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『隠匿者』の効果範囲にいるのに、こちらに干渉してくるものがあるのだろうかと、頭の中で思案する。
あるとすればそれは、直接触れるものか、こちらの意識に干渉するものくらいで‥‥‥。
「あら、珍しい」
と、男爵夫人が面白そうに語るその口調がどこか謎めいていて、馬鹿にされているような気分を味わう。
そして、思い至るのは――彼女の視線。
反らしただけで、あの心にかかる圧迫感が消えたのは、どう考えても何らかのスキルを使っている可能性が高い。
「どう、珍しいのでしょうか。カナルディア男爵夫人」
静かに問いかけると、金髪碧眼の美少女は皮肉そうに笑みを浮かべて言った。
「だって、貴方。普通にされているのだもの」
「普通、とは? 何のことでしょう」
「リシェル様」
と、エントス夫人が呼ぶが、そこにはあのわたしたちの客室で怒りを放っていた、強気な老婆はどこにもいなかった。
主人の前で、恐る恐る、止めようとする家来の一人。
そうとしかわたしの目には映らない。
あの気丈なご婦人はどこにいかれたのかしら、と逆にこちらが驚いてしまうほど。
「奥様。どうかもうおやめになられてください。私の恩人でありましたら」
「そう。なら、いいわ」
と、夫人の懇願を受け入れて、夫人が‥‥‥面倒くさい。
パーシャ様の言葉に、男爵夫人はつまらなさそうな顔をして敵意を消してしまった。
「せっかく、魔眼で遊べると思ったのに」
そんな言葉を漏らす彼女は、どこにでもいる年齢相応の少女の顔をして見せた。
年若くして結婚してしまい、同世代の令嬢たちとも身分の問題で遊べない、そして夫は自分に向いているのか。それとも、年齢が離れていて相手をされていないのか。
もしくは、夫の男爵様は大事にしているけれど、彼女はそれに不満なのか。
そこは分からないけれど、一つだけ確実なことはある。
「どうして、帝国領から王国へお戻りに?」
「……貴方には関係ないでしょ」
そう訊くと、再び不機嫌が再発した。
しかし、今度は魔眼と言ったのかな―ーそれを使おうとはしてこない。
王族に連なる女性が、魔族の能力である『魔眼』を口にするなんて、場所が王宮内なら大問題になるのじゃないかしら。
魔眼、魔眼‥‥‥歴史学で学んだなかに、『飽食の魔眼』というスキルがある。
わたしの『隠匿者』同様、泡のようなものを作りだし、その中にある存在をすべて意のままに操る、もしくは飽食の二文字が示すように、術者のなかに取り込み、それを再現することができたとか、どうとか。
あれは魔王の使っていたスキルだし、そんなものにお目にかかれるほど、世の中は甘くないはず。
関わり合いになりたくはないのに、相手を知る機会はいつも訪れてしまう。
まったく、わたしの運命とはどうなっているのか。
闇の神様に訊いてみたい気分だった。




