エピソード28 日本のあけぼの
紀元前660年1月1日、狭野尊 (以下、サノ)は、橿原宮で、大王に即位した。台本にはないが、祝言に出席した、全ての登場人物が参列したことにしようと思う。
ここで、天種子命が解説を始めた。
天種子「この年を、神武天皇元年とするんや。」
サノ「ちょっ・・・神武天皇って何や?」
天種子「我が君の名前にあらしゃいます。」
サノ「そんな名前は知らないっちゃ。」
そこに、椎根津彦 (以下、シーソー)が解説に加わってきた。
シーソー「それは当たり前やに。我が君が死んだあとに付けられた名前なんやから・・・。」
サノ「し・・・死んだあと?」
シーソー「名前を呼ぶのは、失礼だという考えがありまして、その代わりとして、亡くなったあと、敬意を表する名前を贈るんやに。」
天種子「これを諡と申します。」
サノ「そ・・・そうなんか・・・。」
すると、弟磯城こと黒速 (以下、クロ)までもが解説に加わってきた。
クロ「我が君の諡は、二つあるんだよね。」
サノ「な・・・なして(なぜ)二つもあるんや?」
クロ「時期が違うんだよ。最初の諡は、奈良時代より前・・・。次の諡は、奈良時代に贈られたのさ。」
シーソー「その通りっ。最初の諡が、神日本磐余彦火火出見天皇(かんやまといわれびこほほでみ・のすめらみこと)という名前やに。」
サノ「な・・・長い・・・。」
クロ「昔の日本は、長い方が偉い症候群だったんだよ。」
サノ「じゃっどん、言いにくいやろ!?」
クロ「でも、幕末のペリー提督も、それを知っていて、うまく利用したそうだよ。」
サノ「ペ・・・ペルリ?」
クロ「その名も、アメリカ合衆国特命欽差大臣専到日本国兼管本国師船現泊日本海提督という名前だよ。」
サノ「アホか・・・。負けても、全然、悔しくないっちゃ。作者も、よだきい(面倒くさい)からか、フリガナを付けたくないみたいやじ。」
クロ「でも、江戸幕府の人たちは、偉い人が来た・・・と大騒ぎしたのさ。」
サノ「いろいろと知らん単語ばかりで、よく分からんが・・・。そういう民族性なんやな。」
シーソー「ちなみに、神日本磐余彦と略す場合もあるっちゃ。」
サノ「略した? どこが?」
天種子「そして、次に贈られたのが、神武天皇にあらしゃいます。」
サノ「こっちは短いが、四文字熟語みたいやな。」
天種子「大陸の影響を受けて、外国風にカッコよくしたんです。」
サノ「外国風?」
クロ「始皇帝とか、光武帝みたいな感じだね。」
サノ「外国かぶれっちゅうやつか・・・。」
シーソー「まあ、そんな感じですな。ちなみに、最初の諡を和風諡号と呼び、次の諡を漢風諡号と呼ぶんやに。」
サノ「じゃっどん、なして、名前を呼んではダメなんや? 呼んでも気にしないっちゃ。」
天種子「我が君が良いとおっしゃりましても、ダメなものは、ダメなのであらしゃいます。」
クロ「その人の名前を呼ぶと、その人の魂を支配しちゃうって考えがあったみたいだね。」
サノ「初耳っちゃ。わしらの生きてた時代には、そんな考えはないやろ?」
シーソー「大陸から来た考えっちゃ。それで、大陸の人は、光武帝と呼んでるんやに。」
サノ「大陸の考えが浸透して、わしにも諡が贈られ、ついには大陸風になったち、そういうことか?」
シーソー「じゃが(そうだよ)!」
天種子「大陸の考え方が来る前、我が君は、こう呼ばれていたそうにあらしゃいます。」
『畝傍の橿原に、宮柱を底磐根に太しき立て、高天原に搏風峻峙りて、始馭天下之天皇』
サノ「な・・・長い・・・。」
クロ「ねっ? 長い方が偉い症候群でしょ?」
天種子「まあ、これは諡という感覚ではなく、敬った言い方にあらしゃいますな。」
シーソー「意味は、畝傍山の麓にある橿原の地に、太い柱で、高天原に届きそうなほど高い宮を建て、初めて国を治めた天皇・・・ということやに。」
サノ「確かに、頑張って大きな宮を建てたっちゃ。」
クロ「二千年後は、橿原神宮になってるね。」
サノ「わしが祀られてるんやじ。」
天種子「即位した日は、祝日となっております。その名も『建国記念日』にあらしゃいます。毎年、2月11日に祝っております。」
サノ「あれ? 2月11日? 1月1日ではないんか?」
天種子「二千年後は太陽暦を採用しておりますんで、2月11日になったそうにあらしゃいます。」
サノ「いろいろあったんやな・・・。」
クロ「とにかく、これで日本が建国されたわけだね。」
サノ「これからが大変やじ。いろいろと政務をしていかにゃならん。」
そこへ、道臣命と味日命、それから大久米命が乱入してきた。
道臣「初めて政治をおこなった日、わしら大伴氏と大久米が率いる久米部が、妖気を払いのける、秘密の儀式をおこなったんやじ。」
味日「それが諷歌と倒語だってばさ。」
大久米「諷歌とは、他のことになぞらえて、間接的に表現する歌のことですよ。」
道臣「倒語とは、相手に分からせず、味方にだけ通じるように定めた言葉のことっちゃ。」
クロ「倒語が用いられるようになったのは、これが最初みたいだね。」
建国ならびに即位の儀式は続く。




