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 レダーは自分を少しは信用してくれますか、と笑顔を向けてくる。

 それは油断のおけない笑みだった。

 わたしはスウェイに必要な金貨を渡すと車内で購入できるという旅券を手に入れてくるように命じて部屋を出す。

 四人掛けの座席はそれごとが独立してガラス戸で間仕切りできるようになっており、隣の席に会話を盗み聞ぎされる心配はなさそうだった。


「もう少し下れば食堂車がある。そこには受付がありこの鉄道が経由する都市や、交通機関のチケットなら全て買えるようになっている」

「それは便利になりましたね、奥様」と、スウェイは感心したように言った。

「……お願いだから、奥様はもうやめて。お嬢様かリシェルにして頂戴」

「そうでした。申し訳ございません、お嬢様」


 スウェイが獣耳の片方をパタリと閉じた。

 彼女が失敗したときに見せる仕草だった。

 しかし、素直なその耳のもう片方は、ガラス戸向こうの多くの座席に向かってピクピクと動いている。

 街中に出るようになったといってもそのときはまだ奴隷の身分。

 彼女が知る世界もまだまだ狭いようで、好奇心は殺せないみたい。

 出ていくと騒がしい尾がいなくなったせいか、静けさが室内に訪れた。


「それで、お前はいくら欲しいの?」

「……いえ、それは」

「お前も同行したからには、あの土地には未練がないと思えて仕方がないのです。でも、ここから先の同行を許すにはまだまだ気心が知れていない。まだ‥‥‥」


 この列車に乗り込む前に駅舎で見かけた警備会社の護衛派遣サービスを利用したほうが、まだましのように思えた。

 王国の文化は古いけれど、騎士はもう封建制でなく、雇われ兵士の形容がよく似合っている。

 唯一、連綿と続くのは信仰する神への忠誠心と、神殿の説く正義を遵守すること。

 そこには領主への忠義も含まれているけれど、主が卑怯な真似をした際には裏切って正しい正義を行えとも説いていた。

 一番怖いのは、わたしの存在を自由にすることを、光の神殿が許していないこと。

 その意味では光の神の母親とされている大地母神を国教に制定しているエイデア帝国に逃げ込むのが、一番、安全だった。

 あちらの方がこんな辺境の田舎より、余程安全だし‥‥‥でも資金は必要となる。

 

「まだ、なんでございますか」

「貴方には関係ないわ。それで持ち出した金貨はどれほどその懐に?」

「……」


 顔を醜く歪めて、彼は下げていたバッグから、布に包まれた金貨の塊を五つ。大金貨の包みを二つ。

 銀貨を三つほど取り出した。


「あなたね‥‥‥盗賊でももう少し義理というものを重んじると思いますよ」

「申し訳ございません」


 わたしは呻いた。

 金貨三百枚でも帝国で質素にくらせば、わたしとスウェイの二人が三年は暮していける額だ。

 おおよそ、その十倍の金額をせしめようとしていたとは――開いた口が塞がらないとはこのことだった。

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