96話:拝見、先輩の実力!
……というわけで、ヘンリエッタたちを先頭に進んで。あっという間に辿り着いた場所は、三階層である。
「フルム先輩、強すぎます……」
「ははっ、そんなことはありませんよ。私が露払い専門なだけです」
「うう、そうは言いますけど……」
リリカがショックを受けているが、キアラとて同じだ。
先輩たちとの実力に開きがあるのは分かっている。そんなものは当然で、魔法を学んでいる期間に差がある以上はどうしようもないものだと知っていた。いたが……。
(だとしても強すぎますわ……!)
フルムの周囲にいるのは火水風土の精霊たちに、フルムオリジナルだという格闘戦専用アイアンゴーレム、アイアンナックルゴーレム。
フルム一人で部隊を組んでいるようなもので、ゴブリンもオークもアイアンナックルゴーレムでぶっ飛ばすか精霊たちが、あっという間に倒してしまう。
「キアラさんは召喚魔法を主に学んでいるんでしたよね?」
「え、ええ。今は通常契約するモンスターを増やしている最中ですわ」
「なるほど。正しい成長です。それで良いと思いますよ。ただ……ゴーレムのことを、もうちょっと見直してあげてもいいかもですね」
言いながらフルムは、軽く杖を振るって。
「来なさい、アーチャーゴーレム」
総金属製の鎧騎士のようなゴーレムが背負っているのは矢筒。手に持った大弓が印象的で……そのままアーチャーゴーレムは流れるような動きで矢を番え奥へと放つ。響くのは、命中音。
「えっ、今のは……」
「私より目がいいんですよ、こいつはね。そういう風に造りました」
連続射撃、命中音。その向こうから狂暴な猿のようなモンスターたちが壁を、天井を蹴りながら縦横無尽の動きでやってきて。しかしフルムの精霊やゴーレムたちが次々と倒していく。それでも数が多い。槍を構えもせずに立っているヘンリエッタの近くまで、フルムの猛攻を抜けた猿モンスターが迫る。
「あ、先輩……!」
思わず飛び出しかけたリリカの横を、その重たげな身体からは想像も出来ない速さでホランが跳ぶ。
「ほいっと」
的確に顔面をぶん殴られた猿モンスターが床を縦回転しながら転がっていくが、どう考えても今の一撃で倒し切っている。というか、アレは三階層のモンスターである以上はオークより強いはずなのだし、オークでも今の拳を喰らえば同じことになりそうですらある。
そしてリリカには分かる。今のは魔法拳の基礎の基礎……肉体強化だ。
「あー、リリカは魔法武技を習っているんだよな」
「お、押忍!」
「肉体強化は努力次第でどんどん強くなる。励むと良い」
「押忍! 頑張ります!」
「ああ、そうしてくれ。魔法武技は他より地味なとこもあるかもしれんが、強靭な土台を作ることは絶対に無駄にはならない」
その近くではヘンリエッタがうんうん、と頷いていて。
「あの、ところでヘンリエッタ先輩」
「なんですの?」
「ヘンリエッタ先輩は属性魔法と生活魔法を学んでおられるとのことでしたが……何故槍を?」
エピンからすれば、杖を持つのが常識だ。勿論それが完全な正解ではないのだろうということも分かってはいる。けれど、ヘンリエッタはフリルのついたドレスのような華美な服装であって、鎧を着けているわけでもない。前衛向きではないように見えるのだ。
「んー、そうですわねえ」
言いながらヘンリエッタが視線を向けるのはカリックスで、視線を感じたカリックスがビシッと背筋を伸ばす。緊張したらしい。
「まず、生活魔法についてはどの程度ご存じ?」
「……カリックスが収納魔法を会得しましたが、俺は全然です」
「そうでしょうね。そもそも生活魔法は世界と接続する魔法ですのよ。属性魔法でもいずれ理解しなければならない概念ですが、その辺はアベル先生にお任せするとして」
生活魔法とは生活で使える魔法だ。その為少ない魔力で発動できるのは当然だが、収納魔法のようなものは当然、それなり以上の魔力を休まず使い続ける必要がある。
まあ当然だ。亜空間を一度作ったとして、それを維持するにも魔力が要る。ではそれを寝ている時も維持し続けるにはどの程度の魔力があれば可能となるのか?
答えは、そんなアホな真似を出来るのはコアくらいなもの、である。
実際には自分の魔力を鍵、そして楔として世界の魔力にアクセスし、さながら世界の一部であったかのように自分の亜空間と世界を繋ぐ。そういった作業が必要になるのだ。
……だが、ここで大事なのは収納魔法のことではない。生活魔法は高度になればなるほど、世界の魔力を感じ、借り、繋ぎ……そういった技術を前提としていることだ。そして、それは。
「万流帰宗」
「ばんりゅう、きそう……」
「魔法は全て別のものに見えて、結局は一つの根源に帰っていくものですわ。視野を狭めず、自分に必要なものを見極め、どん欲に吸収すれば……」
「お嬢様、シルバーアームが来ます!」
「どうなるか、見せてさしあげてよ!」
ヘンリエッタは槍を此方に凄まじい勢いで走ってくる銀毛の大猿モンスターに向けて。
「回転……!」
槍の穂先に集まり回転する光の魔力は、輝ける槍の穂先……コアがこの場に居れば「ドリルだー!」と叫んでいただろうソレを作り出して。
「これぞ私のオリジナル魔法! 世界の魔力を借り作り出す偉大なる回転槍!」
飛び掛かる大猿……シルバーアームへと、ヘンリエッタはためらいなく巨大な突撃槍のようになったソレを突き出す。
「ドリル……インパクトォ! ですわあああ!」
回転する光の槍がシルバーアームをあまりにもあっけなく粉砕し、イエンの雨へと変えていく。
万が一すらないオーバーキル。今日一番の大火力に、フルムとホラン以外の全員がポカンとした様子のまま固まって。
「こうなるってことですわ。よろしくて、後輩の皆様?」
何故ヘンリエッタがこのチームのリーダーで、何故部長なのか?
それを強烈に分からせてくる一撃はリリカに、エピンに……全員に、簡単に消えそうにはない情熱の炎を宿らせていた。




