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スキルの半径にはその姿形が見当たらない。
ぎりぎりわたしの測定範囲から逸れているのか、それともそういったスキルなのか。
心が恐怖でざわつき、今すぐに逃げ出したいと悲鳴を上げる
それを押しとどめたのはスウェイの苦しげな表情だった。
「スウェイ! ガラスが‥‥‥大丈夫?」
「分かんない! 痛いっ……」
「なんてこと――。動かないで、いま治癒を‥‥‥」
「そんな場合ではありません!」
「でもっ」
「この程度自分でどうにかできるから。あなたはスキルを絶やさないで。リシェル、子供たちと私も会いたいと思うのです。死んだら――でしょう?」
「そう――ね」
いきなりの大事にそれでも主人を守らなければならないという強い義務感が侍女の顔に、ありありと見て取れた。
間をおいて、その白いブラウスにじわじわと赤い何かがにじみ出る。
飛散したガラスが背中に突き刺さったのだろう。
スウェイは大丈夫だと言った通り、自分の怪我の状況を魔法で把握し、さっさとブラウスを脱ぎ捨てるとガラスの破片と魔法で除去して、回復魔法をかけていた。
「リシェル、あなたのスキルならどこまで見れるの?」
「よくて半径三メートル。昔と同じ」
「成長してもそれは変わらず、ですか。ふむふむ‥‥‥風の魔法かな。風属性のスキルかな。それとも空間を転移させて短剣を加速させ打ち出した‥‥‥?」
相手の攻撃してきた方法が今一つつかめない。
こちらから向こうに近づくか、相手から近づいてきてくれないとそこまでは不明だ。
ただ単純に、投擲する腕がいい暗殺者だっていることだろう。
それをここから、いまの状況だけで判断することはとても難しい。
スウェイはくりくりとした黒い瞳をせわしなく動かすと、ふん。と大きくうなずく。
下着姿のままでも平気な彼女を見て、わたしはこれを羽織りなさいと上着を渡すと「別にいいのに」と不敵に笑っていた。
「まだ汚れますから。お気になさらず。それより、移動しましょうか」
「逃げるの?」
「私達だけが目的ならそれでいいのですけれど。ハンカチ」
「紋章?」
「さっきリシェルが『隠匿者』を発動したから、相手の目標というか。それ、誘導する目印のようなものになっていたのかもですよ。魔力をそれと知らず発して、位置情報にしている、とか」
「……確かに、わたしたちを襲うのは不自然ね。殺したいなら、さっきのレダーにやらせるだろうし、チャンスはたくさんあったもの」
「そうなると、別の人が――」
「エントス夫人!」
と、声を上げてわたしはうなずく。
持ち物の中から、かつて愛用していた携行用の武器を手に取った。
スウェイは徒手空拳かなーと残念そうにしながら、壁に突き刺さった三本の短剣を引き抜いている。
どうやらそれを得物として使う気らしかった。
『隠匿者』の有効範囲は半径三メートル。
その中にある全てのなにかはわたしの支配下にはいる。
移動できる万能要塞のなかで、スウェイはこれから無双することだろう。
最近、暴れたりないとぼやいていた侍女のいいストレス解消法が見つかって、わたしはさっきまでの恐怖を忘れ始めていた。




