37話:進むのも退くのも、全部青春だよね
「だとすると、戻ったほうが良いんでしょうか?」
「うーん……」
ひとまずの成果は出した。戦闘経も宝箱も経験して、足りないものがあることも分かった。
であればキアラとしては一度戻るというのも当然選択肢に入る。
しかし、だ。戦闘そのものでは一切苦戦していない。この事実をどう捉えるべきだろうか?
「……まだいける、で引き返すのが上策というのが聞いたことはありますわ」
「そうなんですね! なら」
「私としては進むほうを選びたいですわ」
「え!? ど、どうしてですか!?」
「だって、今のところ余裕なんですもの。リリカさんが強いというのもありますけど、ロックゴーレムも予想以上の強さ……ということは、この階は私たちにとって適正なレベルではないということでしょう?」
「うーん……」
(そうなのかなあ……宝箱とかどうにか出来る人が欲しい気もするけど)
悩むリリカに、しかしキアラはクスッと微笑んでみせる。真面目に考えてくれている……その様子を頼もしく感じているのだ。
キアラはその生まれから周囲にはイエスマンが多いが、此処ではそんなものは関係ない。
そうしてこの地下1階での戦いを経て、リリカに友情に近いものを感じつつあった。
リリカさえ良ければ今後も誘おうと思っているし、そんなリリカの意見を無視したりはしない。
「何か思うところがあったら仰ってよろしいんですのよ。危険な選択であるのは事実ですもの」
「うーん……では、その。危険なのにどうして進むんですか?」
「危険だからですわ」
「えっ?」
「正確には進むべき危険と、退くべき危険の見極めですわね」
分からないと言いたげな顔をしているリリカだが、まあ仕方のないことだ。キアラとて、これは先程思いついたことだから。
「此処のダンジョンの仕様、特に生死に関することは覚えてらっしゃいます?」
「死なないんですよね?」
「正確には『学園ダンジョンでの死は本当の死ではない。しかし疑似的な死とはいえ相応の体験をすることには変わりない。決して甘く見ることなかれ』ですわ。具体的には此処で死ぬと保健室に転送されるそうですわ」
「はー……だから無理するってことですか? でも本当に死なないだけで死ぬってことですよね? あれ? でも死なないってことで……」
「死ぬほど痛いし怖いってことですわ。勿論私もそんなの嫌ですわ」
でも、と。キアラはそう続ける。
「でも、外の世界に出てから生死の関わることで間違えるのはもっと嫌ですわ! だって本当に死んじゃうんですもの!」
そう、死んでも大丈夫なんてものは外の世界には絶対にない。死ぬほどの間違いをした者は死ぬ。それが世界の定めた摂理だ。けれど、学園ダンジョンでは違う。
「此処でなら間違えられますわ。だって、これは勉強なんですから。間違えて痛いのは私たちですけれど、それを間違えていたと学べる。間違えてもやり直せる! それもこんな早いうちから感覚そのものを矯正できるチャンスなんですわよ? 安全圏を進むだけでは得られない経験ですわ!」
「お、おお……確かに私もそんな気がしてきました! 間違えても大丈夫っていうのは凄いですよね!」
キアラの演説に、輝く瞳に。思わずリリカも瞳の輝きが移ってきた気がした。
確かに、間違えるなら早いうちに間違えたほうが良い。さっきのガスみたいにだ。
「私、やります! 行きましょうキアラさん! 2階に行くんですよね!?」
「ええ、どのあたりで無茶だと思えるのか、その感覚は合っているのか! 確かめていきますわよリリカさん!」
どちらから、というわけではない。ただ、リリカとキアラは両の手の平を相手へと差し出してパアン、と軽快な音を鳴らす。
「さあ、そうと決まれば早速!」
「おす!」
歩いて、戦って、歩いて……やがて見つけ出したのは地下2階へ繋がる階段だ。
ロックゴーレムを先頭に降りていけば……そこにあったのは、地下1階とそう変わらない景色だ。
「あ、見てくださいリリカさん。2って書いてあります!」
「親切ですわね。まあ、こんな親切さなんて本物にはないんでしょうけど……」
実際、今何階層ですなんて教えてくれるダンジョンが此処以外にあるはずもない。
そういうところは本当に学習用だと感じるのだけれども。
とにかくリリカはロックゴーレムを先頭に歩かせて……カチッと。ロックゴーレムの踏んだ場所から音がする。
一体何か、と考える暇もない。ロックゴーレムの立っている場所が高速回転し、バランスを崩してその場に倒れてしまう。
「ロ、ロッくん!」
「床回転の罠……? 2階ではそんなものも出るんですのね」
むくりと起き上がったロックゴーレムにリリカが「よかったー!」と安堵しているが、何も良くはない。
「戦闘中にこんなものを踏んだら致命的ですわよ……他にも何があるか分かったものではありませんわ」
「あ、確かに目が回っちゃいますし、さっきの笑う煙も……」
「ウル先生がゴーレムの作成と召喚を最初に覚えさせたのは、こういうものに対処する意味もあったのかしら……?」
ブックマークや評価は今後の執筆の励みになります。
まだ入れていないという方も、今回のお話を機にぜひ入れていただけましたら、とても嬉しいです。
☆☆☆☆☆をポチっと押すことで★★★★★になり評価されます!




