62話:やっぱそうなるよねってやつ
虹の魔塔と呼ばれる場所がある。
精霊魔法を主に扱い、様々な属性や効果を扱えることからプライドが物凄く高い魔塔である。
赤だの青だのではなく「虹」を選んでいることからもそのプライドの高さは分かるというものだが……そこはここ最近、混乱の最中にあった。
何故か? それは簡単で、単なる力の化身であったはずの精霊たちが意志をもってしまったからだ。
だから、だろうか。数日前、虹の魔塔はポッキリ中程で折れてしまっている。大惨事だ。
「くそっ! 精霊どもめ、ちっとも言うことを聞かん!」
「魔塔主様、ダメです! お前ら嫌いだって蹴りに来るんです!」
「魔塔主様、土の精霊が魔塔の壁の瓦礫を片っ端から砂に変えていくんです!」
「大変です、風の精霊が納品予定の薬品を風で吹っ飛ばしてます!」
「闇の精霊が魔塔の通路を闇で覆うせいで行き来が……!」
「ええい、何故なんだ! 何故こんなことに!」
ほんの少し前まで、精霊とは意思のない力の化身だった。だからこそ適切に魔力を与えることで自分が持つ魔力よりも遥かに大きな力を行使できていたのだ。
どんな道具よりも優れている精霊は、いずれ全ての魔塔を統合し下に置けるほどのポテンシャルを持っていたはずなのに。なのに……どうしてこんなことになったのか?
虹の魔塔主としても訳が分からない。いきなりこんなことになった理由。まさかあの魔法学園ヤマダとかいう連中がこんなことを出来たわけでもないだろうに、と思うのだ。
まあ、実は正解であるのだけれども。しかもやった本人が人型変化反対派で、イケメンパラダイスの大精霊たちを見て不満たらたらであったことなど知るはずもない。
「……とにかく、精霊たちと対話をするしかない。このままでは虹の魔塔は存在意義を失ってしまう……!」
「その通りですが魔塔主様、精霊たちに近づくとローキックをしてくるのはどうしましょう」
「風の精霊とかは飛ぶからビンタしてくるんですよ!」
「すげー痛いんです……」
「あと向こうからも寄ってきてローキックするんです……」
「我慢しろ。俺も今蹴られている」
「あっ……」
よりにもよってパワフルな土の精霊が先程から巻き藁相手に武術の練習でもするかのように魔塔主の足にローキックを繰り返しているのは、たぶん魔塔主が一番嫌われているからだろうか。火や石で攻撃されない分、手加減してくれているのは間違いないのでキレることもできない。キレて燃やされでもしたら抵抗どころではない。
「何度でも言うが、対話するしかない。やり方が変わったことを受け入れ、精霊の言うことを聞いてやっていく必要があるだろう。現状が魔塔の存亡の危機であり、現在進行形で全ての業務が止まっていることを忘れるな」
他の魔法は自分の魔力でやっているが、精霊魔法は精霊という存在にほぼ全ての力を頼っている。だからこそ精霊が意志に目覚めた以上……今、虹の魔塔はどの魔塔よりも無力なのだ。
だからこそ特効薬的な解決策があるのであれば、いくらでも金を払うつもりだが、そんなものを大々的に募集すれば詐欺師のような連中が集まってくるのは目に見えている。
(どうするべきか……虹の魔塔の歴史が俺の代で終わるのか……!?)
「なあ、そろそろやめてくれ。手加減してくれているのは分かるが地味に痛いんだ……」
土の精霊が最後に一回蹴って何処かに行くのを見ながら「意思疎通はできる」ことを魔塔主は再確認していた。ただ蛇蝎の如く嫌われているだけで、それが物凄く致命的であるだけだ。
虹の魔塔全体が嫌われている以上、精霊魔法使いとしては終わりだが……。
「魔塔主様!」
「なんだ騒々しい!」
息を切らせて走ってくる魔法使いに、魔塔主はまた何かのトラブルかと身構える。今日はもうこれ以上聞きたくない。だが、聞かされたのは予想を超えるものだったのだ。
「魔法学園ヤマダで魔導祭なる保護者と同伴者が行けるイベントがあるそうです! それで、たまたま遠い親戚が在籍しているそうで、それで……!」
「幾らでも出すと伝えろ。俺が行く」
「はい、すぐに席を設けます!」
「いやいい。俺が直接行く。金貨を積んだ馬車を用意しろ、絶対に他に枠を取られてはならない!」
コアが元居た世界では溺れる者は藁をも掴むとか、呉越同舟とか……ピンチとなればそれまでの因縁などどうでもよくなるし何でも頼るといったような意味の格言が多く存在するし、この世界にもそういった格言はあるし状況もある。
「あの、魔塔主様。よろしいのですか? 魔塔会議では魔法学園をどうにかするという話であったはずでは」
「フン、足元さえおぼつかないのにそんなことが出来るものか! この状況がどうにかできるのであれば神だろうと魔王だろうと幾らでも土下座してくれる!」
この状況で他の魔塔ほどあてにならないものもない。全員専門分野が違うからこそ今まで潰し合いにならなかっただけで、権力分野では互いを裏で陥れることなど平気でやっている。
実際、虹の魔塔がそうだったのだ。プライドがどうとか言っていられる状況ではないから何かヒントがありそうな魔法学園に行ってみるしかない。つまりはそんなところで……他の魔塔ではもう少し悪辣なことを考えていたのだが。
もしかすると、この辺りの差が後で大きな違いになるかもしれないけれども。今の時点ではコアも与り知らぬところである。




