72話:青春はいつだって突然だ
ダンジョン前広場。学園内にダンジョンがあるという時点で外部の人間には驚きのはずだが、入れないとなれば本当に外から見るしかないので、今は保護者たちは此処に一人も居ない。
だから、というわけではないが……ちょっと人混みから離れたい生徒にとっては良い場所だ。
といっても生徒は生徒で自分の知らない魔法分野に触れられる……しかも個数制限があるとはいえ外の通貨を使いアイテムを仕入れられるチャンスでもあるのでじっくり吟味しながら買っている者も多い。
だからこそ、ここに居る生徒はカリックスたちだけで。イヴァンはノートを取り出し唸りながらデザイン画を幾つも描いていた。
円陣を組むように地面に座る三人は、すでになんとも仲が良さげだが白猫コアに言わせれば「お祭り効果」だ。要は楽しげな雰囲気に合わせてなんか仲良くなる現象であるらしい。
「話を聞いてると習いたくなってくるんだよなあ。でもあれもこれも手を出せるほど簡単な魔法じゃないってのも分かったしなあ……」
「どの先生も良い先生、でしたね……」
「だな。しかし……だからこそ不思議なんだよな」
「何が、ですか?」
「ああ。キリアン先輩は属性魔法に武術だろ? クリス先輩は光魔法と……あと多分、医療魔法も習ってる」
「そう、ですね?」
何を言いたいのか分からない、と言いたげなカリックスにエピンは「分からないか?」と続ける。
「他の先輩に会ったことがない」
「あ……」
「そりゃまあ、今まで存在を秘匿してたんだ。大々的に募集してるわけもないが……だからって、他の先生方が教えてる先輩が居ないってことはないと思うんだよな」
「確かに……そうですね?」
「でも俺は男子寮でそんな先輩に会ったことないし、女子がそんな先輩について話していることを聞いた記憶もない」
言われてカリックスは納得し、イヴァンはデザインに没頭して聞いていない。
しかしカリックスも確かにそう思うのだ。他の分野を習っている先輩も居てもおかしくないのに、今のところ会ってはいない。
では、何処にいるのか? 外の世界で活動している可能性もあるが、聞いたことはない。だとすると……ダンジョンの中、だろうか?
そうカリックスが考えたそのとき。ガシャンガシャン、と。何か重たげな音がダンジョンの中から聞こえてくる。
「え?」
「まさか……誰かダンジョンに入ってたのか⁉」
新入生は皆「魔導祭をしっかり見て楽しむように」と言われている。であれば、中に居るのはキリアンやクリスだろうか? しかし、どちらもそんな重たい装備はつけていなかったはず。となると……。
「うおっ……」
「え? うわっ! よ、鎧!?」
ダンジョンの入り口に現れたのは巨大な濃いピンクの全身鎧だ。フルフェイスの兜までしっかりと被ったその「鎧」がモンスターの類ではないと分かるのは、そのピンク色と……バイザーの奥にしっかりとした気配があるからだ。しかしイヴァンも思わずノートやペンを落とす程度にはインパクトがあるしカリックスはすでにエピンの背後に隠れている。
よく分からないが先輩だ。しかし武器を持っているわけでもなく、あの頑丈そうな鎧だけだ。まあ、あのガントレットで殴られたらゴブリンなんか顔面が粉砕されそうではあるけども。
「あれ~?」
そんなエピンたちの前でバイザーを上げた兜の奥にあったのは……『綺麗な美人』であるクリスとは違う「可愛らしい美人」な顔立ちの少女であった。
「あ、そっか。後輩くんたちだ!」
兜を外せば明るい桜色の髪がさらりとたなびき、同じ色の瞳が見据えれば、イヴァンはその動きを石になったかのように止める。
一方の少女は気にもせずに落ちているノートを見つけ拾い上げて。
「へえ、デザイン画? そっちの死霊魔法の子のかな? 結構上手いじゃない!」
「あの……先輩、ですよね?」
イヴァンとカリックスが置物になってしまっているのでエピンが代表してそう聞けば、少女はイヴァンにノートを返しながら「そうだよ!」と笑う。
「あたし、ハリエット! ハリエット・ラピス! よろしくね後輩くんたち!」
「お、俺! 俺、イヴァンです!」
「カリックス・ウィンターベル……です」
「俺はエピン・オクロックです。よろしくお願いします、ハリエット先輩」
「うん、よろしくねー」
「早速ですが、もしかして先輩は武術を……」
「あはは、習ってはいるけどね! あたしの本命は各種の制作系! この鎧もあたしが作ったんだ!」
言われてイヴァンはハッとしたようにハリエットの鎧を見る。なるほど、確かに売店では売っていない鎧だ……色を別にしても、ハリエットにしっかりとフィットした鎧であるだろうことがよく分かる。こんなものを用意しようと思えば、サイズ調整だけでは済まない。
……ちなみにだが当然「そういう設定」である。あるが、ハリエットは寸分違わぬものを人前で簡単に制作できる。さておいて。
「制作系の先輩……居たんだ……それも、こんな可愛らしい方が……」
お前はクリス先輩に熱を上げていなかったか、などとはエピンは言わない。だって、クリス狙いのライバルが消えるのはエピンとしては嬉しいし。
……まあエピンはクリスのことを絵姿でしか知らないのだけれども。




