61話:おいでよ、魔法学園の学園祭!
その日、イリス帝国の帝城は大騒ぎだった。
何故なら、帝王たるファムルド・ソル・イリスのベッド脇に手紙が置かれていたのだから。
ファムルド皇帝が朝起きて気付くまで、護衛も影と呼ばれる隠密たちもメイドも、誰も気付かなかったのだ。普通で考えれば大失態だ。だが……送り主が分かればそんな責任論も吹っ飛んでしまう。
「魔法学園からの招待状……ですと……!?」
宰相ですらゴクリと唾を飲み込むほどの魅力的な言葉だ。
魔法学園ヤマダからの招待状。魔塔を介さない……それも魔法教育機関という規格外の場所からの招待状。その言葉だけで踊り出しそうなほどである。
「ああ、どうにも魔導祭なる……学園の祭を行うとのことだ。余もまた帝国が送り出した生徒たちの保護者のようなものであるから……ということであるようだな」
「ほう……魔法学園の長は中々に道理が分かる者であるようですな」
「ええ、その通りでございます。皇帝陛下こそはイリス帝国の太陽にして臣民を庇護される守護者でございますから」
「うむ……余の寝所にこれを置くのはけしからんがまあ、物がコレであるからな。仕方ないという事情は理解しよう」
だがコアはそこまで考えていない。「やっぱこういうのは本人宛だよなー」とか気軽な気持ちでやっている考えなしのバカで、ただの結果オーライである。さておこう。だって問題があったとして、何処の誰が何を出来ようか? イキる奴がいるとすれば底なしのバカである。魔塔とか魔塔とか。あと魔塔とか。魔塔は何本もあるので何度でも罵っていいと言い放ったのもコアである。
「……魔法学園ヤマダによる魔法の祭典。保護者の皆様は同行者1名を連れておいでください。今回は記念すべき第一回として教師陣の魔法による素晴らしいイベントと各種露店による夢のようなイベントをお届けします……か。ふふ、中々面白そうではないか」
「確かに夢がありますなあ。露店など城下の者どもがやるよう……な……んん……?」
「なあ、宰相」
「は、はい陛下」
「余の記憶が正しければ露店とは、物を売る店であったよな?」
「はい、商会を持たぬ者共による個人売店であった……と……まさか」
「魔法学園の教師による露店で売る物とは……もしや魔法道具なのではあるまいか?」
「ま、まさか! 1つあれば家門の家宝になるような代物ですぞ!」
「いえ、しかし宰相! 有り得ますぞ! 聞いたでしょう、空を移動する魔法学園の話を!」
一気に騒がしくなる謁見の間だが、ただでさえ侵入経路の確定のために騒がしいのに更に大騒ぎである。
なにしろ魔法道具はダンジョンで見つかる場合もあるが、そのほとんどは魔塔が独占している。
たまに成果として出てくるものも数が少なく、しかも高い。ものすごく高い。
だが、魔法学園の魔導祭とやらで売るのであれば……それこそ欲しいものを確実に手に入れられるチャンスなのでは?
「いえ、しかし! 何故そんなものを露店形式で売るのです!」
「……示威行為、かもしれんな」
ファムルド皇帝の言葉に謁見の間がシンとなる。事実、魔法学園ヤマダの内情は分からないままだ。
生徒たちが旅立ってからまだそれほどの日はたっていないが、空飛ぶ島相手では間者を送ったところで何の意味もない。何しろ今何処にいるかも分からないのだ、連絡手段がないにも程がある。
「奴等は恐らく魔法学園と魔塔……我等にどちらに付くかを迫るつもりなのだろう。いや、魔法学園につくメリットが大きいと示すつもりなのだ。それだけのものを出してくるとみていい」
「と、なると売られているものは……」
「恐らくはある程度の安価であり、しかも魔法学園の実力を示すものが売られるだろう」
おお、なんたることか! 期待値が上がっているが、偉大なる魔法学園のコアは「学園祭って青春だよね」とか昨日の夜の職員会議で開口一番に言っていたお気楽野郎である! 優秀な教師陣がいて、本当によかった! コアが下手に人間型になって直接何かをやるようなことにならなかったのは、幸運としか言いようがない! 猫型を確固たる信念で選ぶ青春の香り吸引猫であったのはまさに女神の素晴らしい人選の賜物であるかもしれない……さておこう。とにかく宰相も大臣も大騒ぎだ。
「であれば、使える金を確認せねば……財務大臣、どうだ!?」
「お、お待ちを! 今あるものだけではなく圧縮できる場所を探さねば!」
「おい財務大臣。くだらん美術品の類は売ってしまえ。魔道具のほうが威厳もある」
「はっ、陛下! 今すぐに!」
「ところで陛下。我が家門も供出いたしますので同行の権利と、害のない魔道具を購入する権利を頂けたりは……」
「ずるいですぞ! それなら我が家門も!」
「私も供出いたしますぞ陛下! ええ、国の為です惜しみはしませんとも!」
「ハハハハ! 良かろう、そなた等の中から一人選ぼう! だが一端受け取ったものは返さぬぞ!」
捕らぬ狸の皮算用……ではない。何しろ、ファムルド皇帝たちの目論見はそんなに間違ってはいない。
魔導祭は生徒にも保護者にも魔法学園ヤマダという存在を今一度強く刻み込むための、記念すべきイベントであるのだから。




