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「お嬢様、リシェル様はそんな。男爵家に敵意をお持ちでは‥‥‥」
諫めるようにエントス夫人が言うと、「だって」と男爵夫人はそれを遮る。
「だって、おかしいじゃないの。旦那様と私が王都を離れている隙に、あの女狐に本神殿を奪われそうになるなんて。おまけにあの!」
その台詞の後半は、わたしの脳裏に届いていた。
(あの、光の聖女になったカミーナの実家。それも隠された闇属性が目の前に現れるなんて!)
と‥‥‥実妹が関与していた事実は最高の驚きで。
でも、実家と言われてもわたしは迫害されて追放された身だし、おまけに逃げるように国外に出たところで‥‥‥。
「ここで出会うなんて、なんだか出来過ぎているわよ」
それはわたしも同感です。
「ですが、お嬢様。リシェル様は」
「何よ。お前がそんなに言い募るなんて、珍しいわね」
男爵夫人のなかで爆発しようとしていた怒りがちょっと薄れる。
その合間を縫って、彼女の名前がエルスティーネなんて知ってしまい、ひそやかに苦笑してしまった。
いかにも可愛らしい‥‥‥まったくもってこの毒々しい内面に似合っていないもの。
そんな大層な名前をつけるなら、まだディリティリオの方がいいのではなくて、と皮肉を考えた。
それは毒、という意味そのままの単語で。
まさしく、エルスティーネに似合いのあだ名のような気もして、もう笑いをこらえるのに必死だった。
そんな彼女は自分に不名誉なあだ名が勝手につけられたこともつゆ知らず、エントス夫人が語るわたしの過去に聞き入っていて、こちらには気づかない。
地下に長く隔離されていたとか、それが分神殿の命令だったとか、夫に離縁されたとか、それが闇属性のせいだったとか。
そんな話をエントス夫人がやるせなさを隠さずに語るものだから、当の本人のわたしはそんなこともあったわねえ、とやれやれと過去を振り返るしか無くて。
夫人が語り終えたときの、エルスティーネの顔がこれまでの悪どさから、別の怒りにとって代わっていることに気づくのが遅れた。
「何よそれ!」
と、明確な怒りとともに飛び出したその声にはっと我に返る。
その時には、魔眼とやらの効果は消えていて、同じくそれを反射していたわたしの二つのスキルも働きを止めていた。
「えっと‥‥‥何か」
「どういうこと? どうして属性が闇だからって、離婚までされなきゃいけないの!」
「え。えええ……」
それはそちらの責任、というか。
光の分神殿がいろいろとやってくれたし、実妹が光の聖女とかに選ばれたのか、祭り上げられたかは知らないけれど。
ほとんどは貴方たちの責任では? と逆に問いたくなるわたしだった。




