74話:キリアンはモテる
ところで、だ。キリアンはモテる。凄くモテる。
どのくらいモテるかというと、たぶん学園で一番だ。まあ仕方がない。
キリアンから招待状を貰った者は言うまでもなく、それ以外でもキリアンの話を聞いたり絵姿を買ったり……色んなルートで「黒の魔法剣士キリアン」に憧れる者は多いのだ。
まあ、当然ではあるだろう。この世界では比較的珍しく、それ故に何処か魅力的な黒色の髪と目。
この学園にもたくさんいる王子や皇子たちよりも「王子様」っぽくキラキラしい見た目とクールでありながら優しさを見せる態度。そして何よりも世界中で人助けをした実力。絵本の主人公のようだ、という評価はあながち間違っていない。
そんなキリアンは学園のあちこちで見かける……というより、ダンジョン探索時に時折助けに来るため、男女問わず人気がある。キリアンと一緒にダンジョン探索できる実力をつける、というのは1つの目標になっているようだが……その前に友好を深めようという者は多いし、保護者のいる魔導祭の最中ともなれば、キリアンの卒業後の進路を自分のところにしたい者もたくさんいる。結果、どうなるかといえば……。
「キリアン先輩、この前はありがとうございます! あのですね、実はあれから魔法のことで色々と勉強して疑問が生まれてきて……!」
「必要としてる魔法分野ってありますか!? 参考にしたくて、是非教えてほしいんです……!」
「キリアン先輩、装備の相談にのってほしいんです!」
「クッキーとかお好きですか!? 私焼くのが得意で!」
「ニャー」
「キリアン先輩の杖と同じものが欲しいんです! でも売店になくて詳細を教えてほしいんですけど……!」
「キリアン殿! 卒業後の進路について聞かせてもらえないか!?」
「我が国の有望な者を入学させたいのだが何処で相談すればよいだろうか……!」
「キリアンせんぱーい!」
「あれっ、いない?」
するっと抜け出したキリアンが上手く遮蔽物を利用しながら消えていくが……そのまま静かな場所まで行くと、キリアンは抱えていた白猫コアをその場に下ろし木に背中を預ける。
「はー……まったく、自業自得とはいえ参るな」
「モテて大変とか贅沢な悩みじゃね?」
「即座に縁談に繋がるんだぞ。俺が何処かの紐付きになってもいいのか?」
「まあ、あんまり変なとこだと困るかもだけどな」
それはそれとして青春を否定する気は白猫コアには微塵もない。だからキリアンがモテモテになっているのを見るのは楽しいし、そこから始まる青春模様も物凄く楽しい。リリカとキアラの友情などは、まさにキリアンから始まった青春だ。どちらもキリアンを好きなようだが、どう転がっていくのか白猫コアとしては本当に楽しみだ。ただ、もしどちらかがキリアンルートになって片方の笑顔が曇ってしまうのは悲しいものだ。その解決策は何かないものか……。
「なあキリアン。ハーレムエンドとか逆ハーレムエンドってどう思う?」
「何言ってんだお前って思う」
「だよなあ……ハッピーエンドで終わりじゃないもんなあ……大奥とか後宮とか怖いもんなあ」
「王族にそういう文化はあるけど、アレは必要に迫られてだからな?」
「まあな。現実的に考えると友情エンドが幸せなんだよなあ」
「そんなに好きならお前がやればいいだろ……」
「嫌だよ何言ってんだ。俺は混ざりたいんじゃないんだ、見ていたいんだよ。何のためにこの愛され猫ボディがあると思ってんだ。空気でも壁でも床でもなく猫を選んだのは場所を選ばず、けれど空気を読みつつ青春を見て楽しむためにだなあ」
「はいはい、分かったよ」
どうしようもないコアではあるが、生徒のためにという心は本物だ。
女神の意志である「魔法を世界に広める」という大義と「魔法学園っていう青春の舞台を見て楽しみたい」という極めて個人的な欲望を両立させているのは流石と言うしかないし、結果として世界を揺るがしつつある。
今日のこの魔導祭も生徒の視野を広めるだけでなく、保護者……これでもかというくらいに混ざっている世界の有力者たちに魔法学園ヤマダの実力を刻み付け、魔塔による魔法の独占体制を揺らがしている。今後、各国は魔塔との関係を少しずつ切り離していくだろうことは目に見えていた。
このどうしようもない青春永遠見学席猫が、その思い付きで世界を女神の望む通りに翻弄しているのは、まさしく女神の選定眼の正しさであるのだろうと、キリアンはそう思う。
と、そこで白猫コアとキリアンは同時に何かに気付く。白猫コアはその場でわざとらしくキリアンに寄り添い、キリアンは我慢して表情に出ないようにしながら木に寄り掛かったままで、こちらに向かってくる人物へと備える。その誰かは、キリアンの居る場所までやってきて……やがて「あっ」と声をあげる。
「キ、キリアン先輩……!?」
「リリカか。どうしたんだ、此処には何もないぞ?」




