25話:一日の終わりはぐっすり寝てほしい
慌ただしい一日が過ぎていけば、当然夜が来る。
初日から夜も頑張ろうなどという者は多くはない。何故なら、まだ自分の方向性すら決めかねているからだ。そんな状況で努力するにもどう努力すべきか分からない者も多い。
リリカのように初手で明確な師を得た者や明確な目的がある者以外は、あちこち見学してくるのが関の山だ。
……というわけで、日が沈む時間になると全員が寮に来るわけだが……魔法学園ヤマダの寮は男子寮と女子寮はしっかりと距離をおいて分かれており、かといって学習棟から遠いわけでもない絶妙な位置に存在している。
「はあ……」
そんな女子寮の部屋のベッドに倒れ込みながら、リリカは枕をギュッと握る。
信じられないくらいに柔らかいベッドと布団、そしてこの枕も……何が入っているのか分からないけど、とにかくフカフカだ。
そう、信じられない。今日一日が信じられないくらいの驚きの連続だった。
リリカの中の常識というものを全部壊して壊し切って、それでもまだ壊しに来るような、そんな一日。
(お風呂も凄かったなあ……あの猫の顔のお湯が出てくる場所、なんだったんだろ……)
その辺は「マスコットは俺なのにライオンの湯口なんてありえねー」というコアの意見によるものだったりするのだが、さておいて。
魔法の力で無限に新鮮なお湯が出続けるとかいうアホみたいな代物であるとはリリカも知る由もない。
なお無限の出所はコアの魔力だ……そのくらいなら残量1%であっても実質無限に出せる。
(ご飯もなんかすごかったし……魔法も……)
ベッドに仰向けになって天井を見上げ、リリカは自分の拳を見つめる。
自分の制御している魔力が身体を包んでいるのが分かるし、集中すれば身体を流れる魔力も自覚できる。自分の中で魔力が循環して、一切のロスなく維持されている。
「うん、ちゃんと見えてる。凄いな……たった一日で、こんな……」
これでダンジョンに行けるなんて思わないが、この調子であれば遠くないかもしれない。
そうすれば稼げて、もっと強くなって……キリアンにだって褒めてもらえるかもしれない、なんて思うのだ。
でも、まだだ。まだまだ、自分は何も出来ないとリリカは知っている。
エダムが教えてくれた、理想と現実の乖離。自分の現実は理想に全然追いついていない。
だからまだ、キリアンには会えない。もっともっと強くなって、キリアンを驚かさなければならないのだ。
(その為にはしっかり寝て明日に備えなきゃ……おやすみなさい!)
しっかり目を閉じて……ふわふわなマットレスに落ち着かなくて、でもすぐに寝てしまって。
他の部屋でも今日一日の反省をする者、明日の為に学園案内を一生懸命読み込む者……男子寮でも似たような光景がみられる中で、白猫コアはスタスタと学園の外壁に向かって歩いていく。
学園を囲む外壁はちょっとやそっとでは壊れないように作っているが、結界は張っていない。
その理由としては精霊魔法の性質上、内部を完全に閉じてしまうと精霊が出入りできなくなってしまうからだ。
だからこそ、空を飛べる者であれば入ろうと思えば学園内に簡単に入れる。
……無論、そういうことをすれば速報がコアに通知されロックオンされるし、接近時点で学園の防空網に引っかかるようになっている。そして今白猫コアが向かっているのは後者のパターンであったからだ。
「お待たせしました、コア」
「お、来たかイリシア」
精霊魔法教師のイリシア。彼女を呼んだのには当然理由がある。何故なら、海上を移動し続ける学園を追いやってきたのが……無数の精霊たちだったからだ。
「……精霊ってのは意思のない力の化身じゃなかったっけか」
「そのはずですが……」
学園の外に浮いている精霊たちは、それぞれの形をとってこそいるが……そのどれにも意志の光が宿っているように白猫コアには見えるのだ。
「……おー、こんばんは。学園に何か御用か?」
「……御用」
「そうかそうか。で、どんな御用だ?」
答えたのは、精霊の中でも一番魔力を感じる個体。恐らくは風の精霊であろうと思われるそれに向かい聞けば、風の精霊は「王」と呟く。
「お、おう。そうか、王かあ……」
(めっちゃ聞き覚えのある単語出てきた……)
エレメンタルドラゴンを精霊とドラゴンの王として定義します。顕現と共に両種族は王の誕生を本能で感じ取ります。それでも実行しますか?
コマンドを実行する時、確かにそんなことを聞かれたし流石に覚えている。
だが……意思のない力の化身に、明らかに意思がある。何故なのか?
「まさか……ですが」
「おお、流石精霊魔法教師! 何か心当たりが!?」
「コアが精霊の王として定義されたことで、その配下である精霊も影響を受けたのでは」
「そんなことあるー?」
「ある」
「え、お前が言うの?」
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