58話:ダンジョンでは棒が役に立つ
「なるほど、なんで棒を持ってるのかと思ってたが……大分応用範囲が広いな」
「もし広範囲に効果があるような罠だったら危ないけどな」
「たとえば?」
「アラームとか。実際のダンジョンでも結構あるらしいよ」
「……聞いたことはあるな」
確か大音量で周囲のモンスターを呼び寄せる罠だったか……とエピンは思い出す。
その凄まじさに罠にかかった側の集中力も途切れ警戒も何もかもが酷いことになる……と聞いたことはあるがなるほど、それでなかったのは本当に幸運だっただろう。
とにかく、そんな「当たり」とも言える宝箱を覗くと……入っていたのは一振りの剣だ。
「メタルセイバーだな、これ」
「メタルセイバーだね。売店で売ってるやつと変わらないように見えるけど」
「……値段を考えれば得したって言えるはずなんだけど、なんでだろうな? そんなに嬉しくないのは」
「売店で売ってるからじゃない?」
「だよな」
「どうする? 売る? 使う?」
「うーん……」
メタルセイバーを見ながらエピンは考える。イヴァンの作った剣を思うに、これも魔法の杖のように使える……はずだ。しかし杖ほどの効果ではないはずだ。
(……今はイヴァンがいる。なら、この剣を使う状況は相当限定されてるはず……それに……)
「いや、欲しかったらイヴァンに依頼するさ」
「俺、まだこんなの作れないけど」
「今すぐ必要なものじゃないからな。だがまあ、出るまでは俺が持っておくよ」
「そっか」
エピンが剣を背負い、再びダンジョンの奥へと歩き始める。
ゴブリンが1体や2体出る程度であれば、もはや相手になどなりはしない。
しないが……この程度が1階の難易度だというのであればエピンとイヴァンが組んでいる限りは敵ではない。勿論、ソロでどうにかできると思う程自惚れてはいないけど。
「お、鉄鉱石だ。2個もあるよ……ラッキーだなあ」
「これで何個目だ?」
「37個かな。これがハイペースかローペースかは判断できないけど」
エピンもイヴァンもダンジョン初心者だ。そんな状況で2階に進んでいるリリカたちが凄いとはいえるが、それぞれペースというものがあるし目的も違う。
「結構使うものだな。背負うには重いだろ」
「そろそろイエンを捨てる頃かもね」
とはいえ、戦闘に余裕が出ているのは紛れもない事実で……1階にはこれ以上学ぶべきところもないように思える。やはり鉄鉱石の入手以外にはこれ以上1階に留まる理由もないのだろうか?
歩いて……やがて、エピンがピタリとその歩みを止めれば先行していたイヴァンが気付いて振り返る。
「どうしたの?」
「いや、今何か……違和感があった」
学園ダンジョンの床や壁は石レンガのような材質の壁で構成されている。
つまり、何処を見ても同じだしイヴァンもそう思っている。しかしエピンはそうではない。
「やはりだ。見ろ、此処の壁だけ石レンガの配列が違う」
「え? そう?」
「この辺りだ。違う大きさの石レンガを組み合わせているだろう?」
「んー……あっ、ほんとだ」
キッチリと同じ大きさの石レンガを組み合わせ作られた、何処まで行っても同じ光景。それがイヴァンの観察力を下げていたのかもしれない。この辺の壁も床も全部同じだと退屈さを感じるほどに。
正直、エピンが気付いたのも「性格の差」程度の話でしかない。
「凄いねエピン! うっかり通り過ぎるところだったよ!」
「気にするな。それより問題はこれが何なのかだ。隠し扉でもあるのか?」
「よし、調べてみようか」
「また棒で押すのか?」
「ああ、そうだね。それがいいかな」
通路の反対側まで行くと、エピンは違う大きさの石レンガで作れられた場所の真ん中……他と同じ大きさの石レンガを棒で突き……押し込んでいく。
ガコン、と響いた音は変化の始まりで、まるで今までそこにあったものが幻であったかのように石レンガが消え丸い穴が開く。
その先にあるのは、立派な扉だ。まるで宮殿に繋がっているかのようなそれは穴の開いた先にあり、如何にもここに凄い何かがありますよと言いたげだ。
「……どう思う、イヴァン。俺は罠だと思う」
「奇遇だねエピン。俺も罠だと思う」
まさかこの先に豪勢な宝箱がある……とも思えるはずだが、エピンもイヴァンもそこまで楽観主義でもない。こんなあからさまなもの、何かとんでもないものが待っていると思ってしまうのだ。
「でもエピン。せっかく見つけたのに入らないのは……もったいないよね」
「それは同意だ。ただでさえ毎日構造が変わるダンジョンなのに、また見つけられるとは思えん」
それでも、見つけたものを放置するのももったいない話だ。
エピンもイヴァンもそれぞれ思案すると、ほぼ同時に向き合う。
「……行くか?」
「行こう」
イヴァンがしっかり盾を構え、扉を調べていく。どうやら……鍵穴は、ない。
「開けるよ」
「ああ」
いつでも魔法を撃てるように杖を構えたエピンにイヴァンは頷き、扉を開ける。
その先にあったのは……古びた部屋。いや、そう見えるように作られた部屋だった。
古い本棚と朽ちた本、汚い椅子と机……そして、机の上で埃を被った、六色の珠だった。
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