64話:プライドが折れたのが良い方向にってやつ
風魔法で響き渡るダリアン校長の声は生徒には慣れたもので、今日この場に集まった保護者や同伴者たちにとってみれば驚くべきことだ。
空に浮かぶダリアン校長自体がおとぎ話の人物のようですらあり、自然と「ああ、あれがこの学校のトップなのか」と尊敬、畏怖、嫉妬……様々な感情を抱かせる。
ちなみに本当のトップである白猫コアは中庭で丸くなっているところを猫好きの生徒に伸ばされている。
噛まないと分かってからはよく構われているし白猫コアとしては「好きにするといい……猫好きに悪い奴はそんなにいないから……たまにはいるかも……」ということらしい。さておいて。
「さあ、では改めてオープニングセレモニーを始めよう! 属性魔法教師であるアベル先生によるファイアフラワーの魔法、そして精霊魔法教師、イリシア先生による精霊たちの舞を楽しんでいただこう!」
打ち上がる花火、そして空を舞い輝く精霊たち。その光景は何も知らない人々にとっては幻想的で……虹魔塔主にとっては衝撃的に過ぎる光景だった。
(精霊魔法の教師……!? あの隙あらばローキックやらビンタやらを繰り出す、今の暴れ精霊たちを手懐けているというのか……!)
改めて考えると自分の状況が悲しくなってくる虹魔塔主ではあるが、この魔導祭に虹魔塔の威光を取り戻すヒントがあるのは確かだと考えればやる気が出てくるというものだ。
(イリシア、イリシアか。状況を考えれば引き抜きの話を持ち掛けるわけにはいかないが、今の精霊を御するヒントさえあれば……そうすれば虹魔塔は今まで通りに回る……!)
ならば、まずはイリシアに会わなければならないが……少なくとも、このセレモニーが終わるまでは無理だ。そこをどうにかしようとして不興を買うわけにもいかない。
だから、虹魔塔主は周囲を見回して……そこに大きな看板が立っているのを見つける。
今回の会場の案内のようだが、魔法学園ヤマダの地図でもある。イラスト付きで詳細な内容が載っていて、これさえあればどこにでもスパイやら暗殺者を送り込めそうな程だ。
(地図の重要性を知らない訳でもあるまい。やれるならやってみろという自信か……?)
今、虹魔塔主がいる場所は「入口広場」であり、露店も此処にあるようだが……人をかき分けて手近な露店を覗いてみれば「いらっしゃっせえええええ!」という鼓膜をぶち破られそうな大音声で迎えられる。
「魔法カステラは如何かな、お客人!」
「ま、魔法カステラ……? いや待て、なんだそれは……!」
武術教師エダムの魔法カステラ、と描かれた屋台ではエダムがとんでもない勢いで丸い形に焼かれた焼き菓子を作っていたが……問題はその作り方だ。
両手に構えた鉄串には風が宿り、時折火を宿し火力を調整している。そう、魔法剣を鉄串で、しかも超高速で切り替えながらやっているのだ。しかもそれを焼き菓子作りに使う繊細な威力調整は何処まで精通すれば出来るのか、虹魔塔主には想像もつかない。
「ま、魔法剣かそれは……! そうか、黒の魔法剣士を育てたのはお前だな……!?」
「まあ、このくらい出来なきゃ教師でござい、なんてなあ」
「……! そ、そう、か……」
レベルが違う。魔法を戦闘以外のことに使うのは使えない奴がやる低レベルな雑用だと虹魔塔主は考えていたが……ここまで精緻な制御を見せられると、その考えが間違っていたのか、それとも単なる技術の無駄遣いなのか分からなくなってくる。
ふらりとよろけながらその場を離れ、目についたのは「タウゼント錬金工房」と描かれた露店だ。
果物ジュースでも売るように各種のポーションが安値で売られている露店……学内通貨のイエンについては虹魔塔主には分からないが、共通通貨たるゼニーの値札を見れば有り得ないほど安いのが分かるし、飛ぶように売れている。
通常のポーション、麻痺回復ポーション、毒回復ポーション、各種の病気の快癒ポーション……どれも偽物ではない、本物だろう……だとすると、皆が販売制限の札を見ながら悩んでいるのも分かるというものだ。いきなり凄腕の医者が現れたのと感覚的にはそう変わらない。
「やあ、そこのお兄さん。ポーションは如何かな?」
「……1人3つまでというのは少なくないか?」
「そうしたいがね! この後どうせ生徒が殺到するから制限は必要なんだ! 何しろ普段よりお安い!」
「そうか。なら買うが……どれにするべきか……」
吟味して3本買った虹魔塔主が次に見たものは……魔法道具のアクセサリーを売る露店に、魔法の化粧品を売る露店、何処を見ても魔法まみれだ。
光の欠片掬いとかいう、子どもの見る夢のような……それでも魔法的に見れば高度過ぎて意味の分からない露店まであるのだ。
凄い。凄すぎるが……同時に恐ろしい。
こんな場所で育った魔法使いが学園を出たら、一体どんな魔法使いに育っているのか?
彼等、彼女等が新しい魔塔を作りでもしたら、既存の魔塔は抵抗できるのか?
このポーションだってそうだ。こんな安値でポーションが世に流れるようにでもなったら、錬金魔塔の連中は仕事が一気になくなるのではないだろうか?
(……危なかった。今日此処に来ていなければ、俺たちは……虹魔塔は本当の意味で終わるところだった……!)




