40話:見て学ぶのも大切だ
「それは……」
リリカは思う。キリアンならミミックをどうにか出来るのは確実だろう。
けれど、それでいいのだろうか? 何かあった時にキリアンの助けを願うような自分にならないだろうか?
そう思うからこそ、リリカは迷って。けれど、キアラは迷わなかった。
「お願いしますわ、キリアン先輩」
「え、キアラさん……?」
「リリカさん。私たちは実質死んだのと同じでしてよ。なら、此処はキリアン先輩の戦い方を見る時ですわ……そうして強くなる糧にするんです!」
「強くなる、糧……」
ぎゅっとリリカは拳を握る。そうだ、キリアンの今の戦い方は剣ではなく杖。しかも防御だけであり、その動きはリリカにだって練習すれば出来るかもしれない。それに、倒し方だって。
「キリアン先輩! やっちゃってください!」
「なるほど、青春……ねえ……ちょっと分かった気がする」
「え?」
「独り言だよ。それよりよく見とけ。ミミックは見ての通り疲れるってことを知らない。しかも硬い。普通にやってたら勝てないが……魔法を使えば簡単に死ぬ」
キリアンはそこで剣を引き抜くと、嘲笑うミミックに突きつける。まあ、当然だろう。自分の身体は剣では傷つかないという自負がミミックにはある。ただし、キリアンの剣は普通の剣ではない。剣であり、杖なのだ。だから。
「ファイアボール」
ゴウ、と。剣から放たれた魔法にミミックは気付き、慌てたように跳んで回避しようとする。その動きは凄まじく、キリアンのファイアボールを多少焦げながらも回避する。
ジリジリとキリアンとの距離を測るミミックは、逃げようか考えているようにも見えて。
「とはいえ、ミミックも自分が死にそうな魔法には警戒してる。出の遅い魔法なら簡単に躱されるだろうな。とはいえ、だ」
キリアンの剣に風が宿り、吹き荒れる。魔法剣だ、と。リリカも気付く。だって、それはキリアンが自分たちを救ってくれた魔法だから。
「ストームスラッシュ」
放たれた風の刃が避けようとしたミミックにそれを許さず、命中と同時に発生した小規模の竜巻……いや、風の刃の嵐が四方八方からミミックを逃げ場なく微塵に切り裂いていく。
「こういう風に、出の早い魔法を使えば楽勝だ。出来ないなら遅い魔法を確実に当てる手段を模索すればいい」
ミミックが倒れ消え、イエンとアイテムが出現し転がる音が響いて……キリアンは剣を鞘へと仕舞う。
そのまま歩いてきてリリカに触れたキリアンは「ヒーリング」と唱える。
ただそれだけで、リリカの傷は全て綺麗に治ってしまう。
「か、回復魔法……キリアン先輩、って……出来ないことあるんですか?」
万能超人を見るようなキラキラした目を向けるリリカにキリアンは一瞬きょとんとしたような表情になって、すぐに大声で笑いだす。そんな風に言われるとは思ってもいなかったからだ。
「は、はは……ははは! そりゃ俺にだって出来ないことはあるさ! 当たり前だろ?」
「うっ……でもキリアン先輩って凄すぎますし」
自分に自信を無くしたのだろうか。まあ、リリカが魔法拳を習うと決めた時点で自分をある程度ロールモデルにしていることは分かっているから、キリアンは努めて優しくリリカへと微笑む。
まあ、頑張ってもいない奴はキリアンは気にすることはないが、リリカであればいいとは思うのだ。
「俺はちょっと先輩ってだけだよ。お前たちにもミミックを倒す程度、すぐ出来るようになる。俺が保証する」
憧れの先輩である……あり続けているキリアンからの信頼。それはリリカとキアラのやる気を倍増させるには充分すぎて。
「おす、キリアン先輩!」
「私も頑張りますわキリアン様!」
「おう、そうか。で、どうだ? あとはもう自分たちで出来るか?」
「おす! できます!」
「その押忍ってあれか。エダム先生か。ま、いいんじゃないか? 結構可愛いと思うぜ」
「えっ、あっ」
じゃあな、と言い残して去っていくキリアンだったが……結構可愛い、の部分が頭の中でリフレインするリリカは顔がみるみるうちに真っ赤になって座り込んでしまう。
結構可愛い。そういう意味じゃないとは百も承知だが、それでも嬉しい。嬉し過ぎたのだ。
「え、えへへ……」
「ちょっと、リリカさん」
「へえっ!? なんですかキアラさん!」
「リリカさんのことは大切な仲間だとは思ってますけど、キリアン様のことでは負けませんわよ」
「う、うう……私キリアン先輩のことは憧れてますけど別にそんな……」
「ちなみにライバルは一杯いましてよー。キリアン様に救われた人も噂話で憧れた人もたくさんですもの」
そんなことはリリカも分かっている。
黒の魔法剣士キリアンの名で知られていて、吟遊詩人までキリアンの歌を歌っているし勝手に絵まで売られているしリリカも持っている。
「そりゃあ、私だってキリアン先輩ともっと仲良くなれたらとは思いますけど……」
「なら座り込んでる場合ではありませんでしょう? 早く帰ってもっと強くなって、キリアン様にもっと注目して貰わないといけませんわ!」
「……おす! 私、もっと頑張ります!」
「その調子ですわ。さ、行きますわよ!」
並んで走り出す2人の姿はまさに青春で。ダンジョンの外で視界変更して見ていた白猫コアが嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らしていたとは……知るはずもないし、知らなくていいことである。
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