34話:それは待ち望んでいた青春
言ってから、キアラはちょっと急ぎ過ぎたかと顔色を僅かに青くする。
なんだかんだといっても初対面なのだ。確かに学園の仲間ではあるし、そこに身分差を持ち込むつもりはないが……自分がこんなことを言われたらどうするかを考えてしまったのだ。
(私なら断りますわ……だって、いきなり苦情を申し入れてしまいましたし……ああ、もう! ですが……)
「いいですよ!」
「えっ、いいんですの?」
「勿論です! 私もイエンを稼いでおきたいなって思ってましたから!」
「あ、なるほど……」
確かにそれであればキアラとしても納得できる。学園生活において学内通貨であるイエンを稼ぐのはかなり大切なことだ。
何しろそれで良い装備も道具も手に入るし、それは学園を出てからもこれ以上ない程役に立つものだ。今後のことを考えれば、そして学園内での稼ぐ方法を考えるに戦闘系魔法使いはダンジョンを絶対に避けられない。
「それに! なんだかキアラさんって良い人そうなので!」
「えっ、なんて仰いましたの?」
「キアラさんって良い人そうなので!」
「えーと……」
「きっと良い人ですから!」
「もう言い直さないでよろしくてよ!」
「おす!」
「はあ、もう……人選間違えたかしら。いえ、でも。このくらいのほうが……?」
少なくとも素直なのは確かだとキアラは思う。下手に計算高い者や責任感の無さそうな者と組んでも何があるか分からない。初対面の相手と組むことをせざるを得ない現状では、純粋そうなリリカはキアラにとっては上等な選択肢であり、逃すわけにはいかない。
そこまで瞬時に計算すると、キアラはリリカに笑顔で手を差し出してみせる。
「では、よろしくお願いしますわねリリカさん。儲けはきっかり二等分でよろしくて?」
「それで大丈夫です!」
握手を……しようとして、慌ててガントレットを外すリリカが、後は実力があれば最高なのだが……まあ、そこはキアラもお互い様ではあるので心臓がちょっとドキドキしてしまっている。もしかしなくても現時点ではキアラのほうが弱いのだ。そこを突かれたりしたら配分が変わっていたかもしれない。
「……あの猫、学園の猫ですわよね……」
なんだか満足げな顔をしている白猫コアを見てリリカは疑問符を浮かべているが、まさか白猫コアが「初めての仲間と交渉。自分の弱さに失望されないかドキドキしながらもリリカの善性に付け込んだところに罪悪感抱いてるところ、マジ青春だよなー」などと考えているとは知る由もない。
(あー、青春っていいよね。リリカとキアラはマーキングできたみたいだし、ダンジョンの中に視点移してみようかなー。なんかイイ感じの青春見れそうな気がするんだよなー)
本当にどうしようもない白猫コアではあるが、本当に幸せそうなのでさておいて。
「じゃあ早速行きますかキアラさん!」
「ええ、行きますわよ」
学園ダンジョンは、魔法学園ヤマダの存在する学園島の地下……という設定になっている。
実際には「確かに大きいけどさ、入らねえだろこの規模のダンジョン」とキリアンに言わせる規模となっており、白猫コアは「いいんだよ、そういうもんなんだよ」と返していたりもしたのだが。
開かれたダンジョンの扉を潜り階段を降りていくと、地下1階に辿りつく。
明かりのしっかりついた明るい道は、まるで石レンガのような材質の壁で構成されていて、まるで何処かの地下通路にでも入ったかのような印象をキアラたちに抱かせるのだ。
「すごーい……これが学園ダンジョン……」
「本当にダンジョンがあるんですのね。これじゃ、まるで」
「呪いのお墓みたいだよね!」
「古城の地下通路のようですわ」
全く違うことを言い合ってリリカとキアラは顔を見合わせる。
「こじょーの地下通路って何?」
「呪いのお墓って……貴方の地元にはそんなのがありますの?」
「なんかお話で聞きました!」
お互いイメージでものと言っているので実際にそんなものを知っているわけではないのだけれど、少なくとも緊張は解けて。キアラがクスッと笑えばリリカもパッと笑顔を浮かべてしまう。
「そのお話、今度聞かせていただけます?」
「喜んで!」
「では、まずは……」
キアラは静かに息を吸うと、木製の杖で床を叩く。
集中。教わった召喚の魔法陣を思い浮かべ……魔力で床に描いていく。
大丈夫、出来る。なんども復習したのだ、流石に反射的に出来るほどではないが、間違えはしない。
「おいでなさい……ロックゴーレム」
光の中から現れた人間サイズのロックゴーレムはキアラの前に立って。リリカが「わあ、かわいいです!」と嬉しそうな声をあげる。キアラとしてはカッコいいつもりだったので不服だが「凄いでしょう?」と言うに留めていた。
「さ、行きますわよ。こんなところにずっと立ち止まってたら邪魔ですもの」
「おす!」
リリカの聞いた限りでは学園ダンジョンは極めて高度な魔法で作られた幻影ダンジョンであり、毎朝その姿を変えるし中にいるモンスターも本物ではない。
けれど、その痛みは幻影であっても本物だ。だから決して油断してはいけないと言われてはいるし油断するつもりもない。油断しなくてもやられてしまうのが実戦ではあるけれど。
それでもキアラは木製の杖を構え油断なく見回して……しかし、サッと手を伸ばして行く手を遮るリリカに反応し……明かりに照らされた「それ」を見つける。
「ゴブリン……! 来ますわよ!」
「おす! 初めての実戦……リリカ、やります!」
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