76話:フットワークの軽さは大事
大きめの青春に白猫コアがニコニコ顔をしていたその頃、キアラは何をしていたのか?
その答えは「家族と会っていた」である。召喚魔法使いとしてそれなりに成長したキアラが卒業後にそれなり以上に立派な魔法使いになるのは疑いようがなく、家族でありオータムレイン王国の王もそう考えていた。
王族だから特別に歓待するとか、そういうものがない魔法学園にオータムレイン王も面食らったものの、他の国の王や皇帝も同じであれば文句も言い難いし……何より、この学園の持つ魔法技術たるや凄まじい。
だからキアラとオータムレイン王が並んでベンチに座っている姿は、国では見られない光景だろう。
「本当にこの学園は素晴らしいわね、キアラ。見てご覧? この水差し、勝手に水が溜まるのよ。これを巨大化出来たら水不足はなくなるでしょうに……どういう理屈なのかしらね」
「ええ、日々素晴らしい学びを得ていますわ」
……ところで、だが。オータムレイン王国は代々女性の王族を王とする国である。これにはオータムレイン王族の秘伝魔法が女性にしか使えないものであり、それを代々受け継ぐべき王の証としているからだが……つまるところ、キアラの親でありオータムレイン王もまた女性である。父親は王配であるわけだが、つまるところキアラも将来はオータムレイン王となることを期待されている。
「ええ、そうでしょうね。召喚魔法……だったかしら? 聞くだけでワクワクする魔法ね。防衛力としては勿論、様々な使い方があるはずよ。そういった方面も学べるうちに学んでおくことを薦めるわ。いずれの貴方の統治の時代の為にね」
「ええ、お母さま。学べることは全て学んで帰りますわ」
「期待しているわ」
正しく親子の会話だろう。王と王女の会話でもありながら、母と娘の信頼感を感じさせる会話でもあった。
「……お父様は、最近いかがですか?」
「ダメね。最近は魔塔とコソコソ何かやっているようだけど、アレには王配としての自覚が欠けている……やはり政治だけで伴侶を選ぶとダメね。貴方はしっかり恋愛なさい……で、どうなの? キリアン殿とはうまくいきそうなの?」
「う、うまくいくとか、いかないとか! チャンスは逃さないつもりですわ! それに……友情も大切にしてますのよ」
「ふうん? 友情ねえ……まあ、大事なことよ。その子が良いなら国に連れてくるといいわ。爵位程度、いくらでも都合してあげるから」
「だからお母様は気が早くてよ……」
気が早い。まあ、確かにそうかもしれないがオータムレイン王からすれば奥手に過ぎる、と言えなくもない。すでにどの国でも自国の後継者なり貴族なりから今日報告を受け、今後の対応を指示している者も多いだろう。魔法使いの確保とはそれだけ大事な国策でもあるのだ。
(けどまあ……うちは小国だし。娘の友情とやらを見守るのも大事よね。恋路はどうなるか分からないけど。キリアン殿でなくてもいいから良いの捕まえてきてくれないかしら)
あのアベルとかいう教師であれば言うことはない……などとオータムレイン王は思うのだが、見る限りかなり気難しそうなのでキアラに御しきれないのは明らかだ。
「それで、その友人は何処に? てっきり紹介してくれると思ったのだけれど」
「それは山々だったのですけれど……最近人気ですぐ誘われるものですから。今日はその、数も増えましたので。一時的に退避していただいてるのですわ」
「あら、貴方の恋も友情も忙しいのね。大丈夫そうかしら?」
「お母さま……私は自分の相棒を奪われるほど迂闊ではなくてよ」
「ならいいのだけれど」
今日此処にリリカを連れてきていたら早速爵位の話をしそうだとキアラは思うのだが、その通りである。オータムレイン王は娘の目を信じているので、そんな娘が相棒などと言うような相手を逃がすはずがない。こればっかりは何処の大国の娘であろうと引っ張ってこようと考えている。
「……一応聞くけど庶民? 国は?」
「庶民ですわよ。アレス王国の出身で、あちらの王太子と貴族と一緒に来てますが交流はありませんわ」
「いいわね。伯爵位までなら貴方の裁量であげていいわ。アレス王国には此方から交渉を入れておくから。確か来てたはずよね、こっちに」
「ええ、私も拝見しましたわ」
「なら急ぐべきね。後でまた会いましょう」
早速とばかりに早歩きで……けれど優雅な動きを崩さないオータムレイン王を見送ると、キアラはリリカのことを思う。そう、リリカはキアラの相棒であり友達だ。一緒に強くなっていっている仲だし、今後もそうである予定だ。今更、たかが出身国が同じだからってアレス王国にリリカを渡す気はない。
「……ええ、そうですわ。リリカさんを他の奴になんて渡せませんもの。私が守らなくては……」
「あ、えーっと。じゃあ私がキアラさんを守ればいいんです、かね?」
いきなり聞こえてきた声にキアラは「ひゃっ」と驚きのあまり可愛らしい声をあげて。
「リ、リリカさん!? なんでこっちに来てるんですの⁉」
「なんか猫が急に走り出して、思わず……」
リリカに捕まっている白猫コアが良い仕事をした顔をしていたのは、言うまでもない。




