59話:隠し部屋は浪漫だよね
赤、緑、黄、青、白、黒。拳よりも大きい珠は強い魔力が込められているのが分かる。
しかし、エピンにはこの宝珠とも言うべきものが何なのか分からない。
「イヴァン……これは?」
「属性のオーブ……それも各属性が揃ってる」
オーブ。イヴァンが鑑定魔法で見る限り、各属性の威力を底上げし魔力をチャージしておくことも出来る凄い品だ。
正確には、たとえば赤は初心者のファイアオーブ。そこまで強い効果ではないとのことだが……外ではこんなものがあれば大騒ぎになるのは間違いない。
「なんてことだ……ど、どうする。全部持って帰れるのか?」
「いや待って! 何か仕掛けられてたら拙い!」
まずは何か罠がないか分かるまでは触ってはいけないと、二人は部屋の中を探していく。
怪しそうなのは……やはり本棚。
朽ちた本は今にも崩れそうだが、ゆっくり開いて、エピンは「うっ」と唸る。
「ど、どうしたの? って……あっ」
「たぶん同じ内容だと思うんだが……せーの、で読んでみるか」
「うん……せーの」
「「ちゃんと調べて偉い! オーブは1つ選ぶと他は消えるぞ!」」
全く同じ内容であることを理解して、イヴァンとエピンはその場に座り込む。
本もその場に投げ出し、なんだか自然に笑いだしてしまう。
「あはは……なにこれ。面白過ぎない?」
「雰囲気に呑まれてたが……そうだよな。此処は学園のダンジョンだった」
此処にあるものは全部生徒を成長させるためのもので、そんな教育愛が詰まったものなのだ。
「あ、見て。まだ何か書いてあるよ。えーと……この隠し部屋を見つけたのは本当に偉い。今後も注意深くやっていこう……だってさ」
「誰がこれやったんだろうな。アベル先生か?」
「性格違いすぎでしょ。ダリアン校長とかじゃない?」
本当はコアであるが、まあエピンたちは知るはずもないので仕方がない。ダンジョン設定時に隠し部屋は浪漫だとか言って仕掛けたのである。
そんな事情を知らないエピンとイヴァンはひとしきり笑い合うと、テーブルの上のオーブを見つめる。
どれがどのオーブかはイヴァンの鑑定魔法で分かるので、あとはどれを選ぶかだ。
「そもそも、手に入れたオーブをどう使うかだな」
「え? いや、エピンの杖の材料にしようかと思ってるけど」
「待て待て。俺ばっかり得してるぞ」
「別にいいじゃん。その分、今後も鍛冶材料集め手伝ってよ」
「それはいいが……」
「俺の練習にもなるしさ。これ使ったらどんな杖になるか設計もしたいし」
「ん、んん-……まあ、分かった。でもお前そうしたら、今回のイエンは持っていけよ。加工費がいるだろう」
「まあ、うん。いいよ。で、どれにする?」
言われてエピンは考えてしまう。そもそもエピンの属性は火、水、そして光だ。
得意なのは火と水であるのだから、それを強化する方向でもいいし……光を強化していくというのもいい。とはいえ、今使っているのが火魔法が多いのだからそれにするべきだろうか?
「うーん……火のオーブにしよう」
「じゃあ赤だね」
イヴァンが赤いオーブを掴みあげれば、他の五色のオーブは幻であったかのように消えてしまう。
消える、というのが文字通りに過ぎて思わずエピンたちはゾッとしたが、とにかくオーブは手に入ったのだ。
「えーっと……オーブ手に入ったけど、どうしようか」
「確か学園ダンジョンでは死んでも死なないけど、手に入れたアイテムはなくなってしまうんだったな……」
「うん。これを無くしたくはないよね……」
「帰るか」
「帰ろう。宝箱も見つけても無視しよう」
これ以上欲を出してファイアオーブを失ったら泣くに泣けない……安全第一だ。
絶対、安全確実に帰ろうとエピンたちは頷きあい部屋を出る。
そうすると不思議なことに隠し扉がまた元の壁に戻っていく。
「ほんと不思議なダンジョンだよね……」
「ああ。これを設計したヤマダなる人はどれだけ偉大な魔法使いだったんだろうな」
学園内を白猫の姿で歩き回って生徒の青春を見て喜んでいる、学園そのものなコアである。まあ、凄い力を持っていることだけは間違っていない。ちなみに今は猫好きの生徒に捕まって猫吸いされている。偉大さが微塵もないがさておいて。
安全さを最優先にしたエピンたちはそのまま最速でダンジョンの出口まで戻り、無事にオーブを持って帰ったのだが……隠し部屋のアイテムを持っている状態だとミミックが何処かに1体増えたりと、少しばかり不利なことが起こるように仕込まれているので、帰ることにした判断も宝箱を無視することにした判断も正しくて。
偶然二人を視点変更で見ていた白猫コアが「へー、偶然だろうけどやるなあ。ダンジョン探索の才能あるよ」と思っていたのは……まあ、知らなくてもいいことである。




