88話:からあげって美味しいよね
翌日。エピンとイヴァン、カリックスの三人は食堂に集まっていた。
時間は丁度お昼時、選んだメニューは「今日のおすすめ定食」だ。たっぷりのからあげ、千切りキャベツ、そして山盛りのライスと……デザートにフルーツもついたセットだ。
揚げ物の匂いはどんな世界、どんな時代でも暴力的で、周囲にいる生徒たちも皆「おすすめ定食」を頼んでいる辺り、おすすめがおすすめである所以かもしれない。
「はー……この、からあげだっけ? すっごい美味しいよねえ。作り方が凄い贅沢だし」
「まあ、確かにな。とはいえ、だ。たぶんこのからあげ含め、魔法学園の料理は今後世界に広まっていくだろうな」
エピンの視線の先をイヴァンとカリックスが追えば、そこには厨房で忙しく動き回る他の生徒たちの姿がある。資金稼ぎの手伝いと、調理魔法を学ぶために師事している……そんな一石二鳥のことをやっている生徒は意外にいる。美味い料理に魅せられた者の多さでもあるし、胃袋を掴むということの強さの証明でもあるのだろう。
「ああ……皆、調理魔法を、覚えたいん……だね」
「そういうことだな。あの魔法とレシピを会得すれば宮廷料理人だろうと貴族向けの料理店を開こうと成功するだろう。特にこのからあげだ。味付けが全く分からんが美味い……!」
「毎日からあげ食べたいなあ」
「流石に飽きるんじゃないか?」
どんなに美味いものでも毎日では飽きると、そんな貴族らしい感覚をエピンも持っていたが……カリックスは同じく貴族ではあっても、また違う感想を持っていた。
領地の皆にも食べさせてあげたい。けれどカリックスはとても調理魔法にまで手は出せない。となると、調理魔法使いを今のうちに目をつけて領地に来てもらうように説得した方がいいのだろうか?
「お、どうした? 気に入らない味だったか?」
そこまで考えたとき、ポンと肩を叩かれてカリックスはびくりと飛び上がりそうになる。
「え、な、だ……誰、ですか?」
カリックスの驚きが全く抜けていない声に肩を叩いた男はキョトンとした表情で……しかし、楽しげにハハッと笑うのだ。
なんとも外交的な印象の男だ。赤い髪を真ん中分けにして切り揃え、健康的に、そしてうっすらと日焼けした肌はそれでも美しく、一目で鍛えていると分かる身体を白いシャツの中に隠している。
ベージュのスラックスも清潔感があるが……やはり気になるのはその美形としか言いようのない顔だろう。赤いたれ目の瞳は何処か色気を含み、すらっとした鼻筋と笑顔の形に結ばれた唇は人好きのする印象を作り出している。何故だろう、なんだか頼りになる……悩みを相談したいような気にさせるのだ。
「ああ、ごめんな。驚かせちまったか! 俺はヒートン! そこの厨房にいる連中の先輩だな!」
「といいますと……調理魔法を学んでいらっしゃるのですね」
「そういうことだ。最近はちょっと食材探しの旅に出てたんで戻って来たのは今日だけどな!」
あまりにもアッサリと言うヒートンに、エピンもイヴァンも……カリックスも驚いてしまう。
当然だ。だって魔法学園ヤマダは空を飛んで移動しているのだ。
たとえ何処の誰であっても追いかけるどころか現在位置を探ることすら難しいはずなのに。
いや、けれどキリアンやクリスの例もある……そういう手段がある、ということだろうか?
「お? 考える力がついてるねえ。いい傾向だ! そうじゃなきゃな!」
「ということは……移動する学園と外を行き来する手段があるのですね」
「そいつは秘密だ。ごめんな!」
言いながらヒートンはエピンからカリックスに視線を戻して。
「で、どうしたんだよ。何か悩みがあるなら聞くぜ?」
「……その。こんなに美味しい食事を……領地にも持って帰りたいな、と」
「なるほどな。じゃあ勧誘頑張らないとな!」
「うっ……そう、なりますよね」
「おう、そうなるな! 皆が将来を見据えてからじゃ遅いからな。まあ頑張れ!」
ハハハ、と去っていくヒートンを見送ってイヴァンは「凄い先輩だったね」と呟くがエピンもカリックスも同意だった。そして「良い人っぽい」という感想も同じだ。
ちなみにだがヒートンが戻って来たというのは当然そういう設定で、昨日の夜に……丁度その辺の椅子にちょこんと座っている白猫コアが設定し創造した「新しい先輩」である。さておいて。
「で、だ。丁度食事の手が止まったから言うんだが」
エピンが言えば、イヴァンもカリックスも自然と姿勢を正す。別に誰がどうと決めたわけではないのだが、自然とエピンがリーダーのようになっていた。それはやはりエピンが思慮深く、考えたことを口に出す力が3人の中で一番あるからだろう。
「昨日、イヴァンの強化案で進捗があった。その件でこの後売店に行こうと思うんだが……カリックスはどうだ? 予定があるなら無理にとは言わないが」
「……ううん。僕も、行くよ。丁度売店で欲しいものもあるから」




