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やはりそれは詮索してはいけないものなのよ。
そう言おうと思い、それなら戻した方がいいのかも、と思いつく。
「洗浄魔法をかけて頂戴」
「はい、お嬢様。戻されるのですね」
「そうね。揉め事になるのなら、御戻ししたほうが心が落ち着くもの」
それに、オルブレイトに到着するまでの間、この悶々とした感情に浸るのも陰気臭い。
できるなら明るい旅の方がわたしの性に合っている、はずなのだけれど。
そこは自信が持てずに侍女の目をそっと見てしまう。
スウェイはにやっとはにかんで、大丈夫ですよーとのんびりとした口調でそう言った。
洗浄魔法を施したハンカチは、元々の生地の良さがより目立っていた。
錦をふんだんにつかったあしらいが、光を照り返すような光沢をにじませている。
これは相当、上流階級の人間でなければ持てない逸品だとわたしたちは相談する。
しかし、まさか縫われているのがこの紋章だったなんて。
「悪い夢ですね、本当」と言い、スウェイは舌を突き出していた。
「……やめなさい、王家に対する侮辱罪が適用されるわよ」
「王家というより公爵家に対する、ではありませんか。‥‥‥王家の紋章と光の女神神殿も紋章を掛け合わせた、二つ星。こんなの、大神官の血筋しかもてないはずでは」
「二つ星、言い得て妙ね。王家の十字と神殿の十字が重なっている。最高に誉れ高い名家である証明になるわ。エントス夫人‥‥‥パーシャ様がどうしてお怒りになられたかも、よく分かりそう」
怒り? どの怒り? とスウェイは首を傾けた。
闇属性の子供が産まれて地方の分神殿で管理されていた事実を、本神殿の彼女たちが知らされていなかった。
その怒り。そう言えば、いいだろか。
部下の管理ができておらず、それによって恥をかいた上司が怒るのと同じ理屈だと思う。
あんなに偉そうに光の女神様は――なんて説教するのだから、その辺りきちんとして欲しいものだ。
「――っ? リシェルっ!」
「え、何?」
スウェイがふっと呼吸を吐いてわたしを押し倒した。
誰何の声に、彼女は「しっ!」と言い、覆いかぶさるようになる。
その直後、隣席との間を仕切っていた分厚いガラスのパーティションが、――ガチャンっと断末魔のような悲鳴を立ててわたしたちの周りにばらばらと舞い落ちる。
ぐいっとスウェイに引き寄せられて、わたしは椅子から床へと身を滑らせていた。
ガラスの破砕音は一度ではなく、少なくとも三度はあったように思う。
それと遅れて、視界の左側にある背もたれに深々と短剣が突き刺さっていくのが見えた。
壁から侍女へと視線を戻す‥‥‥顔と顔の距離が近い。
一旦の間をおいて、短剣の飛来が止んだのを確認すると、わたしはスキル『隠匿者』を起動させて今度こそ、戦う意思を明確にした。
「――どこだっ」
「おい、なんだ。反応がないぞ」
「知るかよ! くそっ逃げたのか‥‥‥?」
「いいや、あの客室から人影がでた気配はない!」
と、二つか、三つか。
それとも廊下からかもしれない。
こちらを見失ったかのような、くぐもった声が上がった。
どうやら襲撃者たちの会話のようで、彼らはこちらを見失ったらしい。
スキルがきちんと作動している証拠だと、わたしは心のなかで安堵の吐息を漏らした。




