70話:まだ友情と呼べるかは分からないけども
「俺はそれでいいと思うぞ」
「えっ、あっ」
「勿論、カリックスがいいなら。ただ、敬語は無しでお願いしたい。それがルールだからな」
不器用ながらカリックスへの気遣いを見せるエピンにイヴァンは小さく微笑む。まだエピンとの付き合いは短いが、エピンはイヴァンが彼なりにカリックスのことを心配し気遣っていることが分かっていた。その上で、それを感じさせないようにふるまっていることも。
本当に貴族らしくないエピンだが、そういうところをイヴァンは気に入っている……勿論、本人にそれを言うことはないけれど。
「イヴァンはこう言ってるし……どうかな?」
「……ええっと。敬語が楽なので。そこは許してもらえると」
「だってさ、エピン」
「ああ、それならそれでいいと思う」
余計な気を回したか、と言いたげな顔をしているイヴァンがエピンには面白いが、ひとまず放っておいてイヴァンはカリックスに「じゃあ、よろしく」と握手を求める。
「……よろしく、お願いします」
「じゃあ早速カリックスの装備案を詰めていこうか! カリックスは今着てる、そのカッチリ系みたいなのがいいんだよね? 服飾は俺の担当外なんだけど、デザインは好きだから服飾魔法も習ってみようかなあ。でもとりあえずは装備からだけど、まずは杖をデザインしようか。俺としては材質は要検討として黒で統一するより銀色系もいいかなと思ってて候補としては」
「待て待て、待てイヴァン。調子が上がってるのは分かるがカリックスがビックリしてるから」
「あ、ごめん!」
イヴァンと握手したまま目を白黒させているカリックスの手を離しイヴァンは「あはは」と照れ笑いをして、そんなイヴァンに釣られたようにカリックスと白猫コアも「プッ」と笑う。
「あはは……ははっ。イヴァンって面白い人なんですね」
「こういうのは変な奴っていうんだ」
「ひどいや……ところでなんか、この猫も吹き出してなかった?」
「そうか? 猫だし変な音だって出るだろ」
「そうかな……そうかも……猫だしね……」
「かわいい猫、ですよね。ダリアン校長の飼い猫でしょうか?」
「あー、美猫だよなあ。こんな綺麗な白、そうは見ないぞ」
猫だということで片付いているが、白猫コアは「やべー」とドキドキしていた。
ここでうっかりただの猫じゃないとバレるのは白猫コア的には無しである。
あくまで青春の背景に存在する猫でありたいのだ……猫ならこうしてテーブルに乗っていても許されるし。
さておき、これは非常にいい。白猫コア的にはグッドだ。男子たちの、まだ打算が勝つものの友情の始まりを感じる良イベントだ。魔導祭を開催することで生徒を集めた甲斐があったというものだ。
まあ、とにかく凄い撫でられているが白猫コアのことをエピンたちは猫と認識しているので大丈夫である。
「とにかく、えーと……今日はしっかり魔導祭を体験しろって先生たちに言われてるし、服飾露店も見に行かない? 先生から色々話も聞けるかも」
「そうだな。もしかしたらすでに服飾魔法を習ってる生徒も紹介して貰えるかもだし」
(うーん、服飾魔法か。どうだったかなー)
話を聞きながら白猫コアは記憶を探っていく。服飾魔法は文字通りに服飾関連の魔法であり、糸やら布やらに魔力を込め特殊な効果のある服を作ることが出来る魔法だ。
白猫コアの前世の世界のゲームを例に出すのであれば、確かな防御力のある布の服や、露出度が高いのに防御力の高い服、ゴテゴテしているのに素早く動ける衣装など……まあ、そういうのが作れるという話である。そこまで自由自在に作るのは、まさに教師レベルでないと無理だけれどもカリックスの着ている初期装備などはまさに「そういうもの」なわけだ。
……が、不思議なことに服飾魔法に興味を持つ者は昨日時点では居ない。やはり地味に思えるか、攻撃魔法などが分かりやすく魅力的なのだろう。この魔導祭がそういった考えを砕いてくれればいいと白猫コアとしては思うのだ。
「よし、じゃあ何事も早ければいいっていうし……行くぞ二人とも!」
やがてエピンが音頭をとって走り出すが、その後をイヴァンがカリックスの手を取って追うのは……なんとも白猫コアとしても満足気な笑顔を浮かべる案件ではある。
(うーん。まだ友情っていうには重ねたものも足りないんだろうけどな。いやあ、でもいいねえ。こういうのが俺は見たいんだよ)
頷く白猫コアをもう見ている者は居ない……というわけではなく。
「若者の青春は良いものですなあ」
「なんだよダリアン。お前も青春の良さに目覚めたのか」
「残念ながら儂は教育者の視点で見ておりますので」
「おう、そうかい」
つまらなそうに鼻を鳴らすと、白猫コアは「ん?」と疑問符を浮かべる。
「そういえばお前はなんでこんなとこ居るんだ? てっきり保護者の質問責めでも受けてると思ったが」
「まさにそこが問題でしてなあ……」




