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「どうしたの」
まさか音の魔法などによる、呪いでも受けたのかと思い慌てて彼女を抱きしめる。
しかし、いまわたしたちの周囲には『隠匿者』の結界があるのだから、物理的にせよ、魔法にせよ、攻撃を受けるということはさすがに考えにくくて、未知の攻撃かと心がざわめいて仕方がない。
彼女をぎゅっと抱きしめてやると、スウェイは小さな声で悲しげに言った。
「……断末魔の叫び声を聞いたような気がします」
「うそっ。そんな‥‥‥」
「ああ、もう。あんなもの、耳にするんじゃなかった!」
獣耳を大きく頭ごとふると、スウェイはもういいですとわたしの胸から抜け出した。
窓を修理しましょうかと言い、彼女が得意とする時間を少しばかり操作できる、時間短縮系の治癒魔法で、さんざんに砕け散った窓ガラスが嘘のように、元通りになっていく。
はあ、と大きくため息をついて、スウェイはどうやら、と教えてくれた。
「あの短刀を放った後に感触が無かったからかは分からないですけれど、逃げたみたい。あの森の中に‥‥‥列車から飛び降りるなんていい度胸してますね」
「ああ、そういうことだったの。そして、短刀が主人の元に飛来して――」
「刺さったのでしょう。あれほど驚きと悲しみに満ちた声を聞いたのは初めてです」
「……断末魔の悲鳴なんて、そうそう耳にするものじゃないでしょうから」
「でも困りましたね、誰が味方で誰が敵か。夫人がまだ狙われているのかまで、まったく分からない」
「それは本当に、ね。対処法がみつからないわ。このままスキルを発動し続けていたら、わたしの魔力が尽きたときが、運の尽きだもの」
打つ手なし。万策尽きたとはまさしくこんな状況下のことを言うのかしら。
今度はわたしが重苦しいため息をつく。
するとスウェイは何を思ったのか、やおら金貨の入ったバッグに身分証や旅券を詰めだした。護身用の帯剣を身に付け、それを背中に背負うと「いきましょう」と椅子に座ったままの手を取り歩き出そうとする。
「どこに? 森にでも逃げ込むつもり? 他の荷物はどうするの。国境だって‥‥‥」
と車窓を見ると、そろそろ岩山を貫くトンネルへと先頭車両が差し掛かろうとしている。
ここで飛び出すのは、いくらスキルに護られているとはいえ、自殺的行為に等しいと思うしかできなかった。
「先頭に行きましょう。ここからならそっちが近いです」
「はあ?」
「ですから」
と、スウェイはわたしの隣に座り込み、計画を話し出す。
スキルの有効範囲は半径三メートル。
車両の横幅はよくてその範囲内に収まる。
先頭車両、先導する蒸気機関車とその後ろにけん引されている鉱石などを満載にした貨物車両は別として。
その手前の先頭客車までは二両ほどしかない。
そこに行くだけなら、そうそう魔力も使わない。それに移動するだけなら、あと数時間は魔力を保持する自信があった。
「先頭まで行って、それから最後尾まで行きましょう。その合間に、お嬢様に敵意のある者たちを『隠匿者』で判別して」
「どうするのよ」
「一時的に意識不明にでもすればいいでしょ」
と言い、腰の細剣を引き抜いてぶんぶんと振って見せた。
「とんでもなく野蛮な行為ね。感心しないわ」
「でも、死ぬよりはましでしょ? 座して死を待つなんて、愚かな選択だわ」
「……」
結局、わたしは押し切られる形でスウェイを前にしてそろそろと車両を先頭に向かい移動することに決めたのだった。




