57話:誰だって守りたいものはあるよね
自然と、口をついて出ていた。エピン自身、そうとしか説明が出来なかった。
勿論、理屈をつけようとすれば出来る。イヴァンが言っているのは、理不尽に踏み潰されてきた者の言葉であったからだ。
不正義を許せないと、そう言うことも出来る。自分も、オクロック辺境伯家も理不尽に耐えてきたから分かると言うことも。けれど、言うべきではそれではないとエピンは思うのだ。
「俺はまだ傲慢だった。お前の事情も知らずに傷つけたんじゃないかと思う」
「いや、そんなことはないよ。エピンは俺の知ってる貴族とは全然違う」
「ありがとう。そう言ってもらえるのは嬉しい。だが、お前の不信の理由も知らずに正直がどうとか隠し事がどうとか、そんな綺麗事を言ったのは俺だ。すまない」
頭を下げるエピンの素直さにイヴァンは困ったように頬を掻いて……やがて「いいよ」と呟く。
「エピンが良い人なのは分かってる。こうして同等みたいな話し方を出来てるのも、他じゃ有り得ないってことも」
「……本来はそれがおかしいんだけどな。此処では平等だ」
「それでもさ」
「まあな。その立場からの見方についても理解できる。その上で、俺は此処ではみんな平等でいたいと思うよ」
本気で言っている。イヴァンはそう思う。エピンはどうにもイヴァンの知っている貴族とは全然違う。そういう風に装っている可能性ももちろんあるけれど、もしかすると信じてみる価値はあるのかもしれない……と、そんな風にも思うのだ。
「俺もごめん。君にだけは隠し事を出来るだけしないようにするよ」
「そうか。イヴァン、俺も君には誠実であると約束しよう」
エピンの差し出した手をイヴァンは握って。ぎこちない笑顔を交わし合うと、二人は立ち上がる。
とにかく、これで仲直りだ。仲違いをしたわけではないけれど、前よりはちょっと仲良くなれた気がするのだ。
そうしてゴブリンを倒しながら進んでいくと、エピンもイヴァンも自信というものが当然ついてくる。
今のところイヴァンが防ぎエピンが倒すパターンがしっかりはまっている。
2階に行ってもこのパターンは通じると思うのだが……そこまで甘いかどうかは、ちょっとエピンとしては疑問がある。
「エピン、待って。階段がある。地下2階への階段だね」
「思ったより早く辿り着くものだな」
「うん。罠かと思ったけど……もしかすると俺たちの相性がいいのかも」
「もしかすると、じゃなくて実際いいだろ」
「ハハッ」
とはいえ、だ。学園ダンジョンが毎日結構なリタイア者を出しているのはイヴァンも知っている。
戦闘をナメすぎてゴブリンにやられた者も当然多いのだろうけど、2階からレベルが大きく変わる可能性だって当然ある。それを考えると、到達階数のことだけ考えるのはよろしくない。
「なあ、イヴァン。もう少し1階を探索してみないか?」
「いいけど理由はなんだい?」
「元々狙いは鉄鉱石だろ? 2階にゴブリンがいる保証はないしな」
「それは……そうだね。その通りだ」
此処までの戦闘で鉄鉱石は少し手に入れたが、出来ればもっと手に入れておきたい。
どちらかというとゴブリンナイフやイエンの方が多く、特にイエンが重たいのだ。
「イエンの出る率が高いのはいいんだけど……これ全部1イエンだからね。何処かで捨てたくなるのにイエンは貴重だからなあ……」
「たぶん、これも勉強なんだろうな。ていうか、だから持とうかって言ったのに」
「君が疲れて魔法が出ないのが一番問題だよ。いいからこれは俺に任せて」
「ああ、分かったよ」
イエンは貴重だ……しかし重量とスペースを考えれば、それ以上の価値が見込めるものが出ればイエンを捨てることは当然考えなければならない。その不便さもまた、此処が学園ダンジョンであるからなのだろう。たとえばゴブリンの牙などは今のところイエンよりは価値がないと思えるものだ。
その辺の見極めはまだ2人で相談しながらだが……階段を無視して進んでいった先にあるのは宝箱だ。
実際のダンジョンでも探索者を引き寄せるように宝箱があるという話はある。
あるが……学園ダンジョンに宝箱があるとなれば、当然価値のある宝を期待してしまう。
「……どうする、イヴァン。アレに罠があったら拙いと思うんだが」
「そうだね。まさか1階で、とは思うけどミミックだったりしたら……いや、エピンが魔法をぶちかましてくれればどうにか……?」
「なら最初から魔法を叩き込んでみるのはどうだ?」
「それ、宝箱の中身大丈夫かなあ?」
「うーむ……」
正解は開けてみるまで分かりはしない。どうせ罠がかかっていても解除する手段はないのだからと、イヴァンが「よし!」と声をあげる。
「俺の棒を使おう」
「どう使うか分からんが……任せるよ」
「ああ、まあ見ててよ」
盾に身を隠したイヴァンは、伸ばした棒の先で宝箱をつつき……そのまま蓋を持ち上げていく。
瞬間。そこから凄まじい何かが……! というようなことはなく。少し待ってみても何も出てこないのを確認しながら、それでも念のためとイヴァンは棒で宝箱をつつきまわす。
「ふう、罠はなかったみたいだね。じゃあ中身を見てみようか!」




