51話:属性魔法使いは理論派
とはいえ、それはあくまで白猫コアの想像でしかない。別に仲良くならずとも魔法使いとしての高みにいけば、それはそれでいいという考えだって、当然ある。
頷いている白猫コアを一瞥することもなく、アベルは生徒たちへと視線を向ける。
「勘違いしないように言っておくが、魔法に関する討論を私は推奨する。属性魔法の可能性は無限だ……どれが正解であるなどと、そんなつまらんことを言う気はない」
属性魔法はあらゆる魔法の中でも基本であり、応用でもある。
何故ならば自分の魔力を魔法という効果へ変えるからだ。その在りようはどの魔法よりもシンプルであり、だからこそ多種多様な属性魔法の形があり……アベルは教師として、比較的真似しやすい形の魔法を使い教えようと決めている。
……たとえばの話、炎のドラゴンを作り出す魔法なんていったものは教育の上で何の意味もないという話だ。
火を出せた、炎といえるレベルである、威力が凄まじい……そんなものはアベルからしてみれば「だからどうした」という話でしかない。そんなもので満足しているうちは魔法の深淵に届くことはない。
火魔法を使うのであれば自分の制御するその火魔法は如何なるものであり如何なる形を持つべきであるのか。それを理解しないうちは魔法を使えるだけのド素人でしかない。
「いいか、属性魔法とは個人の目指した理想の形であるべきだ。私が教えるのはその入り口であり、間違いを起こさないために整地された道の進み方だ。君たちはいずれ、そこから自分の意志で外れるべき時が来る。エピンとカミルの討論はまさにその為の地固めと言える。君たちも大いに討論したまえ」
「はい!」
「よろしい。では今日は人数も集まっていることだ……少しばかり難易度の高い魔法を教えよう」
ターゲットの前に立つと、アベルは杖を向ける。何処に向けて魔法を放つのか。それを意識するうえでも属性魔法の授業では自分の杖をしっかり持つことを義務付けているが……アベルはまだ魔法を放つ気配がなく……そのまま振り返る。
「カミル。ファイアの魔法に君は打撃力の必要性を語っていたな」
「は、はい!」
「ファイアの魔法の有効射程と期待すべき効果範囲は?」
「有効射程は目視範囲ならどこまでも、効果範囲は単体です!」
「その理由は?」
「自分の制御下にある為、視界範囲であれば消えないこと。そして単体を攻撃する魔法として構築するからです!」
「その通りだ。ファイアの魔法はとにかく単体相手に確実に炎を当てる魔法として構築する。これはファイアーボールでも同じであり、爆散効果による複数への影響は副次効果でしかない。しかし、だ。学園ダンジョンに向かった者はそれだけでは足りないと感じたことだろう」
アベルの言葉に何人かが大きく頷いていた。たとえファイアの魔法でゴブリンを1体どうにか出来たとして、2体、あるいは3体といた場合には次の魔法を唱える前にやられてしまうこともある。であれば、どうするのか?
「その答えが今から教える魔法、ファイアストームだ。まあ、一度見たほうが理解は早いだろう」
改めてターゲットへ振り向くと、アベルはずらりと横に並んだターゲットへと視線を向ける。
視界内に収めるターゲットは3つ。とりあえずはそれでいい。派手にしようと全てを対象にする必要はないのだ。
「ファイアストーム!」
アベルの杖先から噴き出した炎が渦を巻き、3つのターゲットを焼き尽くす。
それぞれターゲットは離れているというのに、なんと凄まじい技だろうか?
だが、アベルは疲れた様子一つない。当然だ、少しばかり難易度が高いというのはアベルにとって「ファイアよりは少し難しい程度」という意味でしかない。
「アイスストームであれば氷結効果、ウインドストームであれば吹き飛ばし効果も期待できるだろう。各自の得意な属性に合ったものを使うように」
「先生、質問よろしいでしょうか!」
「言いたまえ」
手を上げる女子生徒にアベルが促せば、女子生徒はキラキラとした……アベルが大好きだと公言してはばからない生徒だが……キラキラとした瞳でその質問を投げかける。
「ストームとついていますが、風属性を想起させます。ですがそういうわけでもなさそうです。何故なのでしょうか?」
「簡単な話だ。魔法名とは自分の中でイメージを即座に形にするためのラベリングに過ぎないからだ。ちなみに風属性を混ぜた場合、もう少し凶悪な魔法になる。そういうものを合成魔法と呼ぶが、制御が少しばかり難しい。君たちが使うにはまだ早いだろう」
今の段階で使えば間違いなく仲間を巻き込み殺しかねない魔法だ……教わる側に相応の下地が必要になってくる。少なくとも今の段階でアベルは教えるつもりはない。
「まずはこの魔法を覚えることだ……ああ、それと。今日から取引掲示板と仲間募集掲示板がダンジョン前に設置されている。興味のある者は見に行きたまえ」
仲間。属性魔法を学ぶ生徒たちにとってはぜひ欲しいものだ。そう、具体的には。
(召喚魔法使い……! ゴーレム持ってるから壁になる!)
(呪魔法使いがいいなあ。足止めして貰えたら魔法撃ち放題じゃん)
やはり自分に足りない部分が欲しいと思うもので、彼等、彼女等の希望は大体が召喚魔法使いだ。
早速とばかりに走っていく生徒たちを見送り、アベルは残っていたカミルとエピンへ視線を向ける。
「君たちは行かないのか」
「まずは教えてもらった魔法を覚えてからにしようかと」
「俺もです」
なるほど、勤勉だ。そういう生徒はアベルとしても本当に応援したくなるのだ。
「そうか。しばらくここに居るから、質問があれば声をかけるように」
質問がなくとも、多少の改善点くらいなら指摘してもいい。
……これは贔屓ではない。勤勉な者には、相応の対応があるという……まあ、それだけの話なのだ。
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