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あれからしばらくの間は馬車に揺られ、たどり着いたのは鉄道の駅舎。
駅舎といってもそれは広く、これまで訪れたことのあるどの貴族の屋敷よりも部屋数が多く見えた。
実際に中に入ってしまったら、そこにあるのは四本の路線。
大きな木の杭を等間隔に並べ、その上に鉄製のレールを敷いているのだ、と情報では知っていたけれど。
見るのは初めてで、それだけでも心が躍った。
「埃臭い‥‥‥」
「そう? 煤の臭いはするようだけれど」
「お嬢様は人だからそれだけで済むの」
「そうなのかしら」
「決して劣っているということではありませんから!」
と、スウェイは慌てて言い直す。
分かっているわよと、頷いてからレダーを見た。
レダーは最初は怪しかったものの、『騎士』という言葉には責任感を感じたらしい。
わたしとスウェイを駅に連れて行き、構内で切符を手配するためにカウンターに導くと、彼自身もまた護衛兼荷物運びとして旅を始めることになってしまった。
「騎士という言葉に誓ってお守り致します」
「そんな古くさい慣習、どこまで信じられるものかしら」
まあ、よくてせしめた金貨を持ち、彼は彼でこの国から出るつもりなのだろう。
スウェイと話し合い、そこにつくまではこちらも利用させてもらうことにした。
もちろん、「裏切れば、お父様よりも酷い呪いをかけるわよ?」と、さんざんに脅したうえで、そんなやり方は知らないのだけれどと、心でうそぶいてわたしたちは、鉄道に乗り込んだ。
それまで情報としては知っていたものの、目にすることは初めての鉄道。
蒸気機関というものを利用したらしい、鉄で走る車輪のついた箱馬車の連結したもののようにも見えた。
燃料は石炭、魔石なども利用しているらしく、聞いていた話ではあたり一面に煤をまき散らして走るということだったけれど。
実際に遭遇してみたら、そうでもなかった。
「けれど、どうにも落ち着かないわね。大地の上を馬車以上の速度で走るモノに乗るなんて」
「こんな鉄の塊が移動することも不思議です」
「それにしても‥‥‥」
王国を出ようという判断は、やっぱり間違ってなかった。
そのことに気づいたのは、すでに生まれ故郷の街を遠く車窓に眺めた時だった。
伯爵領はとある大河の支流を境にして、王家のもつ直轄地と隣り合わせにある。
列車はいままさにその支流にかかる橋を渡ろうとしていた。
向こうにはもう一本の橋が横たわり、そこには馬車や人々が行き交っている。
‥‥‥はずだった。
「なにあれ」
「検問、ではないでしょうか」
同じ席に座っていたレダーがそう教えてくれる。
検問など常設されているようには見えず、兵士が駐在できるような小屋も辺りには見当たらない。
人々の流れは停滞し、その場で幾人もの兵士が馬車や持ち物を、検閲しているようにも見えた。
「なにの‥‥‥検問、でしょうか」
「そうですな。さしずめ――お嬢様の、ではないでしょうか?」
それは旅を始めて最初の難関があそこにあることを意味している。
レダーは、「これで正解でしたな」と車窓のカーテンを引いた。




