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これを目の前で披露されて、どう信じろというのだろう。
スウェイがいなくてよかった。
いたら、滅多に披露しない技を使うことをためらわなかったはずだ。
彼女の爪は分厚いオーク材の板でも、薄い紙を裂くように両断する。
さすがにこの場でこの男に死をくれてやる必要はないだろう。
ただ、これは嬉しい誤算だった。
「ああ……どうしてそんなことをするの、お前は‥‥‥レダー卿。それでも騎士ですか」
「身分を買おうと思いまして。自分は公国に母方の一族がおりますから」
「あちらでも騎士を続けたい、と? 元主人からせしめた大金を使って、光の神が喜ぶかしら」
騎士ならばこの嫌味は心に響くはずだ。
そう思ったら違った。
「我が神は雷の女神ですから」
「盗賊騎士の崇める神様ね。まさしく盗賊騎士。なら、わたしが夫と父に成り代わり、貴方の騎士としての地位を保証する、とサインしたらどうかしら」
その言葉に彼の歪んだ頬がピクリ、と跳ねた。
ゆっくりと緩みまさかそんな、と呆けた顔になる。
わたしが学院を卒業した証明を持つように、騎士には騎士の身分証明書があるのだ。
それは仕える土地の領主か、国の行政機関でしか発行できない。
「まさか、そんなことを御存知のはずが」
「ないとでも? あのぼんくら浮気男がまともに領地の運営をしていたはずがないでしょう? 女に――同じ敷地内に住んでいた妹に熱を上げて、どこかで一緒に過ごした時間の方が政務に携わった時間よりも長いのだから」
「では、奥様。本当に頂けるので? しかし、サインはよいとして、印はどうします。あれは金庫にあるはず」
「忌まわしいけれど。結婚式のときに貰った結婚指輪には子爵家の紋章が刻印されているし。伯爵家の一員としてそちらの紋章を刻印したものも――ね?」
と、両方の指に嵌めた指輪を見せてやる。
蒼と銀色の二種類のそれらには、確かに伯爵家と子爵家の紋章が刻印されていた。
「てっきりお戻しになられたのかと」
「戻すわけないでしょう? こんな便利なものを。王国を出るまでは有効活用させてもらうわよ。それよりも、書面‥‥‥」
証明書には幾つかの書式があり、それと定められた紙もまた必要になる。
外出先でも困らないようにとバッグに詰め込んでおいた公用文書セットはどこにおいたかしら‥‥‥と荷物を探っていると、スウェイが戻ってきた。




