28話:売店には普通、売れると思う品が並んでいる
……さて、魔法学園ヤマダには売店がある。
場所は学園地下ダンジョンの入り口のすぐ近く、ダンジョンに入る時も入った後も利用しやすい場所だ。
基本的に魔法で在庫管理しているので巨大な倉庫の類は必要ないのだが、色んな品を展示する必要があるので結果的に大きい建物になっている。
勿論、並んでいる品も魔法で管理されているので万引きの類は不可能……ではあるけれど、折角魔法学園に入ってそんなアホなことをするようなド級のアホは流石にいない。
そんな店の中央の円形カウンターではふわりとした肩ほどまでの長さの紫の髪と同じ色のくりっとした瞳も可愛らしい女性が店番をしている。
店内に飾ってあるアイテムを見るだけで楽しそうで……しかし当然だろう。此処にあるものは全て逸品ばかりだ。学園の外でも名剣だの名槍だのと言われそうなものや高い魔力を秘めた杖、鎧やローブ、ポーションのような道具類も揃っている。
「なんだこの剣……こんなものが、こんな軽い感じで売っているなんて……」
「金を積んでも買えないものが、買える……? くそっ、こんな家宝級のアイテムが此処では大したことがない扱いなのか……!?」
「イエンだ……もっとイエンを稼がなくては……!」
値札を前に絶望したり気合を入れたりする学生がいる中で、売店の女性が見ているのは一人の生徒だった。
筋肉質な身体は戦士のそれにも見えるが、戦う者の筋肉ではない。
短く刈り込まれた金髪は、まるで髪など邪魔だと言っているかのようにすら見えて、しかし最低限の装いは整えている。白いシャツに動きやすいズボン……基本装備はつけておらず、ダンジョンに入ろうという服装ではない。
では彼は此処に何をしに来たのか? 女性の目は、しっかりと少年の視線の先を追っていた。
(ふーん……見ているのは剣。とはいえ、欲しがってるようにも見えませんが)
憧れのものに向けるキラキラとした目。けれど武器を使う自分を想像しているような、そういう類のものではない。では、一体……?
「凄いな……たぶん鉄製だよなこれ。それで此処まで出来るのか……? 一通り見たけど鋳造の品なんか一個もないぞ。焼き入れが神がかってるけど、それだけじゃない。まさか此処にあるもの全部魔法武具なのか……?」
んふっ、と女性は小さく笑う。
そう、その通りだ。此処にあるものは全て魔法武具、あるいは魔法道具だ。
勿論ピンキリではあるが、どれも価格帯に合わせて鍛造してくれた自慢の品々だ。
学習機関としては当然だが一般的には疑問に思えるそれを、少年はちゃんと疑問に思ったようで慌ただしく商品の間を行き来している。
「どうかしたんですかあ?」
「え!? あ、すみません! 怪しい動きでしたよね!?」
「んふふ、いいんですよお。真面目に見てたのは知ってますからあ。で、何をお悩みですかあ?」
女性に言われて少年は少し悩んで……言っていいのかと考えているようだが、女性が頷くと少年は「不思議なんです」と、ようやくそんな言葉を絞り出す。
「不思議?」
「此処に並んでる品々はどれも素晴らしくて、でも、なんていうか。価格にピッタリあった出来具合っていうか。それに……こう言うと変かもですが、完成してない感があるっていうか。いや、違うな……これはこれで完成しているのに強化できる余地がある、って。そう感じるんです」
(へえ……! まさかこの子、初見でそこまで……!?)
思わず女性は驚きに目を見開く。何故なら、その通りだからだ。
此処に並んでいる装備はどれも強化の余地がある。
鍛冶魔法。そう呼ばれる魔法鍛冶技術で鍛造された品々は、特定のアイテムと組み合わせ強化することで強くなり、そうすることで場合によっては付加効果を得ることだって出来るだろう。
それは後々の鍛冶魔法を学ぶ生徒たちの収入源にもなる予定だったのだが、まさかそれを違和感として察知するのは正しく才能だ。
「……ねえ、貴方。私はケイトっていいます。貴方は?」
「し、失礼しました! 俺はイヴァンです!」
「そうですかあ。師は誰に?」
「鍛冶魔法のコガンダ先生に師事したいんですが……その前に実際のものを勉強しようと思いまして」
「ふむふむ!」
実に良い学生だ、と。そうケイトは感心してしまう。事前学習が全てとは言わないが真面目で実直、たぶん地元が鍛冶屋であった可能性もあるが……単に才能があるのかもしれない。
であれば、この子は鍛冶魔法を学ぶべきだと、そうケイトは確信していた。
「ちょっと待ってくださいね~。えーと……あ、はい!」
「え? なんですかこれ……手紙?」
「紹介状です! 売店のケイトからだって言えば、無碍にはされませんよ~。ま、そういうことする人でもないですけど、ちょっとは目をかけてもらえる……かも? 努力次第で……」
「ありがとうございます! すぐに行きます!」
紹介状を受け取ってすぐに走っていくイヴァンに「頑張ってくださいねえ」と手を振るケイトだったが……自分に集まる視線に「あらあ?」と首を傾げて。どわっと集まってくる学生たちに「あららあ」と全く慌てていない声をあげてしまう。
「お姉さん! アベル先生への紹介状とかって……」
「もしかして紹介状があったらダリアン校長に師事することは……!」
「売店ではそういう品は取り扱っておりません~。出禁にしちゃいますよお?」
求めたからって与えられるとは限らない。全ては縁であったり才能であったり、真面目さだったり。
あの紹介状だって「この子才能ありそうだよ」ってだけで、凄い効果があるわけではないのだから。
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