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「パーシャ様。そちらはお孫様ですか」
「あ、こちらは、その」
「カナルディア男爵夫人、でいらしたかしら。王国の名を冠するカナルディア王家に連なる方が、まさかこんな魔族側の国境を通過されるなんて。用心に越したことはないですね」
「あなた‥‥‥」
ふっと訳知り顔のように微笑んでやる。
丁度タイミングよく、窓の外はトンネルのなかに滑り込み、不気味な闇が窓の外から室内へと侵入しようとしていた。
こういう闇に支配された世界の最中に身を置くと、全身から力が湧いてくるというか‥‥‥さすが闇の神に祝福を受けた我が身だと感心してしまう。
逆に光の属性を持つ彼女たちは、この闇のなかにいて逃げ出せない状況って言うのは、カナルディア男爵夫人を始めとして不安と焦燥感が心を支配するみたい。
こちらは闇色の力が溢れ出す余韻に浸りたいというのに、逃げ出したいなんてなんて可哀想な人たちなんだろう、と小首を傾げてしまう。
思えば、闇はいつも隣にいてくれて、あの地下室で過ごす方が太陽のしたで生きるよりも、何倍も心地よかった気がしてくる。
その闇に密やかな怯えを隠そうともしない光属性の人々の顔に出た様は滑稽で、逆に張り詰めていた緊張感を和らげてくれていた。
闇属性に、闇の神様に、今だけは‥‥‥感謝、かな。
「そちらの事情はこちらには無関係ですので。まずはいただきました謝礼を包んでいただいた、ハンカチをお返しに上がりました。このような紋章がある逸品は、わたしのような者には重すぎる品ですので」
そう言い、エントス夫人からもらった白いそれを、老女の手元に差し戻しする。
夫人はどこかしまった、という顔をしてこちらを見つめていた。
エントス夫人の様子を見て、男爵夫人と名乗る美少女がこちらを見やる。
そこには支配層が生れながらに持つ、泰然とした態度と、控えめにしてはいるみたいだけれど、気性の荒さを讃えた意志の強い瞳があった。
自分より年下の彼女が醸し出すその雰囲気に、気圧されそうになる。
わたしの体内に流れる貴族の血がそうさせるのだろう。
もう自分にはこの国‥‥‥そろそろ通過しただろう、王国のことは関係ないのだと言い聞かせて自分を保つ。
それほどに、男爵夫人の視線には他者を圧倒する何かが含まれていた。
パスパスっと隣で、なにかを叩くような軽い音がして、ふとそちらに目線を移すと、その圧力は消えていた。
わたしの前には壁一枚隔てて、スウェイの尾が元気そうに左右に揺れている。どうやら、それがガラス戸に当たり、微かに立てた音のようだった。
我に立ち返ると、これは妙だと思った。視線を反らしたら、心にかかる圧力が減るなんて、不自然すぎる。
何かおかしいと違和感を覚えた。




