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まずは、『奪還者』を使い、投げナイフの遺した壁の傷跡を修復する。
スウェイから一本を受け取り、敵の痕跡を確認した。
なるほど、微かに魔力の反応がある。
これなら、『追跡者』使用して、元の持ち主の情報を読み取ることくらい、造作もないことだった。
わたしの脳裏に、この短剣の持ち主の思考や、その刃に反射した彼の容姿が浮かび上がる。これは別に特別な事ではなく、なにがしかの魔力を使用した場合、放った物にも微かな匂い。
色、音、形、魔力を込めた当人の思考。
そういったものを、わたしは読み取ることが出来る。
「助けるにしても何をするにしても、戦争するなら事前準備は念入りにしないとね」
「わたしよりお嬢様の方が、この状況を楽しまれているようで、怖いです」
と、スウェイはやれやれと肩を竦める。
上半身下着姿でいられては主人の沽券にかかわるから、荷物からさっさとシャツを出して着るように指示を出した。
その間に、わたしは引き出せるだけの情報を短刀から吸い上げておく。
「パトリック‥‥‥白人男性、人間族。投げたのは‥‥‥驚きね、この車両の最後尾からよ。ついでに風属性ではなく、大気の精霊を使役したみたいね。狙った場所に誘導して突き刺さるような魔法みたい」
厄介な魔法を使う相手だな、と思った。
騎士や剣士が使う系統のものではなさそう。
いわば、猟師や盗賊、暗殺者なんかが相手を仕留めるときに――猟師、ね‥‥‥?
「ふーん?」
「どうしました、リシェ
ル? こちらはもう用意は十分ですよ」
「いえ、待って」
わたしは飛び出して行こうとする、スウェイの尾をむんずっとふん捕まえると、その行動を制止した。
「なんですかあ? 痛いからやめて、それ本当に嫌だ!」
「ああ、ごめんごめん。止めるより先に出て行きそうだったから」
「それはそうですよ! 二度目の攻撃を受けるより前に、相手を仕留めないと! こっちにはリシェルの『隠匿者』があるのだから、相手に知られずに迫れますもの」
「それなんだけれど‥‥‥猟師に声をかけられた? って言ってなかった」
「はい? それは言いましたけれど、少し前の話‥‥‥猟師」
「そう、猟師。白人で大柄。頭の髪の毛は白くなっていて、刈りこまれている」
「そんな容姿だった気もする‥‥‥でも、そうだとすると話がおかしくならない」
「わたしもそう思っていたの。あのとき、夫人はすでにあちらの食堂車に戻っていた」
「そうですよ。だとしたら夫人はその場所で襲われるべきだし、時間差でわたしたちが襲われる意味が分からない」
「と、なると――やっぱりこのハンカチの紋章かな。でもこれには特別、魔力が込められているとか感じられない」
考えること数秒。
いまは『隠匿者』が発動しているから、もし、敵が新しく短剣を投げてきても、こちらのスキルが及ぶ力場のなかに入れば、簡単に無効化できる。
その事実がわたしたちに、冷静な判断を下すための心の余裕を与えていた。
多分、襲撃が成功したのか、失敗したのか。
やきもきしながら、どこかからこちらの反応を窺っているはずの相手よりは、わたしたちの方がより頭を冷やすことができたはずだ。




