82話:先輩の示す指針ってやつ
「えー、結構適当なこと言ったと思うんだけどなあ」
「確かに適当だけど、難しい指示投げられた気分……うーん」
凄い装備、だけなら楽な話だ。ハリエットが今の自分に出来る最高を作ればいい。先輩レベル、これもいい。現実的に目指せる範囲で、ということだ。しかし「指針を示せる」となると一気に難易度が跳ね上がる。
どの層に向けて、どのような指針を示すのか? それによってどういう学びを期待するのか? 凄く難しい話だ。
「あのさー……そういうのって売店の装備でやってるって話ではー?」
「そうなんだけどな。先生の作ったもの、と先輩の作ったもの、は違うだろ」
「その頑張れば追いつける感出せって指示がなー……うーん」
とはいえ、言いたいことは分かるのだ。たぶんこの前会った子……イヴァンの手伝いというよりは鍛冶魔法とか彫金魔法とか、そういう魔法の凄さをもっと知らしめろという話なんだろうなー、とハリエットは考えているし実際その通りではある。
「ま、指輪はこれでいいとして」
「そういやどんなの作ってたんだ?」
「火耐性アップの指輪。ちょっとした火傷が防げるくらいだから名前は『火難除けの指輪』ってところかなー」
「結構凄くね?」
「そうでもないかなー。マグマに飛び込んで死なないようには作ってないし」
「そんなアホはもうどうしようもないだろ……」
「かもねー」
笑うハリエットに、白猫コアも笑って。しかしそこで何かに気付いたようにハッとする。
「そういえばいつの間にか敬語が消えている……」
「無茶振りする人には敬語いらないかなって……あ、猫か」
「いやいいけどさ。そのほうが気楽だし」
「でしょ?」
さておき、他の装備の問題である。一体何を作るべきか? 白猫コアとハリエットは首を傾げて……やがて白猫コアはその場で香箱座りをして目を閉じる、が。そこにすぐさまハリエットが手を差し込む。
「思いつかないからって、ただの猫のフリするのどうかと思うな」
「だからって手を突っ込むか?」
「なんかあったかくて気持ちいいね」
言いながらハリエットは白猫コアを軽く揉んで、そうしているとアイデアが1つわいてきたのだ。
気持ちがいい。そう、誰だって気持ちいいほうが良い。それはダンジョンでつける装備でだって一緒だ。ハリエットも鎧を着込んでいるし。
「着てると快適になるインナー作ろう!」
「おう。俺はもっと鎧とか作るのかと」
「大事な問題だし服飾魔法使うからいいんじゃない?」
「いいけどさー。色んな状況に対応するもの作るとなると、相当複雑になるんじゃね?」
「そこまで凄いのは作らないよー。冷感と温感のを別々で作ればいいし」
「あー、それならいいか」
鎧を着る生徒は冷感のインナーを重宝するだろうし、デザイン重視で薄いものを着る生徒は温感のインナーが助かるかもしれない。なるほど、確かに生徒の服装の自由を守るには良いものだ。売れるだろうし、服飾魔法に憧れる生徒も増えるかもしれない。
「そういうのが出来るなら、趣味装備も見えてくるな」
「たとえば?」
「なんかこう如何にもファンタジーな装備とか」
「デザイン的な話?」
「そう、あるだろ? デザイン的に意味ないやつとか」
「うーん……まあ、やってみるね」
インナーは此処で作れるが、鎧などを作るとなれば鍛冶場に行かないといけない。
とはいえ、それもいいだろうとハリエットは思うのだ。だって、一応鍛冶魔法も習っている設定だし顔を出さないのもどうかという話だ。
「ところで、コアはなんでそんなこと言い出したの?」
「え? なんでって……」
「基本思い付きで動いてそうだし、何か見たのかなーって。ダンジョン関係でしょ?」
「おう。エピンとイヴァン、あとカリックス。覚えてるだろ?」
「そりゃ勿論」
この前魔導祭で会ったばかりなのだから忘れるはずもない。しかしその名前を聞けばだいたい事情も分かってくる。壁にぶち当たっているのだろう、と。大正解だ。
「それ最初に話すべきじゃない?」
「いやエピンたちを贔屓したいって話じゃないからな。壁にぶち当たった生徒たちに指針を……ってな」
「ふーん。まあ分かったよ」
だとするとイヴァンは鍛冶場にいる可能性もあるけれど、そういうことなら「先輩」として何かしてあげるのもアリかもしれない……というのはハリエットなりの優しさだ。であればインナーは後回しでもいい。ハリエットが立ち上がると、白猫コアが余計な鋭さで青春の気配を感じて立ち上がる。
「鍛冶場に行くんだな。俺も同行しよう」
「猫は危ないから立入禁止に決まってるでしょ」
「そんなヤワな猫じゃないし」
「より一層ダメでしょ。普通の猫ぶってよ」
「ぐぬぬ。外で聞いてるから」
普通の猫ぶるには、鍛冶場に立ち入ってはいけない。そこは白猫コアとしても理解できるのだが……実に苦渋の決断である。




