェイが自信満々に言うものだから閉口していたら、紳士はわたしの先輩だという。
「誰に指示を受けなされた」
「……ブレア先生です。時期的に、お知りではないかもですが」
「ブレア、か。最近まで筆頭講師を勤めていたな。あれは天才だった。なるほど、その生徒ともなれば、できが良いはずだ」
と、紳士は感心しきりに頷く。
習い始めた頃、先生が「私は最年少で講師になったのですよ」とか自慢していたけれど、やはり天才‥‥‥そこまで先達に評価される人だったのだと分かり、こちらも誇らしい気分になる。
「最近まで、とは? ブレア先生、どこかにいかれたのですか。出世とか?」
スウェイが空腹だと言い、料理人が作ってくれた魚介類のリゾットをぱくつきながら、そんな質問をする。
昇進なされたのなら、まだ学院にいらっしゃるはずだし。
その行き先はとても気になるところだ。
「あれか? あれはな、ほらオルブレイトにできた分校を任されていると聞いたな」
「オルブレイト‥‥‥」
「そうだ。魔族が併合した国だが、元々、帝国と魔族は縁がある。王国は仲が悪いがな」
「縁続き、ということですか」
「多分な。詳しくは知らん。お嬢様方はどちらにいらっしゃる?」
わたしたちは顔を見合わせ、「オルブレイトに」と答えた。




