83話:先輩が来たぞ(猫もいるよ)
さて、そんなわけで猫らしく尻尾をピンとたてた……それが猫らしいかどうかは諸説ある……そんな白猫コアとハリエットは鍛冶場までやってくる。
他の建物から離れた場所にある鍛冶場は、そこを目指そうと思わなければ中々辿り着かない場所に存在している。だからこそ気兼ねなく金属を叩く音が響いており、その音に負けないくらいの煩い音と勢いでハリエットは鍛冶場の扉を開ける。
「やっほー! あたしが来たよ!」
ビリビリと響く大きな声に、鍛冶魔法教師のコガンダが「うるせーぞ!」と更なる大声で返す。
もはやビリビリと空気を震わすレベルの大声だ……近くに居たイヴァンが引っくり返っている。
「ったく、何しに来やがったハリエット。音で制作中だって分かんだろがよ」
「えー? 音で手癖でやってるって分かったからだよ。それにほっといたら、いつまでも手を止めないくせにー」
「おう、そうかい。で、今日は何しに……」
「ハ、ハハハ……ハリエット先輩!?」
「うっせーなお前もよお! 鍛冶魔法に関わるのはこんなんばっかりか!」
「あはははは、面白ーい!」
勢いよく起き上がったイヴァンと、大笑いするハリエット、そして溜息をつくコガンダ……あと律義にドアの外からニコニコしている白猫コア。
コガンダはドアまで歩きピシャリと閉めると「で?」とハリエットに問いかける。
「今日は鎧を纏っていらっしゃらないんですね!? 素敵ですハリエット先輩……!」
「ありがとー、イヴァンは今日も面白いね!」
「光栄です!」
「おいこらイヴァン。アホやってんなら外に放り出すからな」
「申し訳ありませんコガンダ先生!」
イヴァンが落ち着いたところで、コガンダは「で? 何しに来た」と問いかける。
他の生徒ならともかく、ヤマダ一族であり「先輩」役のハリエットが此処に来た、しかも白猫コアも連れてきたということは、白猫コアが何かをハリエットに吹き込んだのは明らかだ。問題はそれがなんであるかだが……ハリエットは快活に「あはっ」と笑うのだ。
「ちょっと見てて面白い装備を作ってみようかなって」
「……なるほどな」
その一言でコガンダは全てを察する。今ドアの外にいる白猫コアの入れ知恵ではあるだろうが、コガンダはその役割上、あまり変な装備は作れない。しかし学生が自主的に作っている分には何の問題もないし想像力や多様性という意味では必要だ。特にイヴァンは中々に頭が固そうだし……ハリエットがそういう方向性を担うのは正直助かる話だ。
(やるじゃねえか、コア……青春吸い猫だけじゃねえところをしっかり見せてくるな)
そこまで白猫コアが考えていたかどうかは本人しか知らないが、コガンダは自分の中で白猫コアの評価を上げてニヤリと笑う。
「丁度いい。今、お前の後輩にもデザインってのは何かを教えてたところだ」
「そうなの?」
「はい! ご教授頂いてました!」
「固いねー。で、何? あたしも教えろって?」
「いいや、問答だよ。ハリエット、デザインとは何だ!?」
「満足! これなら着けて死ぬのも不足はないって可愛さ&カッコよさ!」
「聞いたかイヴァン。こういう信念がデザインを生むってことだ」
「はい! 俺も頑張ります!」
「よし、ならイヴァン。お前にとっての最高のカッコよさは何だ」
「ドラゴンです!」
「おうそうか、男子だな」
「はい! ドラゴンは超カッコイイですから!」
即答するイヴァンを見ながらハリエットは「ドラゴンメイルとか造りそうー」とか思っていたのだが、イヴァンの頭の中にあったのはまさにそれである。誰が着るかはさておいて。
「でもそうか、カッコよさは確かに重要だよね。エピンに似合うカッコよさ……やっぱりドラゴンだよね……火魔法使うんだし……」
デザインを紙に書き始めたイヴァンをハリエットもコガンダも見守って、しばらく放っておいても良さそうだと判断する。アレはいわゆるゾーンに入り始めているから、放っておくのが一番いい。
「で、ハリエット。面白い装備って何作る気だ?」
「肩がでっかい鎧」
「ああ? なんで肩がでっかいんだよ。そこを武器にでもする気か?」
「そういう風に使えたら、面白いしカッコよさはあるでしょ?」
「まあ、好きにすりゃあいいけどよ……」
「じゃあ邪魔しないように隅っこでやってるからー」
「いえ! どうぞお好きに!」
「わあ、ビックリした!」
急に立ち上がったイヴァンにハリエットは驚いた様子を見せるが、イヴァンはどうにもすでにデザインを終わらせたようで、ハリエットにキラキラとした視線を向けてきている。
「俺もハリエット先輩の鍛冶を見てみたいと思っていたんです! お邪魔はしませんので拝見させていただけませんか!?」
「おお、熱血……まあ、うん、いいけど。コガンダ先生みたく凄くはないから期待しないでね?」




