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わたしの命じるままに『隠匿者』は男爵夫人の洗いざらいを仔細に教えようとして――彼女が再度発動させたのだろう、魔眼の脅威に対して自動的にそれを打ち消そうと動く。
ピシッと空間に亀裂が入ったような、そんな実感が脳裏に反映される。
でもここで打ち消してしまっては、こちらの手の内が分かってしまうわけで、それは面白くない。
『隠匿者』で対抗するよりも、『追跡者』にさきほど彼女が向けたスキルの詳細を調べさせて『奪還者』で反射したほうが早い気がした。
向こうが送りこんできた魔眼の効果を適正に反映してこちらがそれにかかっているふりをする。
実は何もかかっていないのに、魔眼の効果があったような反応を偽造して送り返してやるのだ。それなら、あちらも不自然には思わないはず。
「……?」
と一瞬だけ不可思議な顔をした男爵夫人も、わたしが大人しくなったのを見て、魔眼の作用があったと思い込んだみたい。
彼女の魔眼とやらは、一時的に威圧を相手の心にぶつけることで思考を奪う、そんな類のものらしく。
それに当てられてしまったら、誰しもが人形のようにおとなしくなる‥‥‥と。
少なくとも、『隠匿者』でリアルタイムに彼女の思考を読んでみたら、そんな反応が戻ってきた。
わたしのこのスキル、使いようによってはどんなことでもできるんじゃないかしら?
そう思うと、つい復讐したい相手が脳裏によみがえる。
わたしをあの幸福な環境から追い出した元夫とそれを奪った実妹だ。
彼らにはふんだんに復讐してやれるかも。まあ、それをするのは子供たちを取り戻したあとの話で、いまはここを切り抜けるのが第一の目標。
男爵夫人は勝ち誇った顔で質問してきた。
「そちらはどうしてここに?」
「離縁されましたので」
「離縁。その若さで?」
ええ、と返事をする。生返事にとどめておいた。
彼女のスキルにかかっているように演技をしながら話すのはちょっと疲れる。
わたしを魔眼で支配して思い通りにできるとにやつく男爵夫人の思考はどこまでも子供の域を出ないもので。
だからこそ、理不尽な暴力がそこには存在していて、そんな相手をこれ以上知りたいという思いが失せていく。
男爵夫人はわたしの境遇を聞いて、エントス夫人を見た。
「お前と同じなのね」
と、寂しそうにつぶやく。彼女の脳裏では、夫の男爵様への複雑な思いが交錯していた。
「お嬢様、リシェル様は闇属性の‥‥‥それをお持ちです」
「ああ、そうだったかしら。そんな話をお前がしていたような気もするわね。闇属性なんて伝説や本の上でだけの存在だと思っていたけれど」
まさか、光の神殿に君臨する男爵家の前に姿を現すなんて、と意地悪そうな心の声が、わたしの脳裏に響いた。
なるほど、そういう関連性だったのね、と納得する。
他人の悪意にさらされることには慣れていても、やっぱりその真実にはどこかしら驚いてしまう。
まあ、魔眼の術中にかかっているふりをしていて、わたしがいきなり驚いたら何もかもが台無しだもの。
落ち着いて、わたし。と自分をしかりつけると、相手の反応を待った。




