56話:鑑定ス……魔法は超便利
本で見た、というにはイヴァンの台詞はあまりにも確定的だった。
これがポーションの類であればエピンも何も言わなかっただろう。
そういうこともあるか、と。そう思えたからだ。ポーションをドロップするのを初めて見た、と。そういう意味に解釈できたからだ。事実、そういう意味だとエピンは流しそうになっていた。
けれど、ゴブリンの牙は違う。そんなものは売店にも売っていないし外で見るはずもない。だって、そんなものは価値がないと誰もが知っているから。
「まさかとは思うが……あるのか? それが何かを知れる……鑑定の魔法が」
「正解だよ。凄いなあ、そこに気付くなんて。いや、俺がうっかり過ぎたのかな」
悪戯がバレてしまったかのように笑うイヴァンに、エピンは何か言おうとして……そのまま何も言えずに頭を掻く。隠す理由も想像できたので、文句を言えなかったのだ。
「いや、分かる。そういうのが出来るとバレたらそれ目的の連中も寄ってくる……イヴァンからしてみれば、面倒極まりないだろうさ」
「まあね。俺がやりたいのは魔法鍛冶だからさ、そっちの要員と思われても困るっていうか。まあ、たぶん錬金魔法でも同じもの使えると思うから、それまでバレなきゃいいって感じかな」
「ふうー……そうか。まあ、そうだろうな。とはいえ、だ」
「ああ、隠したのはごめんね」
「分かってるならいい。次からは隠し事はナシで頼む。俺もそうするから」
「分かったよ」
信用されていないかもと思うのは意外に辛いものだ。まあ、出会ったばかりで100%自分を信用しろなんていうものは無茶だとエピン自身分かってはいるのだ。
分かってはいる、のだけれども。何故こうも胸がざわつくのだろうか?
その答えを先延ばしにしながら。エピンは「行こう」と促す。これから友情を深めていけばいいと、そう思うからだ。それに、今そんなことを深く考えても注意が散漫になるからでもある。
だから盾を構えて進むイヴァンの背後でエピンは一端考えを追い払って……やはり気になってそわっとしてしまう。
(まあ、イヴァンは庶民だしな。貴族に目をつけられてストレスだったのかもしれないし……俺もいきなりガツガツ行き過ぎたかもしれない。ああ、ダメだな。紳士の態度ではなかった。イヴァンからしてみれば命令されたようにも感じたかもしれない。良くないな、良くないぞ……)
「あー……エピン? どうかした?」
「すまない!」
「え!? 何⁉ いきなり何なの!?」
ふと振り返って見たエピンの様子が何か変だからと声をかけてみたイヴァンだが、いきなり謝られたので大混乱である。今このタイミングでいきなり何を謝る必要があるのだろうか?
「全部だ。お前が俺を信用できていなかったのも仕方ない。学園は平等だというのに、俺は貴族としての嫌なところをお前にずっと見せていたように思う。自業自得だ」
「あー……そうか。さっきの気にしてたんだ……」
とりあえずモンスターが周囲に居ないことを確認すると、イヴァンは近くの壁に背を向けて座り込んで手招きする。
「エピンもここ座りなよ」
「いや、しかし」
「いいから」
「……ああ」
イヴァンの横にエピンが並んで座ると、イヴァンは「うーん」と言葉を探すように視線を中空へ彷徨わせる。イヴァンが落ち込んでいることは充分分かっているので傷つけないような言葉選びを考えているのだが、エピンからすれば「そんなに不満があったのか」と顔を青褪めさせる勢いだ。
「俺さ、クリス先輩に招待状貰ったんだ」
「白の聖女か」
「うん。で、俺って貴族じゃないからさ。街の偉い人からも同行枠についてすげー言われたし、領主さまからも来たし、最後には国の偉い人から連れていく人を決められたんだ」
「……そうか」
エピン自身、皇帝の計らいで招待枠を貰ってきているが……招待状そのものは男爵家の息子が貰ったものだ。勿論対価として実家の昇爵などの話も出たらしいが、権力で枠を手に入れたことに変わりはない。
「だからさ、自分の持ってるものなんてすぐ取られるって分かってたし、そもそも自分のものなんてあるかも分からなかった」
難しい問題だ、とエピンは思う。そもそもエピンのオクロック辺境伯家とて、貴族の義務というお題目さえなければ爵位も領地も国に返還した方が楽だと代々言い続けてきた家ではある。
魔境から流れてくるモンスターたちを排除し続ける終わりのない仕事は、領民のこと……ひいては国のことを考えればやめるわけにはいかず、手伝いもしない周辺領主は僅かな支援金だけを出して義務を果たした気になって、自分たちだけ肥え太るばかり。
陛下とて、何処にでも事情はあるのにオクロック辺境伯領ばかり支援していると貴族会議で突き上げられて強力な支援は出来ていない。
……今のオクロック辺境伯家には貴族の義務だけがあって、領民も理解はあれど不満は代々積もり続けている。
だからエピンも、最低限のもの以外は何も持っていない。それでもイヴァンと比べたら、貴族というだけで恵まれているのだろうけども。
「癖なんだよ、自分が持ってるものを隠すのがさ。ハハ、卑しいよね。取られたくないって思っちゃうんだ」
「卑しいもんか。それは人間として当然の思考だろ」
ブックマークや評価は今後の執筆の励みになります。
まだ入れていないという方も、今回のお話を機にぜひ入れていただけましたら、とても嬉しいです。
☆☆☆☆☆をポチっと押すことで★★★★★になり評価されます!




