19話:教師は教える人で、生徒は習う人
アベル・オータムランド。
属性魔法教師であり、学園案内に載せる時から人気になるだろうなあとコアが思っていた男だ。
なにしろ世間的には属性魔法は花形だ。
火魔法の赤魔塔、風魔法の緑魔塔……どれも人気で、魔法使いを志すものであれば入りたがるし、一般庶民にとっても属性魔法を使う魔塔の魔法使いは分かりやすい「魔法使い」のイメージの代表格だ。
だから属性魔法全てを教えられるアベルの研究室には当然のように人が押し寄せていたはずで、エダムの発言もその証拠だった。なのに、どうして。
「どうして生徒が一人もいないんだよ……」
本棚にギッシリと本の詰め込まれた部屋にはデスクで悠々と本を読んでいるアベルの姿しかない。
生徒は何処に行ったのか? 白猫コアは猫らしい動きであちこちを動き回り、探して……やはり居ないと疑問符を浮かべながらデスクの上に飛び乗る。
「おい、生徒を何処にやったんだ? たくさん来たって聞いてるぞ?」
「生徒? そんなものは来ませんでした」
「はあ?」
何を言ってるんだこいつ、と白猫コアはアベルの本に猫パンチを繰り出すが、アベルは一瞬眉をひそめただけだ。猫パワーはかわいさだが、アベルには猫を撫でるという文化がないのだろうか?
「お前、さてはあれか! 生徒を選り好みしようってのか! そんなに凄い天才なんてのは転がってねえぞ。玉石混合っていったって、石を捨てていいってわけじゃないんだからな」
「石とて磨けば光ります。生徒という分類であれば教えるのは俺の役割です。教える師なのですからね」
「分かってるじゃん。それがなんでこんなことになってんだよ」
アベルが本をパタンと閉じてデスクに置いたタイミングで、白猫コアはその上に座り封じる。
猫が踏んだものを取ることは許されない……少なくとも白猫コア的には。
そんな白猫コアのぜったいどかないという意思を感じたのか、アベルは「ふう」と溜息をついて。
「生徒だと認められなかったからです」
「生徒だよ……何言ってんのお前……」
「生徒とは学ぶのが役目です」
「おう、そうだな」
「奴等は来るなり学園外の身分を振りかざし引き抜き工作に走りました。自分の国に来ればどうこう、とね。まあ、そういう指令を受けていたのでしょうが」
「あー……」
まあ、白猫コアにも分かる。そもそも同行者の地位を権力者たちが手に入れたのは魔法技術を持ち帰るだけではなく、魔法使いそのものを持ち帰る意味もあったのだろうから。
そんなものは込みで入学させたが、学んで良い生徒の顔をするよりも先に引き抜きに来たということだろう。
「いやあ、馬鹿だなあ。あれか? 教師を持ち帰れば家庭教師みたいでお得みたいな。出来るわけねえじゃん。強固な目的と血より濃い繋がりの集団だぞ?」
「そこは隠しているでしょう」
「まあね」
「他者から見れば私たちはタダで自分たちの魔法技術……この世界における権力の証を開示しようという集団です。メリットを提示すれば引き込みやすいと考えるのも……まあ、当然かと」
アベルとしては想定できていたことではある。
しかしまあ、初日からそういうことをするとは予想外ではあった。
仲良くする前から交渉を仕掛けるほどに馬鹿だというのは、ちょっと予想外に過ぎる。
「で、追い出したのか? 全員?」
「ええ。引き抜き交渉は受け付けない。学びたいというのであれば、属性魔法をどうしても学びたい理由を紙に書いて持って来いと伝えました。さて、今頃何をやっているかは……」
「うーん、どうかな。ちょっと見てみるか」
白猫コアは自分の視点を学園上空からのものに変えて生徒たちを探す。
学園のあちこちに生徒たちがいるが……ちょっと見て白猫コアは諦める。
「めんどっ、俯瞰視点って超疲れる。人多すぎ……あ、でもなんかリリカは検索できるっぽい」
「リリカ? ああ、キリアンが最初に招待状を渡した少女でしたね。彼女は何を?」
「エダムが教えてた。才能あるぞ、あの子」
「……ふむ。彼に気に入られるということは素直で真面目なのでしょうね。そういう生徒が此処に来るといいのですが」
「来るんじゃね? 魔法拳使うつもりみたいだし」
薄い笑みを浮かべて満足そうにしているアベルに、白猫コアは思わず白い目を向けてしまう。
「お前さ……ちゃんと紙だっけ? 持って来た奴には教えてやれよ……?」
「勿論です。平等に教えますよ……生徒のやる気と学習深度に応じて、ですがね」
「おう、そうか」
まあアベルは真面目な子大好きだから大丈夫か、とは白猫コアは思う。
口頭ではなく紙にしたのも、その真面目度を測るためであるだろうから。
トントン、と響くノックの音を聞いて、白猫コアはキリッとした顔でドアへ振り向く。本は踏んだままだ。
「入りなさい」
「はい、失礼しますアベル先生!」
入ってきたのは金髪を短く切り揃えた、真面目そうな少年だ……恐らく貴族だろうが、招待状リストにはない。同行者の誰かだろう。
「あれ、猫……」
「気にしなくていい。君は先程の集団の一人だな」
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