97話:部活動、楽しんでる?
部活動を終えて、部屋に帰って。もうすっかり夜だというのに、エピンの興奮は冷めていなかった。
自分の知らない世界を知ることが出来た。それだけで冒険部に入って良かったと思えるのだが……問題は、自分が想像もしなかった光景がそこにあったということだ。
「ドリルインパクト、か……確かヘンリエッタ先輩の家名がドリルだったか……」
エピンはドリルなどという家名は知らないが、空を飛ぶ魔法学園に先輩として在籍しているのだ。知らない何処かの大陸ということは充分あり得るだろう。
とにかく、家名を入れるほどの魔法だ……余程自信があったのだろうし、威力も凄まじかった。
自分があの域に達することが出来るか、今のエピンに自信はない。しかし到達したいとは願っている。
その為にまずどうしなければならないのか? 答えは1つ。アベルに「世界との接続」について習うことだ。
そう、今なら分かる。エピン、イヴァン、カリックス。この三人の中でカリックスだけが収納魔法を会得できたのは、死霊魔法が「世界との接続」を強く必要とする魔法だからだろう。
だがヘンリエッタがアベルの名を出していたこともエピンは忘れていない。
万流帰宗。魔法は全て別のものに見えて、結局は一つの根源に帰っていく。
(そうだな。ヘンリエッタ先輩が魔法槍とでも呼べそうな魔法を使ったのも、つまりはそういうことなんだろう。分類してみれば分かる。アレ自体は光の属性魔法だ。それを槍の穂先で留めているのは魔法武技……ではなく、万流帰宗の理によるものなんだろうな)
つまり、エピンにも真似できる魔法ということだ。無論、そこに到るには学ばなければならないことは多そうだ。
「……こうしてはいられないな。練習しないと……!」
たぎる情熱のままにエピンが向かったのは射撃練習場だ。主に属性魔法使いたちが集まるこの場所も、流石によるともなれば自主練している者の姿もない。ない、のだが……今日に限って射撃練習場には先客の姿があったのだ。そして、それは。
「……!」
ドゴン、と。とんでもない威力の火をターゲットに向かって放つヘンリエッタの姿だった。
許容量を超えて消滅したターゲットが魔法学園ヤマダの謎の技術力で再生していくが、そもそもあんな凄まじい威力の火魔法を放てるなど……やはり世界との接続を会得しているからなのだろうか?
答えは当然イエスなのだが、今のエピンには想像することしかできない。
ヘンリエッタはそれをなんでもないというかのように「ふう」と小さな息を吐くだけで済ませて。
「あら? エピンじゃありませんの。どうされましたの、こんな時間に?」
「おつかれさまです。自主練に来たんですが……お邪魔でしたら」
「あら! あらあらあらー! 感心ですわー! 凄いですわ偉いですわー! とーっても勉強熱心ですのねー!」
目をキラキラさせながら一瞬のうちに距離を詰めてくるヘンリエッタにエピンは「え、いえ」と緊張しどもってしまう。
「そ、そんなことは……俺は、ただ。今日の体験が忘れられなくて」
「そういうところが偉いんですのよ! 忘れられなくて、何かを得たくて、飛び出してくる! そういうのは悟りの始まりですのよ!? 貴方はきっと伸びますわよ! ほーっほっほっほ!」
ぺしぺしと嬉しそうにエピンを叩いてくるヘンリエッタだが、正直全然痛くない。
(強い印象ばかりあったが……ヘンリエッタ先輩本人はこんなにか弱い方なんだな……)
気付いてみれば当たり前だろうという話ではある。どんなに強い魔法を使えても、肉体強度が凄いという話とは繋がらない。しかし、それに気付くのがこんなタイミングだとはエピンも思っていなかった。
「あの、ヘンリエッタ先輩」
「あら何ですの⁉ 今は気分が良いですから、それなりに答えて差し上げましてよ!」
「先程の魔法について伺いたいんです。アレは……なんという魔法なんですか?」
「ファイアでしてよ?」
「えっ」
「普通のファイアですわ。凄い魔法に見えたかもしれませんが、ファイアストームでもなくファイアですわ! おーほっほっほ!」
「……なんと、いう」
改めてエピンは戦慄してしまう。ファイアについては他の生徒と議論する程度には精通していると自負していたエピンは、そのあからさまな差を再び認識してしまう。ここまでの威力の差があるというのは、もはや。
「これが世界との接続……その差ということですか」
やはりそれを学ばねばならない。焦りを感じ始めるエピンの脇をヘンリエッタが「えいっ」と突く。
なんだかくすぐったいレベルのそれにエピンは「うわあっ」と少し情けない声をあげて。
「ははーん、分かりましたわよ? 私の天・才・的! な魔法を見て焦ったんですのね? うーん、男の子ですわー青春ですわー! でもそういうのはよろしくなくてよ? 焦り過ぎは! 事故の元、ですわ!」
「や、やめてください先輩! 脇をつつかないでください!」
「嫌ですわー!」
「うわああああ!」
つんつんつん、と連続で突いてくるヘンリエッタから逃げることを何故か思いつかなくて。やがて地面に座り込んだエピンに、ヘンリエッタは悪戯っぽい笑みを向けてくるのだ。
「どうですの? 余計な力は抜けまして?」




