68話:魔導祭は大好評
当然のこと、ではあるのだけれども。てっきり学生の集う恋愛相談空間になるとばかり白猫コアは思っていただけに、耳が悲しそうにペタンとしている。
いや、これも正しくはあるのだ。魔法学園ヤマダがどれだけ凄い場所であるかを示すには、この反響はまさに「素晴らしい」の一言に尽きる。
ちなみに同じ理由で呪魔法教師タリア・ジュウォンによる厄除け人形も飛ぶように売れているらしい。
ちょっとした不幸を防いでくれる程度のもの……具体的にはうっかり包丁で手を怪我しない程度の効果だが、それでも不幸を防げる魔法道具ということで、一人二個制限でも皆が殺到している。
「……ふうむ、毒感知の指輪か。こんなものまで気軽に売っているとはな……」
「恐るべき技術にございますな。斯様なものはダンジョンでしか手に入らないと思っていましたが」
アレス王国の国王、イザレクト・アレス。白猫コアに聞いても「誰だっけそれ」とか言いそうだが、リリカの同行者として来た二人のうちの一人……第一王子アウタール・アレスの父親である。
一緒に居るのはもう一人のイグリットの父であるメイフェア侯爵だが……早速良さげなものを見つけて購入している辺り、とても楽しんでいるようだ。
ちなみにアレス国王が買った毒感知の指輪は毒の入っている食品を感知すると光るものであり、効果範囲は手に持ったもの……つまるところ、飲んだり食べたりする前に知ることが出来る毒見役がお役御免になりかねないものだ。
アレス国王としても可能であれば国で量産したいところではあるが、今のところ無理だろう。これを作った彫金魔法なるものは持って帰りたいし、鍛冶魔法で作られたという蒸れず匂わない魔法の兜もデザイン含め素晴らしい。
「魔法学園ヤマダ……黒の魔法剣士と縁が出来れば上等程度に考えていたが、なんと素晴らしい魔法の数々だ。これが世に出れば世界は変わる。アウタールと侯爵の息子はその辺を理解できているだろうか?」
「きっと出来ているでしょう。国に持ち帰りたい魔法技術の山です。問題は、ライバルたちに押し勝てるかででしょうな」
「うむ。その通りだ」
……ちなみにアウタールはこの魔導祭に出品された品を見て、今まで目を向けていなかった魔法分野を改めて知り慌てていたのだが……そういう意味ではイヴァンを見出し友人になっているエピンは素晴らしいと言えるだろうが……その二人は実は今丁度「コガンダの面白鍛冶屋」と銘打たれた露店で目利きの真っ最中であった。
「この盾はどうだエピン。花柄だけど、こういうのが意外に……」
「それ花の香りがするやつみたいだよ。モンスターを呼び寄せそうな気がする……」
「おいイヴァン。お前とダチが欲しがるようなものは此処にはねえぞ。面白鍛冶屋って書いてあんだろうがよ」
「そう言わないでくださいよコガンダ先生。可愛い生徒に何かお勧めの出物とかないんですか?」
「自分で作れや。何習ってんだテメエは」
「えー? 普段コガンダ先生が絶対に作りそうにないものから学びがあるかもじゃないですか」
「遊びは遊びだ。だがまあ……将来どういう鍛冶師になるかのヒントにはなるかもしれねえな」
「ですよね!」
目をキラキラとさせるイヴァンは本当に良い生徒だとコガンダは思うが……残念なのは今のところ「鍛冶魔法を習っている生徒は居るのか」という問い合わせが生徒と保護者たちの両方から来ていることだ。
(俺が習う! っていう奴は居ねえもんかね……イヴァンが特別なのか?)
次期以降はどうなるか分からないが、今のところ新たな鍛冶魔法の受講希望者は居ない。エダムが教えているリリカが「鍛冶魔法……いいかも……」とか呟いて相棒のキアラに「おやめなさい!」と連れていかれたくらいだろうか。
「まあ、そういうわけだからよ。ダンジョンの役に立つものはねえぞ?」
「……あっ。僕ですか?」
「おう」
黒い詰襟の服を着込んだ白い肌の少年にコガンダがそう言えば、少年は「あ、はは……」と自信なさげに笑う。卑屈な笑み、と言ってもいい。
「役に立つとか立たないとかじゃなくて、なんかこう……デザインが良い感じのがあればいいなって……」
「ふーん? その恰好、ナルメクのところのだろ?」
「ナルメクって……」
「バカ、死霊魔法のナルメク先生だよ」
「あー……」
ヒソヒソと囁き合うイヴァンとエピンをコガンダが「黙ってろ」と睨みつけるが……死霊魔法とは呪わしい魔法と呼ばれるもので、やはり魔塔の存在しない系統の魔法である。
死属性の魔力というものが戦場や墓場などに生まれるものだからであるが……世間的なイメージとは異なり、死霊魔法は墓を掘り起こすような魔法ではない。
系統としては特殊なタイプのゴーレム召喚魔法と言っていいが……まあ、かなり特徴的な魔法であり、本年度においては受講者がいないことも覚悟していた魔法である。
(それがなあ……ナルメクもあんまり話さない男だしな。いつの間に生徒をとったんだか)
「おい、イヴァン。丁度いいしよ。そいつの相談に乗ってやったらどうだ」




