22話:求めよ、さらば教えよう。俺以外が
教わる機会がない。
分かっていながらも、それが当然でありすぎて誰もが思考から自然と外していた真実。
この世界では魔塔がほぼ全ての魔法技術を秘匿している。
ずっと、ずーっとそうだったから、今の子供たちは……いや、大人たちも「そういうものである」と自然に認識している。
魔法使いになりたければ秘伝魔法を伝えている家に生まれるか、何かの偶然で魔法を使えるようになるか。そういうことでもなければ魔塔に入らなければ魔法は使えないし学べない。
そして魔塔に入れたとしても徹底的な上下関係に疲れ切り「魔法使いもどき」の状態のまま世に出ていく者もいる。
そうした「魔法使いもどき」たちも自分の手にした僅かな魔法技術を誰かに伝えることは絶対にしない……それしか自分にないからだ。
自分が得られそうで得られなかった、権力の欠片。それをどうして他の誰かに譲り渡せるだろうか?
もどきであろうと魔法使いというだけで死ぬまで不自由の1つもない生活を送れるというのに。
勿論、それを出来る程度の魔法の実力は彼等だって持っている。
だから、そういうものなのだ。そうずっと信じてきていた。
「だが此処は魔法学園だ。いいか、エピン。君がどういう魔法使いになるかは君次第だ。努力で全てが叶うなどと無責任なことは言わないが、本人の才能と努力に応じた結果は手に入る。たとえば……こうだ」
ターゲットにアベルは五指を広げ手のひらを向ける。
一体何の魔法を放つのか。エピンも、群衆も見守る中で。エピンの喉が驚きのあまりヒュッと鳴る。
「ファイア」
レッドドラゴンの口の中でも覗けば、そんなものが見えるだろうか。
発射寸前のドラゴンブレスのごとき巨大な火球がとんでもない速さで放たれ、ターゲットを幾つか纏めて粉砕する。
「うお、熱っ……」
「余波でここまでの……!? ファイアって、ここまでの魔法ではなかったはず……!」
「その通りだ」
群衆の一人の発言に、アベルは振り向く。ただ驚くのではなく、自分の中の常識と照らし合わせる。アベルの望む正しい学習の姿勢だ。
「そこの君、名前は」
「え? はい! カミル・ネイサンです!」
「志望は」
「属性魔法です!」
「うむ。ではカミル。君の知るファイアについて説明してみたまえ」
「はい! ファイアとは赤魔塔を代表する魔法で、赤魔塔で学んだ者であれば誰もが使える魔法です!」
「そんなことは聞いていない。ファイアの魔法そのものについてだ」
「火を放つ魔法です!」
「その通りだ。ファイアとは火を放つ魔法。それ以上でもそれ以下でもない。自分の魔力を火という形に変えるからこそ、風向きに影響されず放てる……それはファイアという魔法が自分の制御下にあるという証拠でもある。では重ねて聞こうカミル。ファイアによる炎は火事を起こしうるか?」
問われてカミルは自分の記憶を掘り返す。確か以前見た赤魔塔の魔法使いが使ったファイア。あれは確か……。
「起こせる、と思います。ゴブリンが燃えていたので、当然そこから延焼することはあるんじゃないかと」
「そういう事故に聞き覚えが?」
「いえ、ありません」
「結論から言えば起こせる。しかしそうではない。そうはならない。何故か分かるかエピン?」
エピンは思わずビクリとする。知らないことだ。でも失望させたくはない。ないが……どう答えればいいのか?
「え、と……」
ゴブリンが燃えて、火事が起こらない理由。でも起こせる。その矛盾のような現象を説明できるものは。
「あっ。自分の制御下にあるから、燃やそうと思ったものは燃えても、それ以外は燃えない……?」
「正解だ」
ほうっ……と。安堵の息をエピンは吐く。背中に汗をびっしょりとかいている……よかった。そんな態度が顔にまで出ている。
「魔法とは理性の技術だ。君たちが火魔法を使う時、何もかも燃えろ……といったような、くだらんことを考えないように望んでいる。そんな火は発動した愚か者をも焼く……魔法学園で学ぶ以上は、そんなことは許さんがな」
言いながら、アベルはカミルに人差し指をクイッと動かし呼ぶ。
「カミル・ネイサン。君にも受講を許可する。こっちに来なさい」
「や、やった! ありがとうございます!」
羨ましがる声や、自分にも質問してほしいと願う声が聞こえてくるが、アベルは完全無視だ。今のカミルはあくまで例外だ。勿論、これからも例外が度々起こるかもしれないが。
「今学んだようにファイアは基本の魔法だ。だが、基本だからこそ魔法の何たるかを知り、自身の現在位置を知るには最適だ」
言いながらアベルはカミルへも属性測定球を渡す。
「……君は火と風か。よし、では今日は君たち二人にファイアの使い方をしっかりと教え込む……私が教える以上、極限まで寝ぼけていても制御失敗できないようにしてやる。有難く思いたまえ」
「ひっ……」
「は、はいいいい!」
「……いいなあ」
そんな2人をリリカが羨ましそうに見ていたが……アベルは小さく笑みを浮かべるだけで、視線を向けようとはしなかったのだ。
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