91話:VSミミック
本来であれば間に合わないタイミングだっただろう。だがボーンアーマーは違う。ボーンアーマーは、装着者の身体能力をもある程度強化するのだから。
だからカリックスの本来の身体能力では有り得ない跳躍力で、カリックスは跳んで。
ドゴン、と。激しい音と共にミミックを蹴り飛ばす。
そう、蹴り飛ばしたのだ。ミミックがどれだけ硬いとはいえ、重たいわけではない。
ならば充分な勢いと力があれば蹴り飛ばすことなど簡単だ。問題があるとすれば、それは。
(……硬い……! 今の僕なら、オークとだって渡り合えるはずなのに……!)
それは、ミミックが硬すぎるということだ。ボーンアーマーだって魔法である以上、その拳には魔力が宿っている。いわば劣化魔法拳といっていいが、その程度ではミミックを貫くには到らない。およそ硬さにおいてミミックはモンスターの中でも上位。倒すには物理ではない魔法が要る。
(倒せないはずが、ない。たぶん物理じゃ無理なんだ。もっと純粋な魔力そのもので……)
「エピン!」
二本の腕を乱雑に、しかし凄まじい速度で振り回すミミックのその腕をボーンアーマーで受けきりながらカリックスはエピンへと叫ぶ。
「僕が、守る! だから、魔法を! こいつが、避けられないようなのを……!」
「ああ、分かった!」
「おね、がい!」
カリックスの拳がミミックの腕とぶつかり、ミミックが一方的に弾かれる。その隙にカリックスは懐へと潜り込み拳の乱打を喰らわせる。
素直に評価するのであれば、カリックスは格闘戦が不得手なわけではない。
エッセンヒル王国のウィンターベル公爵領は、ウィンターベル公爵家は伊達に「エッセンヒル極北の盾」だの「極北の魔獣」などと呼ばれてはいない。
国の支援がない状況で魔境のモンスターたちと戦うためには、武器がない状況での戦闘術にも長けていなければ生き残れない。生存を目的とした武術は連綿と受け継がれ、当然カリックスも習っている。
嗚呼、そうだ。カリックスとて極北の盾であり魔獣なのだ……!
(見える。対処できる。僕にも、やれる……!)
互いに攻撃が決め手にならないのであれば、あとは……手札の多さだ。エピンの魔法さえ食らわせてやれば勝てるはずだとカリックスは確信している。だがミミックはそれをさせじと自分の位置を変えながらカリックスが盾になるように動いている。だからエピンは未だに魔法を撃てていない。そしてこのレベルの打撃戦にイヴァンも割って入ることが出来ない。なら、どうするか?
カリックスの意志に反応し、スケルトンナイトたちが盾を構え前進する。
いつでも斬りかかれるように剣を持つその姿をミミックは邪魔だと思ったのか、その長く黒い腕でスケルトンナイトたちを吹っ飛ばして。
……だがそれは致命的な隙だ。均衡している中で他に注意を向けたのだから。
地面を蹴り跳んだカリックスの足がミミックの宝箱の蓋を勢いよく踏み、その衝撃でミミックの蓋が閉じ、バランスを崩したミミックが前へとバランスを崩す……!
「エピン!」
どんなに素早くても、バランスを崩した一瞬だけは初動が遅れる。それでもエピンのファイアやファイアボール程度であれば発動後に避けられるかもしれない。
エピンもそれは分かっている。自分の魔法は未熟だ。これだけ場を整えてもらっても、未だ足りないものが多すぎる。
そんなことは分かっている。どちらを使ってもミミックを多分仕留められない。ならばエピンが使うべき手段は一つ。多数を仕留める広範囲魔法だ……!
「ファイアストーム!」
すでにカリックスはミミックから離れるように跳び、こちらへと戻ってきている。だから迷う必要はない。
狙うべきはミミックとその周囲。エピンの杖から噴き出した炎が渦を巻き、予想通りに回避しようとしたミミックを焼く。避けられるものなら避けてみろと、そんな執念すら感じる炎がミミックを焼いて。
「ファイアボール」
まだ生きていると。自分の魔法一つで仕留め切れたはずがないと。そんなエピンの判断通りに飛び出してきたミミックに、エピンの放ったファイアボールが命中、爆発しその身体を四散させる。
「ああ、分かってたよ。俺がどんなに本気になったって、さっきの一発くらいじゃ倒せないってな。でも……これで終わりだ」
ミミックの身体が消え、大量のイエンやアイテムが落ちる音が聞こえてくる。
それはエピンの言った通りに勝利の証であり……新入生の中では初めてとなる、先輩の助けなしにミミックに勝利した快挙でもあったのだ。
「ふーん……カッコいいじゃん。やるねー、3人とも」
いつでも助けに入れるように3人から見えない位置にいたハリエットは、そのまま静かにその場を離れていく。こういうときは、最初からいなかったことにするのが一番いい。
エピンに抱き着いて喜び合う男子たちの青春を邪魔するほど、ハリエットは野暮ではないのだから。




