6話:魔法学園ヤマダの学生だ
本日2回目の更新です!
まだ今日読んでいない方は4話からどうぞ!
……魔法学園ヤマダがひっそりこの世界に現れてから数日が経過した。
モンスターなる脅威は世界中にはびこり、それ故に町と町の間の移動には護衛が雇われ、多少でも魔法を使えればその報酬は天井知らず。それでもモンスター相手に役立つかは別問題で。
「おい、魔法使い様は何処に行った⁉」
「さ、さっき敵のボスを探しに行くと……」
「逃げたなあの野郎!」
森の間の道でモンスターに襲われているこの商隊も、とんでもない高額で魔法使いを……少なくとも何もないところから火を出してみせたのだ……とにかく雇ったのに、いざモンスターが現れると逃げてしまったのだ。
だが商隊のほうも魔法使いのように逃げるというわけにはいかない。
荷物も金も捨てて逃げるわけにはいかないし、魔法使いも混ざった護衛がいるということで同行したがる一般人を乗せたりして金をとっているのだ。見捨てたりすれば信用に関わる。
一方の護衛のほうだって、商隊主が魔法使いがいると自信満々だったから多少なりとも役に立つのかと思えば戦闘が始まるなり大逃走だ。たぶんどうにかなれば一仕事した顔で戻ってくるつもりなのだろうが……。
「チッ、数が多い……! ゴブリンがこんなところに出るなんて情報は無かったはずだぞ……!?」
ゴブリン。世界で二番目に数が多いとされるモンスターだが、手先が器用で武器を自作し、戦術を使う知能もある。たとえば伏兵などは当然のように使う相手で、だからこそ一切の油断は出来ないし、していないつもりだった。
それは護衛される側も当然知っている。普段からモンスターによる襲撃は起こるし、気安い関係ではないが顔見知りになることもあるくらいだ。中にはその縁で護衛業を始める者すらいる……だがそれも命あってこそだ。
「こ、こわい……!」
響く刃物のぶつかる音、何かが斬られたり刺されたりする生々しい音と悲鳴。馬車の中で震える少女は目と耳を塞ぎたくなりつつも、そうしてはいけないということを知っていた。
目を閉じて耳を塞げば、いざということが起こった時に動けなくなる。
だからこそしっかりと目を開け、何かあったらすぐに動けるようにと少女は耳を澄まして。
「ぐあっ!」
馬車の外を警戒していた護衛に矢が刺さり倒れる。人間が作ったとも思えない粗末な矢羽の矢だ。
まあ、それも当然だろう。ぞろぞろと森の中から出てきたのはゴブリンたちで。その中には先程逃げた魔法使いのものらしき杖を持っている者もいる。
ギヒヒ、と嫌な笑いを浮かべるゴブリンたちは馬車の中にいる少女たちを指差して。
「う、うわあああああ!」
馬車から飛び出して逃げた男が凄まじい瞬発力で飛び掛かったゴブリンに埋もれていく。
ゴブリンは人型に見えるから勘違いしがちだが、見た目では想像できない程の高い身体能力を持っている……だから、下手に逃げればああなる。
男がやられた姿を見た馬車の中の人々は脅えるばかりで、少女もまたそうだ。
他の護衛はまだこちらに来ない。
殺される。あるいは死ぬよりも、もっと酷い目に合う。
何度も聞かされたゴブリンの怖ろしい話が少女の中でリフレインする。
「あ……やだ……たすけ……たすけて……!」
「ああ、任せろ」
馬車へと手を伸ばしていたゴブリンが突如氷像のように凍り付く。
明らかに只事ではない。絵本の魔法のように不自然なソレはしかし現実で。
その向こうにいたのは、短く切った黒髪と青い目を持つ少年だった。
少女と同じくらい……いや、やや年上だろうか?
落ち着き払った余裕のある表情は立ち居振る舞いにも表れていて、髪と同様の黒い騎士か王子様のような服は少年を大人ぶって見せているが不思議と違和感はない。
腰に差した銀色の剣もまた美しく、少女の知っている同年代の少年よりもずっと「格好良い」のだ。
けれど、何より少年の手に握られた腕の長さよりも短いロッドは……青い宝石の嵌ったそれは魔法使いの杖に間違いない……!
「ゴブリンか。まあ、問題のない相手だが……油断はしないぞ」
「あ、危ない!」
ゴブリンの放った矢に気付き少女が叫ぶが、少年の眼前に吹き荒れる風に弾かれ空しく散っていく。
風が少年を守った。いや、そういう魔法なのだろうか?
「矢避けの魔法……まあ、初歩の初歩ではあるな」
知らない。そんな魔法を使う魔法使いを少女は知らない。
大仰な光の壁を展開している魔法使いは居たが、あんなに涼やかに美しい魔法なんて、見たことがない。
ゴブリンたちも少年がただものではないことを感じたのだろう。弓を捨てると汚い刃物を取り出して……走り出す!
「フリーズストーム」
少年の杖から吹き荒れる氷嵐がゴブリンたちを包み、一瞬のうちに凍らせる。
そこには一切の例外はない……草も大地も凍り付き、ゴブリンたちは哀れな氷像と化していた。
「さて、と。まだ出てくるなよ」
「え……?」
もう終わっただろうに、何をしようというのか。
少女の疑問は、少年の引き抜いた剣の美しさの前に全て凍り付いてしまう。
ああ、なんて美しい剣なんだろう?
護衛たちの持っている剣にも触らせてもらったことはあるが、あんな美しい剣を少女は見たことがない。
まるで濡れた水か氷のような美しい輝き。材質すら分からないそれはただ美しく銀色に光り、現状も何もかも忘れたかのように魅入ってしまう。
……そして、少女の視線の先で少年は剣を構え何かを唱える。
「――魔法剣」
ゴウ、と。少年の剣の刃が燃え上がる。
魔法だ。魔法剣? 聞いたことがない。ないけれど。ああ、あれは……なんて。
「バーニングスラッシュ!」
ガオン、と。少年の剣の軌跡に合わせて炎の刃が広がりゴブリンの氷像たちを切り裂き燃え盛らせる。
一瞬のうちに骨すら残さず消し去った後には何も残っていなくて。
「なんて、綺麗……」
まだ正面では戦っているこちすら忘れて少女は目を輝かせた。
魔法。魔法、魔法!
こんなに美しいものだなんて、少女は知らなかったのだ。
「こっちはこれでいいだろう。あとは……正面を手伝ってやらないとな」
「あ、あの!」
歩き出そうとする少年を少女は呼び止める。
状況は分かっている。それでも、それでも。今聞かなければならないことがあった。
「貴方は……誰ですか⁉ どうすれば私も貴方みたいに……!」
「俺か?」
その質問を待っていたと言わんばかりにニヤリと笑い、少年は少女へとその答えを返す。
「俺はキリアン。キリアン・エルネイス……魔法学園ヤマダの学生だ。もし俺みたいになりたいとか、そういう奴がいたらコレを渡せと言われてる」
少年は馬車まで歩いてきて、少女の手に封書を握らせる。
「招待状だ。それはお前にしか使えないが、願うなら他の奴を連れてくることも出来る。肝心の日付だが……」
その日程を少女に囁くと、少年は商隊の前方へと向かっていく。
少女の手に残されたのは招待状で、他の生き残りも羨ましそうな表情でそれを見つめていた。
当然だろう、あんなものを見せられて興奮しない者などいるだろうか?
「キリアン……キリアン、先輩」
焦がれるように招待状を抱きしめる少女の脳裏には、まだ見ぬ魔法の楽園が描かれていた。
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